美少女……幽霊?

minonライル

第1話

「いてて……ッ、あれ、なんでここに……」

 激しい頭痛が襲い掛かる。

 そんな中目を開けると、ぼやける視界が捉えたのは——保健室だった。

「……」

 あたりを見回すが、養護の先生の姿が見当たらない。

 というより、なぜ自分は保健室のベッドに横になっているのだろう。

 一旦落ち着いて、過去の記憶を振り返る。

 けれど、保健室を利用するような出来事は、記憶上には無かった。

「うーん……」

 目をつぶってさらに思い出そうとするも、そんな思い当たることはない。

 段々と頭痛が和らいでいく。

「……生徒の声もしないな」

 思えば、養護の先生どころか、生徒たちの騒がしい声が聞こえなかった。

 ふと壁掛け時計が目に入る。

「……6時……?」

 恐らくこれは、午後6時という事だろう。

 その証拠に、外が少し暗くなっていることが確認できる。

「まずい……早く、帰らないと」

 こんな遅くまで学校に残っていいはずがない。

 ベッドから降り、保健室の扉に手をかける。

「誰もいない……」

 扉を開けた先は、薄暗い廊下が続いていた。

 生徒を保健室に残して、他の先生たちは帰ったのだろうか。

 とにかく、ここにいてはマズイ。足早に昇降口へと向かう。


「——そんなに慌てて、どうしたのぉ?」


「……ひッ!?」

 背後から声をかけられた気がする。

 相馬海斗はすぐに立ち止まる。

「ねえ……」

 ねっとりとした声。

 そして——背中が少し冷たい。

「……な、なんだ……ッ」

 恐る恐る後ろを振り返ってみると、誰いない。

「……は?」

 そこには薄暗い廊下が伸びているだけだった。

「どこ見てるの?」

「……!」

 今度は右側から。

 しかも、かなり近い距離で聞こえた。

「だ、誰なんだ!?」

「私?……見えないの?」

「……?」

 右側を見る。

 けれど、そっち側は壁だ。

「…………」

 それっきり、声はしなくなった。

「な、なんだったんだ……」

 あの声は、一体何だったのだろう。

 恐らく、この頭痛のせいだ。

 早く帰って休もう。

 そう思いながら昇降口へと到着する。

 靴を取り出して玄関を開ける。

 が。

「え……」


 ガチャ。ガチャ。


 開かない。

「……鍵はかかってないよな」

 鍵は確かに開いている。

 けれど、何度やっても扉が開かない。


「——こっちだよ」


 またさっきの声だ。

 今度はかなり遠くに聞こえた。

「……」

 海斗はその声がする方へ向かった。


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