【ハクシツ】〜お嬢さまを溺愛する《白髪》最強執事は、魔法科学校の問題児〜

百目琳寧

序章 主人公が執事になった経緯

プロローグ

 赤ちゃんが目の前にいる。

 それが現状を表す最適な言葉だろう。


『うわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!!!ヤダヤダ!絶対!魔法科学校に行くのぉ!ヒック。アンタは私の執事しつじなんだし、大人しく言うこと聞きなさいよ!フィン・アス!のバカ!アンポンタン!女心の分からないダメダメ執事ぃっ!!! ヒック。 ウワ " ァ"〜〜〜〜〜〜〜〜〜んんん!!!!!』


「はぁ」


 泣きたいのは私のほうです、お嬢様。


 今こうして泣きじゃくっておられるのは決して赤子などではなく、国を揺るがすほどの権力を持った〈ビクトリヤ王国〉の第一王女、王位継承権で言うなら第二位に当たるほどのお方——メイ・ロンネ・ビクトリヤ様である。


 そんな王家のお嬢様たるお方が貴族が通うような学校ではなく、 "下級" 、それも欲にまみれた男どもの行くようなゴク普通の〈魔法科学校〉に突如入学したいなどと申しておられる。

 

 何か高度な意図があるのではないかとみ取りはしたのだが、『ヤダヤダ!!』とか、『行くまで絶対歯磨きしないから!!』とかでオギャーオギャー言ってる。

 

 特に銃口を向けられているとかそういうわけではないのにカレコレ一時間、ずっとこんな感じである。


「お嬢様、なぜ学校などというむらがったような時間の無駄でしかない牢獄ろうごくへと身を置きたいのでしょうか」


『いや、めちゃくちゃ言い過ぎだろ!!』


 どうやらツッコム余裕はあるみたいだ。

 

 そして真剣な顔をして、お嬢様が言う。


『ほら、私ってこれまでの人生でお嬢様学校しか行ったことがないわけじゃん? だから、普通の魔法科学校に通ってみたいなって思って……』


 お嬢様はこう見えて、これまで、各国からのエリート出身や貴族の娘など、選ばれた女性のみがつどう超ハイレベルな環境に身を置かれてきた。

 だからこそお嬢様が今さら、ゴク普通の魔法科学校に通ったところで他を圧倒するのは必然、いや絶対だろう。

 

 それどころか退屈な毎日を過ごす羽目になるのではないか? そんな心配をしてしまうぐらいには奇妙。

 

 つまり、きっと他に理由があるに違いない。


「ジー…………」


『な、なによっ!』


「お嬢様、本当にそんなしょうもない理由で魔法科学校に?」


 腹の底からツッコミたそうにしてるお嬢様だがどうやらなにか、吹っ切れた様子で言った。


『ワ、ワワワ私その…………………、 ""  というものをしてみたいの!! してみたいの!!してみたいの!!(エコーが掛かる)』


「…………………………は?」


 

 赤一色で統一されたお嬢様の部屋にふたり。

 ——沈黙が走る。



乙女おとめに最後まで言わせんなこのバカ執事!!』


「コ…………コココ、   ""   ですかァオジョウサマ!!!!私という執事がいながらも""ですかァ!!!!」


 腹の底から沸々ふつふつと怒りが込み上げる。


「…………今のお言葉で、  絶対に!    何がなんでも!! お嬢様を魔法科学校へ行かせるワケにはならなくなりマシタッッ!!!!!」


 お嬢様が膝から崩れ落ちた。


「ゼッタイ、ダメだからっ!!(ガルルルル)」


 お嬢様の体が震え始める。


『…………う、うぅ、、ウ"ワ "ア "ハァ〜〜〜〜〜〜ん "!!!!!!!』


「ふんっ!」


 知るもんかこんなワガママお嬢様。いっそこのまま赤ちゃんになってしまえばいい。


「…………。」


 はぁ。こうして足をバタバタさせているお嬢様を見ていると、私がこの人の執事になった日のことを思い出してしまう。

 


――フィンの回想

 

「おじさま見てみて!ケルベロスの群れを一掃しました!」

「おおよくやったフィン!今夜もまたご馳走だが……ちょっと狩り過ぎじゃないか?」

「えへへ」



 物心ついた頃から、私は王国の隅にある深い森の中でおじさまと一緒に暮らしていた。

 

 森での生活は基本、私が獲物を狩ってきておじさまがそれを調理する。私は生まれた時から普通の子供とは違う、特別な存在だった。


 おじさまは昔、異国の英雄と謳われるほどの実力の持ち主だったらしいが、年齢が重なるうちにかつての栄光は薄れ、私の前ではほとんど戦闘をする姿は見せなかった。

 私が狩りを好んでしていたと言うより、任されていたというのが的確なのかもしれない。


 そして、……そんな私と……おじさまとの間には……絶対に守らないといけない…………があった……。



「フィン・オリアス。おまえは世界で二人といない特別な存在だ。他の人には理解されんだろう。でも大丈夫じゃ。この森ならおまえが生きていく上でなんの不都合もない。フィン、約束してくれ。、と。 ワシと…………」


 

 もうずいぶん昔の記憶で曖昧だが、当時の私にとってこの約束は別に苦ではなかった。むしろ、ずっとこのままでも良かったのかもしれない。

 ……しかし、……私は、……決して聞いてはならないことを、……聞いてしまったのかもしれない……。



「……うん、だけど、僕は一生お母さんとお父さんには会えないの?」


「またそんなこと気にしてるのか?お母さんとお父さんにはいずれ会えると言って……」


「僕見たんだ!!……おじさまの部屋に女の人が映った写真を……。あれは誰なの?……なんで僕を抱っこしているんですか!!」



 この後おじさまが何を言ったかは思い出せない。だけど、鮮明に覚えている。いつも笑顔だったおじさまがこの時、初めて絶望する姿を見せた。自分に対する怒り、後悔のあらわれだ。


 

 ——この世界にはこんな言い伝えがある。

 ……白髪は……災の元凶……白の悪魔……滅ぼさなければいけない最悪の存在……と。

 

 

 歴史上白髪の親とその子供は何度も殺されて来た。その忌まわしい血を絶滅させるため。途絶えさせるため。

 

 

 ……でも決して無くならない、……けがれた遺伝子はあらがうように、……残り続ける……。

 ……一千年に一度の……災厄は誕生する……。


 

 おじさまとの口数が減り、これまでの充実した日々に亀裂が生まれた。

 

 私は写真に写っていたを探すため、森を出る。

 私に与えられた、使命のように感じたから————。





「『居たぞ『白髪』のガキだ!!!!!!」』

『「何がなんでも捕まえろ!!!!!!!』」



 

 よろいを纏い、剣や火矢で武装した王国の騎士らが、声を荒げ、目を赤くし、死に物狂いで私を追ってくる。

 

 殺すことは容易だった。


 しかし、そいつらを全員殺しても、白髪の女性には会えない。罪なき人を殺しても心が悲しくなるだけだ。

 私は家族のいない寂しさを知っていた。


 

 ——そして、————出逢う。



『その子から離れなさい! 何をしているの!』



 両手を広げ、私の前に立ち塞がる少女。

 ……こいつどこから。



『大丈夫、私がいるから安心して』


「……は?」


 

 少女の後ろには大勢の騎士。私の背後にもまた大勢の騎士。挟み撃ちだ。

 しかし、様子が変だった。

 


「『メイ様!!!そのガキは!!!!!!」』


『いい? 国家命令よ! この子に指一本でも触れたらアンタらの首、吹っ飛ぶから』


 

 赤くつやのある髪、ルビーみたいな大きなひとみ、腕を組みながら口を大きく膨らませて威嚇する。


 

 ————私は、お嬢様と出逢う。



「なんのために……」


『私はメイ! あなたの名前は?』



 こんな緊迫してる状況で自己紹介が始まる。こいつの目的はなんだ……。読めない。



「…………僕はフィン・オリアス」


『フィンね、分かったわ! それじゃあフィン! 助けてあげた代わりに、わたしの執事になりなさい!』


「別に助けてもらった覚えは……」


『あんたの髪、凄く綺麗だから特別よ!』



 意味が分からなかった。

 こいつは白髪の言い伝えを知らないのか?



「『「『「『メイ様!!!! な、何をおっしゃいますかッ!!!!!! その発言国王様にでも聞かれたら…………」』」』」』


「なんの騒ぎじゃ?」


「『「『「『で、デタァーーー!!!!」』」』」』


「人様をお化けみたいに言いよってお前たち」



 いかにも王様らしき男が立ちつくす。

 私と目があっても丸で殺意が感じられない。

 

 

『お父様! この子私の執事にして……』



 ——ダァアアン!!!!!!!


 

 男の姿が消える。

 空気に亀裂が入る。豪速のごとく振るうその刃は、二十メートルはあった距離を一瞬で縮め、私の首寸前に現れた——。



「いつ刃を、、」



 間一髪で攻撃をかわす。白く雪のような髪の毛の何本かは地面に落ち、額から血がポタポタと垂れる。

 あの男、とてつもなく——速い。

 


「これをかわすか」



 仕方ない戦うしか……そう思った矢先、目の前の光景に衝撃が走る。

 


「……こいつ、さっきの攻撃が見えたのか……」

 


 場違いだと思っていた赤髪の少女がわずかな空気の揺れを感じとり、男の初速に二三秒遅れて反応していた。

 

 そのまま走って男と私の間に入ってくる。

 そのままくるりと反転し、私に背を向け男に対して両手を広げる。


 

「あれ!? わたしの可愛いむすめのメイちゃん!!いつから居たの!!!! 居たなら言ってよぉ!!!!」


「……は?」

『(呆れ顔で)ずっと前からいたんだけど……』



 先ほどまでの男の姿とは打って変わっている。

 小さくなってコアラのように抱きつく男をダルそうにしながらも少女が言う。

 


『お父様! この子目鼻立ちとっても綺麗だし見たことない髪色してるの! だから私の執事にさせて!』


「えぇ!いくらメイちゃんの言うことでも!これはこの国だけのことじゃない!世界の危機につながるかもしれないからさぁ、……さなきゃいけない決まりになってるの」



 男は怖い顔をしてこちらを睨むと、ドスグロい声で言って来た。



『なにそれ!フィンは何も悪さしてないんだよ!お父様の兵に追われても一切反撃をしなかった!私見てたの!!』



 男は急に立ち直り、小声でブツブツと言い出した。



「…………我が国の信念は平等。こんな小さなガキを殺しては我が国の信念に反するか。第一言い伝えが本当かもさだかではない。わたしにならこのガキは手に負える。ならば、様子を見るのも一つの手段か。今、我が国は十分な戦力に欠けている。育てれば利益となりうるやもしれん…………」



 何かを深く考えている。

 少し沈黙が続き男は言った。



「よし、分かった。試しに王国でうことにしよう。執事でもなんでも好きにすればよい」


「……は?」


『よっしゃ!』



 ガッツポーズを決める少女。



「僕はまだ何も……」

「その代わり、少しでも娘、王国に危害を及ぼそうとしたら秒でお前の首を切る。次は確実だ」


「だから僕は……」


 

 正直あきれた。隣に目を輝かせながら小声で『やったね!』という少女がいたとしても。

 しかし、私にとってもこれは都合が良かった。ここで生活していくうちに白髪の女性を探せる。おじさまには急にいなくなって申し訳ないけど、追ってこないってことはそう言うことだ。それに、帰ろうと思えばいつでも帰れる。


 どうせすぐ、この場からは逃げ出すつもりだった。

 

 ——なのに、、……どうして、、……あの日から私は……お嬢様に忠誠ちゅうせいを誓い……王国のいち兵士として……この〈ビクトリヤ王国〉で……お嬢様の執事を……しているんだ……!!

 

 常に監視役が付いているし、もしお嬢様に危害を加えたら身動きが取れなくなる特殊な首輪だってついている。こんなの奴隷みたいじゃないか。


 正直、お嬢様のお世話をする義理なんて一つもなかった。でも、——見捨てれない。……私は随分と前から、……この人に……狂わされている……。執事であるはずなのに、……ドキドキだってしてしまう…………そう、——私はいつからか、……お嬢様に…………いや、お嬢様の隣が良いと……思ってしまっている————。




「……はぁ。……お嬢様、仕方ないですね。私はあなたを命に代えて守ると誓った身分…………学校、行きたいですか?」


『(ぱぁ!と笑顔が咲いて)うん!!行きたい!!!!』



 一瞬にして泣きんだお嬢様は、とても嬉しそうに言った。



「た だ し  "" とかは認めた訳じゃないですから……」


『ニシッ はいはいわかったわよーてか、フィンくぅーん?アンタ私のこと、、好きすぎじゃなぁい?W』



 すっかりご機嫌のお嬢様は悪い笑みをして言う。



「なっ!!!! ちがっっっ!!!!!!!」


『隠さなくていいよ!バレバレだからW さぁはやく!お父様のところ行くわよ!』


「誤解だ!! ちょ、お待ちくださいーーーーッ!!!!!」



 


 お嬢様は笑顔をチラつかせながら逃げているので、私も笑顔で追いかけます。

 この日常がたまらなく愛おしい(?)のだ————。

 

 

 この物語は…………お嬢様と……執事のフィンが…………になるまでのお話を……書いていきます。……そして感動の……も…………乞うご期待!


         序章 完




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