元悪役令嬢、ただいま小説執筆中です! 〜ですので、邪魔しないでいただけます⁉︎〜

衣末

第1話

「ヴァイオレット・スプリング公爵令嬢。君との婚約は破棄させてもらう」


舞踏会場に男の声が響いた。

今日は、卒業を祝う舞踏会。私もこの舞踏会を楽しんでいる筈だった。それがどうだろう。たった今婚約者に婚約破棄を宣言されている。意味がわからない。なぜ自分が婚約破棄を求められねばいけないのか。


「エドワード様、どういうことです⁉︎」


私はエドワードに尋ねる。第一王子エドワード殿下。我がフローラ王国の王子で私の婚約者。整った顔立ち、美しい金髪碧眼の持ち主である彼は、まさに絵本の王子様そのもの。


「どうもこうもない。私は君と婚約を破棄すると言っているんだ」


エドワードがなんでもない様に言う。いや、どうもこうもなくないんです。


「なぜ私が婚約破棄されねばならないのですか?納得いきません。しかもなぜ、エドワード様の隣にリース伯爵令嬢がいるのです⁉︎」


私は怒鳴る。だって、婚約破棄を言い渡された上に、その婚約者の隣には別の令嬢がいる。怒って何が悪い。

マーガレット・リース伯爵令嬢。リース伯爵家の三女で、先日聖魔法が使えることがわかり、聖女として神殿に認められたそうだ。

以前からマーガレットがエドワードと仲が良かったのは知っていた。何なら、エドワードの心が彼方に傾いているということも。それでも私は何も言わなかった。愛し合っていた訳じゃないけど、長年の婚約者を捨てたりする事はないだろう。マーガレットとは、別れるなり側妃に召し上げるなりするだろう。そう思っていたのだが…


(それがこの仕打ちなのね…)


思わず、舌打ちをしそうになった。


「解らないのかヴァイオレット。仕方ないから教えてやろう。まず一つ目、ここにいる聖女マーガレットを不当にいじめたこと。二つ目、聖女マーガレットの暗殺を企んだ事、また実行したことだ。マーガレットは助かったが、悋気で暗殺などを企む者を王子妃にはしておけん」


エドワードは淡々と話す。だが、どれのこれも身覚えがない。濡れ衣だ。


「濡れ衣です」

「言い訳するな。こちらには証拠もあるんだ」


そう言って紙を私に突きつける。内容に目を通すが証言がほとんどだ。しかも、いじめの内容がドジやらかしたマーガレットに注意した事が、あちらの都合よく変換されてるし。


(暗殺未遂の証拠ないわ)


「恐れながら、これは証拠になるのでしょうか?見たところ証言が半数以上をしめていますし、暗殺未遂の証拠がリース伯爵令嬢が飲んだお茶から、毒が見つかっただけ。我が家には、調査の一つもきませんでしたよ?」

「ふんっ、証拠が偽りとでも言いたいのか。言い訳は見苦しいぞ、この『悪女』が」


ぷつんっ


エドワードのその一言に、私の中で何かが切れた。もう彼の目にはマーガレットしか映ってないのだ。


(もう私の言葉なんて届かないのね…)


その事実に、私の中にあったエドワードへの情は失せた。そして私は手にしていた扇子を閉じ、言葉を紡ぎ始める。


「婚約破棄に浮気、濡れ衣、一方的な罵倒。私の話を聞かず、更には悪女とまで言いますか」


笑え。周りを圧倒するまでの美しさで。この顔が、私が一番美しく見える角度で。仕草で。


「あなた、正気ですか?」


そうエドワードに向かって言い放った。

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