第62話
ステファンが力を使い続けるフランソワーズを気遣うように声をかける。
「フランソワーズ、大丈夫か?」
「わたくしは大丈夫です。ステファン殿下にも影響はないようですが……」
「ああ、俺はずっとこの状態で過ごしていたから特には何も感じないよ」
「……!」
ステファンも悪魔の呪いを受けて、自分を抑えていたことを思い出す。
どうやら街の人たちも悪魔の宝玉の影響で、以前のステファンと同じで攻撃性が増して暴れ回っていることが原因のようだ。
「フランソワーズが救ってくれなければ、俺もこうなっていたかと思うと恐ろしいよ」
「ステファン殿下……」
「フランソワーズ様がいなければいなければ我々はどうなっていたか……」
「ステファン殿下の精神力の高さに今更ながら驚かされます」
イザークとノアは額に浮かぶ汗を拭いながらそう言った。
フランソワーズの力を使うごとに楽になっていく感覚があるらしい。
二人にフェーブル王国に帰るように勧めたステファンだったが
「お二人を必ずお守りします」
「ステファン殿下には負けていられませんから」
と、心強い言葉をくれた。
フランソワーズは教会に立ち寄りながらなんとか過ごしていた。
教会には近づけないのか、中に逃げ込んだ人たちは無事だったようだ。
食事と寝る場所を提供してもらいながら王都を目指した。
恐怖に怯える人たちを見て、フランソワーズの心は大きく揺さぶられていく。
フランソワーズが宝玉を穢そうとした時は、ここまで大きな影響は出ていなかった。
(急がないと……時間はあまりないみたいね)
イザークやノアに力を込めつつ、ステファンのおかげで街を抜けることができた。
王都に近づくに連れて、昼も夜も関係なく暴れ回っている。
暴徒化した街の人たちを傷つけることなく、意識を失わせていく。
四人で馬に乗り、街から街へと移動していく。
フランソワーズだけだったら、シュバリタイア王国の王都まで辿り着くことは不可能だったかもしれない。
五日後、なんとか王都を抜けて城へと到着した時には城の上に明らかに不自然な暗雲が立ち込めていた。
城の床には、倒れて意識を失っている人たちがたくさんいた。
赤い絨毯の上にはガラスの破片が散らばり、窓は割れて生暖かい風が吹き込んでくる。
城の壁もところどころ、ひび割れていて今にも崩れ落ちそうになっていた。
シュバリタイア王国は崩壊寸前。フランソワーズはその景色を見て絶句していた。
そんな中、シュバリタイア国王や王妃が傷だらけで立ち尽くしている姿が見えた。
フランソワーズと目が合うと泣き叫びながら、こちらに駆け寄ってくる。
しかしそれをステファンやイザーク、ノアが剣を向けて制す。
二人は剣を見て、引き攣った声を出して足を止めた。
ステファンはシュバリタイア王国を救う条件やフランソワーズのことについて確認しているようだ。
シュバリタイア国王と王妃は何度も何度も頷いている。
二人の後ろからセドリックはフランソワーズを見て目を見開くと「フランソワーズ……俺のためにっ!」と、嬉しそうに歩いてくるではないか。
フランソワーズが一歩、後ろに下がるとステファンがセドリックに剣を向ける。
「ヒッ……!」
「フランソワーズに近づくな。二度はない」
ペタリとその場に座り込んだセドリックは頭を抱えている。
地面に額を擦り付けながら「助けてくれ」と壊れた機械のように繰り返していた。
自分の行いを心から反省しているようにも見えるが、保身のためだろう。
倒れている人たちを気にしていないことがその証拠だ。
三人の精神状態はとても悪いように見える。
王妃は二人に力を使い正気を保っているようだが、それすらもギリギリに思えた。
王妃は乾いた唇を開いて現状を説明しはじめた。
今はなんとマドレーヌに宝玉がある部屋から締め出されてしまったそうだ。
そして、中に入れずにいるらしい。
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