第10話始動
「本日付けで配属されましたエルウィン・シュトラウスです。よろしくお願いします!」
「同じく本日付けで配属されました、コーネル・ローレンツです!よろしくお願いしますっ!」
ブレイヴナイツへと合流初日、皆の前に立つ男に促され、挨拶をする二人。さすがに歴戦の騎士の集まりだけあって、その場の雰囲気は見習い騎士時代も含め、これまでに二人が感じた事のない類いのものであり、多少なりともそこには緊張が伴った。
「ようこそブレイヴナイツへ。自分達の希望通りの配属が叶ったわけだから、当然ここがどんな所かは、ある程度わかっているとは思うが・・・」
二人に挨拶を促した男は、ブレイヴナイツ副隊長チェスター・ドーキンス。二人の出身国とは離れた国、エーゲルス出身の騎士だ。
「ここは対魔女狩りの最前線である。俺達は地域や国に縛られる事なく、常に各地を転々とし、必要とされるならどんな所へでも迅速に駆けつけ、事態の収束を図るための遊撃隊だ。この隊における決まり事はたった二つ、一つ、上長の命令は絶対厳守。ま、これはどの隊でも基本だ。二つ、隊員同士剣を交える行為の禁止。意見のぶつかり合いは大いに結構、だが抜剣は断じて許さん。この二つさえ厳守したのなら、隊員間では上も下もない。気付いた事があれば新入りでもどんどん意見をしてくれ。俺達の環境は常に死と隣り合わせだ。そこに遠慮してたら、命はいくつあっても足りないからな。何か質問はあるか?」
「あの・・・いいですか?」
恐る恐る手をあげるエルウィン。
「なんだ?」
「この場にいる人で・・・全員ですか?」
「そうだ。何か問題が?」
「僕達二人を含めて、11人しかいないのですか・・・?」
チェスターが答えようとした時、扉の外から声が聞こえた。
「俺も含めて12人だよぉ。」
その声の主が扉を開け中に入ってきた瞬間、副隊長のチェスター含め、エルウィンとコーネル以外の全員が、胸の上で拳を構えた騎士団式の敬礼を行い、その様子を見た二人も慌ててそれに追従した。
「やぁ、遅くなって悪かったねぇ、えーと・・・新人二人は、エルウィン君とコーネル君・・・で、合ってたよね?」
物腰柔らかそうな、と言うよりは、どこか適当さ、だらしなさをも感じさせる雰囲気ながら、二人の背筋には冷たいものが走る感覚があった。それはこの男の発する俗に言う、気のようなものがそうさせている他なかった。
「一応この隊の隊長を任されてるジェラルド、ジェラルド・アルベルティだ。よろしくなぁ。」
「「よろしくお願いします!」」
二人揃って頭を深々と下げる。
「さっきの質問なんだけどさぁ。エルウィン君は何でこの隊の人数が気になるの?」
「・・・はい。」
少し戸惑いながら続けて問いに答える。
「遊撃隊として、ブレイヴナイツは最前線で魔女狩りとの戦闘を余儀なくされているのですから、ある程度は纏まった人数が必要であると思っていたのです・・・。ところが12人というのは異常に少ないな、と。この人数では取れる作戦等が少ない気がしたのですが・・・。」
「そうだねぇ・・・。確かに12人と言うのは少ないかもねぇ。まぁ遊撃隊とは言っても俺達は普通の遊撃隊とはまた少し違って、特殊である事は確かだよ。敵さんがやってくる事に対して、同じ事を先制してやるようなもんだからね、隊の人数が多すぎると動きが遅くなる分、相手に察知されやすくなる。それに・・・数を揃えようと思えばどうしたって能力の劣る者が入ってきちゃうよねぇ。能力が低い者が加わると、戦闘でそいつらは傷を負う可能性も高くなるし、負傷者を抱えた隊は遅くなるから、さらに動きは察知がされやすくなる・・・ってな感じかなぁ。まぁ味方を切り捨てるような選択は出来るだけしたくないのが本音だし、一応各国から選りすぐりの騎士が集まってるこの隊では、多対一の戦闘においても個の力で切り抜けられる戦闘能力が最低限の条件だよ。君たち二人は見習い時代に動きを見させてもらったけど、どこで習ったのか剣の実力は他を圧倒していたし、どの隊に配属してもエース級の活躍が期待できる逸材だった。ま、さらに配属先の決まるタイミングも良かった事もあってね。」
「配属のタイミング・・・ですか?」
「うん。まぁ先日の遠征で亡くなった隊の騎士二人の補充要員を探してたタイミングと合致したのよ。」
それを聞いた瞬間、二人の顔が強張る。
その様子を見て少しだけニヤリとするジェラルド。
「実感したね?・・・死を。でもまぁ正解でしょ。軽く考えてる奴ほど、いざ死が迫ると動けなくなっちゃうのが多いからね。他者の死をすぐに自分の身に置き換えて考えられる奴は貴重なのよ。それを常に忘れちゃダメ。他にはあるかな?ん?」
ジェラルドの問いに今度は首を横に振りありませんと意思表示するエルウィン。
「なければチェスター。次の任務についてよろしく。」
再び名指しされたチェスターは軽く頷くと再び口を開く。
「俺達の次の動きだが、イリア国へ入る。そこでイリアのセントラル、ローマンに入りそこから雷の魔女、ベルナデッタ・ローズの護衛に入る。」
魔女の名前が出ると歴戦の猛者であるブレイヴナイツの面々に少なからず動揺が見られた。が、それも当然の事。
魔女にはエネルギー変換量に応じたランクというものが存在しており、1から5まである。魔女の多くはランク1であり、ランクの数字が上がる程、そこに属する人数が少なくなるピラミッド型なのだが、その頂点ランク5に属する魔女にいたってはそれぞれの属性においてたったの一人なのである。
エルウィンの母親アネットは、火の魔女のランク3と比較的高いランクなのだが、一方でこのベルナデッタ・ローズは雷の魔女としてそのランク5に位置していた。
そのエネルギー変換量は莫大なものであり、何を差し置いても、優先保護対象となる。
各国には持ち運びが不可能な超大型の魔蓄瓶があり、そこからさらに小型の魔蓄瓶や、一度に大量のエネルギーを必要とする魔具へと供給しているのだが、その超大型魔蓄瓶へは魔女による直接のチャージが必要で、雷エネルギーは主に遠方の地との交信や、民衆の交通の要となるもので、火や水のライフラインとは異なる意味で、魔法革命における利便性向上の象徴とも言えるエネルギーであった。
「これはローマンのガーディアン本部からの要請だ。最近イリアでは魔女狩りが多発していて、国内のガーディアンはその対応だけで手いっぱいの状況が続いているとの事。ところがそんな状況下で超大型魔蓄瓶へのチャージ依頼が入った。これの依頼主はイリア隣国、フレンツの主要都市マリシェイユを治める領主グレゴワール・オベール公爵だ。フレンツ国第二の都市であるマリシェイユ、そしてフレンツ国王のすぐ下でその信頼も厚いオベール公爵の依頼、さらにはエネルギー不足による通信、交通のインフラ停止の危機とあってはこの状況下においても無碍には出来ないとの判断で、最終的にブレイヴナイツへの要請がきたわけだ。国間移動も生じるため、この機に乗じて魔女狩りに狙われる可能性はかなり高い。もちろん、この任務にしくじるような事があれば、ランク5の魔女を失う事になり、世界的にも非常に大きな損失となる。この任務には万が一の失敗も許されない。失敗する時は、ここにいる全員が死んだ時だ。」
チェスターがここまでの概略を説明すると静寂とも言える無言の時間が少しの間空気を支配した。その少しの沈黙を破り、一人の騎士が口を開いた。
「・・・大丈夫っすか?本当に。見習いから昇格したての新人を二人も抱えてランク5の護衛なんて出来るんすか?」
それを聞いてチェスターが問いただす。
「何が言いたい?トーマ。」
「俺はガキ共のお守りをして死ぬのはごめんだって言ってるっす。」
ピリッとした空気が流れたかに思われたが、すかさず周囲の騎士達から
「自分より年下が入ってくるって喜んでたじゃねーか?」
「お前が小さいからって背の高い後輩に嫉妬してるんだろ?」
などと、冷やかしに近い突っ込みが入り、顔を赤らめて反論するトーマ。
「っっ違うっての!そんなんじゃ・・・」
続きを遮るようにジェラルドがトーマに言葉をかける。
「トーマ、お前フレンツのマリシェイユ出身だったよなぁ?」
「・・・っすけど。」
「今回の作戦は土地勘のあるお前の存在が重要だぞ?だから俺とチェスターは十分な勝算を持って引き受けたんだ。新人二人を活かすも殺すも、お前次第かもな。先輩、なんだろ?」
「・・・っす。」
新入りの自分達を敵視してくる厄介な先輩かと思って身構えていたエルウィンだったが、周囲の反応的にどうやらそうではなさそうだと、ホッと胸を撫で下ろす。
「出発は明朝6:00だ。早いから今晩はゆっくり寝ておけ。特に、新人二人は気を張り過ぎて眠れなくて遅刻なんてドジは踏むなよ?イリアに入るまではそう心配する事はない。リラックスしとけ、それでは解散。」
チェスターの解散の言葉で、いの一番にコーネルがトーマに駆け寄る。周りはさっきのトーマの発言で初日から新人が喧嘩を吹っ掛けに行くのか?と興味津々で見ていたのだが
「先輩っ!!心配してくれてありがとうございますっ!わからない事だらけですがよろしくお願いします!」
まさかの挨拶に拍子抜けしていた。
「・・・うるせぇ。心配なんかしてねぇ。コーネル・・・だったか?この隊に足手まといはいらねーぞ。」
皆と比べても明らかに小柄のトーマが、人一倍背の高いコーネルに偉そうに振る舞う姿が他の騎士には可笑しいらしい。
「おいトーマ!どっちが先輩かわからんな」
「良かったな、可愛い後輩が出来て!」
「あーもう!うるせーな!シッシ!」
からかわれても、嫌そうな表情の中に、どことなく嬉しそうな反応が見え隠れしているトーマに、親しみを感じたエルウィンは自身もコーネルに続いて話しかけ、笑顔で握手を求めた。
「改めまして、エルウィン・シュトラウスです。コーネル共々よろしくお願いします。」
差し出された手をしばらく見つめ、舌打ちしながらそっぽを向くも、手を握り返してくるトーマも、ボソッと自己紹介をする。
「トーマ・ディドロ・・・。」
それを見ていた周りの騎士達も、次々と自己紹介をしてくる。
ジェラルドとチェスターはそんな隊の面々を優しい笑みを浮かべながら見つめ、二人揃って部屋を出た。
「さすがに、トーマの奴をうまくのせましたねジェラルドさん。」
「うーん?土地勘が必要なのは本当だけどね。まぁ、トーマも口が悪いだけで根はいい子だからねぇ。年も一番近いし、あの二人が入った事でもっと彼も良くなるといいねぇ・・・。さぁ、これからが大変よ。もう一度ルート含めて確認しておこっか。」
「はい・・・。そうですね。」
すぐさま気を引き締め、表情も真剣になる二人の姿は、明日からの任務の重要性を改めて物語っているのであった。
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