第24話


ここ数日で、ステファンの色々な表情を目にしているような気がした。

無事を確かめるように触れている彼の手に、手のひらを重ねるようにして這わせた。



「フランソワーズ、大丈夫か?」


「……は、い」



フランソワーズは頷くと、次第に視界がぼやけていく。

そのまま意識を失うように眠りについた。



どのくらい時間が経ったのだろうか。

次に目が覚めた時にも窓の外は明るく、太陽が輝いていた。

フランソワーズはズキズキと痛む頭を押さえながら、起き上がるとシーツが抑えられている感覚がして視線を向ける。

黒い艶やかな髪が真っ白なシーツに散らばっていた。

ステファンがベッドにうつ伏せになるようにして眠っている。


(どうしてここにステファン殿下がいらっしゃるのかしら……)


もしかしたらフランソワーズに付き添ってここにずっといたのかもしれない。

それを裏付けるように、サイドテーブルには本や資料が置かれていた。

フランソワーズは起こさないようにとベッドに足を下ろす。

テーブルの上に置かれたウォーターポットからコップに水を入れてゴクゴクと飲んでいた。

宝玉が置いてある祈りの間には、いつも水や軽食が置いてあることを思い出していた。


ふと、壁にかかっている鏡に映る自分の姿を見てフランソワーズはある違和感に気づく。

ボサボサだった髪も艶が戻り、サラサラになっている。

簡素なワンピースも、上質なシルクの寝間着に着替えていた。

汗ばんでいた体は綺麗になっており、肌がもちもちしていて気持ちいい。


コトリとコップを置いた音で、ステファンが目を覚ましたようだ。

彼はフランソワーズの姿を見て目を丸くしている。



「フランソワーズ……?」


「ステファン殿下、お体は大丈夫なのですか?」


「フランソワーズ、目が覚めたのか? 体調は大丈夫なのかっ!?」



肩を掴まれあるようにして問い詰めれたフランソワーズは驚いていた。

体を引くとステファンに壁の間に挟まれてしまい逃げ場がなくなってしまう。

思わず両手を上げて、ステファンを落ち着かせるように声を上げる。



「落ちついてくださいっ、ステファン殿下! わたくしは大丈夫ですからっ」



声が届いたのか、ステファンはハッとした後にフランソワーズから距離を取る。



「すまない……心配で」


「……いえ、心配してくださりありがとうございます」


「目が覚めて……本当によかった」



ステファンの手から力が抜けていく。

どうやらかなり心配をかけてしまったようだ。

ステファンの目の下に刻まれた隈を見て、手を伸ばそうとした時だった。



「ステファン殿下……」



名前を呼んだ瞬間、フランソワーズのお腹からグーッと音が鳴る。

あまりにも大きな音にフランソワーズの顔が、真っ赤に染まった。



「あ、あの……」


「お腹が空いたのだな」


「…………はい」


「すぐに食事は用意させる。フランソワーズはここで待っていてくれ」



そう言ったステファンはすぐそばに控えていた侍女を呼んだ後に食事を用意するように指示を出す。

それからフランソワーズを椅子に座らせると、ステファンは手を優しく掴みながらその場に跪いた。

真っ直ぐにこちらを見つめる瞳にフランソワーズの心臓はドクドクと激しく音を立てていた。



「ステファン殿下?」


「改めてお礼を言わせてくれ。フランソワーズ」


「え……?」


「フランソワーズは僕たちの命の恩人だ」



ステファンのその言葉で、フランソワーズは改めて自分の祈りで悪魔を祓えたのだと実感した。

フランソワーズは一日中、祈り続けていたそうだ。

宝玉を抑えるために半日ほど祈り続けることはよくあることだが、丸一日祈り続けたのは初めてだった。

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