第6話
マドレーヌの味方をしていた令嬢たちも焦りを滲ませる。
話を合わせようとコソコソと何かを話し合っていたが、セドリックの指示を受けた騎士たちによって、すぐに別室へと連れて行かれてしまう。
戸惑うマドレーヌにフランソワーズは笑みを深めた。
(今までわたくしが何もしなかったから油断していたのね)
だが余程のことがない限り、フランソワーズの身の潔白は明らかになることはない。
セドリックはフランソワーズを一方的に悪だと信じているからだ。
「この罪が認められた時、お前は地べたを這いつくばって謝罪することになるぞ……!」
「別に構いませんわ」
「……なっ!」
冤罪が明らかになっても、罪を被されてもどちらでもいい。
フランソワーズが出て行った後ならば
「はっ……その余裕もいつまで続くのか」
「いつまででも続きますわよ? だってわたくし、マドレーヌに何もしておりませんもの。この子に興味を持ったことすらありませんわ」
「なんだと……?」
フランソワーズの余裕のある表情に、セドリックもさすがに違和感を感じているようだ。
まだマドレーヌの言いなりになるほど、落ちぶれてはいないらしい。
「それに、わたくしにここまで言うということは国王陛下とお父様に話を通していると考えてよろしいのですよね?」
「……っ」
「まさかこれはお二人の独断で? まぁ……随分と大胆ですこと」
フランソワーズの問いかけに、セドリックは苦虫を噛み潰したような表情で視線を逸らしてしまった。
「お、お父様やお母様だって、わたしの味方をしてくれるわ!」
「あら、そうですの」
フランソワーズはベルナール公爵と夫人に視線を送る。
しかしマドレーヌが、こんなことをするとは知らなかったのだろうか。
厳格な父もマドレーヌとフランソワーズを交互に見つつ戸惑っているように見える。
(物語ではこの段階でお父様や国王陛下の許可もあったはず……やはりマドレーヌは焦りすぎたのね。完璧な証拠を用意しないあたり準備不足は否めないわね)
フランソワーズは小さく息を吐き出した。
そしてあることを問いかける。
「それと何も学んでいないマドレーヌが〝アレ〟を守りきることができるのでしょうか? 今まで一度も祈りを捧げたことはありませんが」
アレとは悪魔の宝玉のことだ。
他国には事情を伏せているためアレと言ったのだが、シュバリタイア王国の貴族たちには十分伝わるだろう。
「はっ……やはりマドレーヌの聖女の力に嫉妬しているようだな。だがマドレーヌが完璧にこなせると言っていた。問題はない」
「当然です! わたしはフランソワーズお姉様よりもずっと完璧にこなせるはずだわ」
「あら……すごい自信ね」
マドレーヌは宝玉の話を聞いて、表情が明るくなり自信満々に話している。
たしかに物語のマドレーヌは、聖女としての力で危機を脱して、悪魔の宝玉は砕け散ってなくなったことでシュバリタイア王国が平和になった。
だが、今のマドレーヌにそれができるとは思えない。
彼女は周囲の人たちを掌握することに忙しく、聖女の力や宝玉については何も勉強していないはずだ。
小説のマドレーヌは困った人たちを救おうと勉強熱心で、心優しい少女だったことを思い出す。
(何もしていなくても、小説通りにすれば大丈夫だと思っているんでしょうね)
シュバリタリア国王や王妃は今はこの場にいない。
セドリックにこのパーティーを任せて別室に待機してる。
このパーティーは十八歳になるセドリックの力量を試すための場でもあるのだ。
(だからこそこのタイミングを選んだのね。国王陛下と王妃陛下はわたくしがいなくなってからどうするのかしら。彼を庇う? それとも……もうどうでもいいけど)
フランソワーズは、フッとマドレーヌを見て鼻で笑う。
それにフランソワーズの父と母も会場でこちらを見ているにもかかわらず、フランソワーズを助けようともせずに黙ったままだ。
(やっぱりマドレーヌの味方なのね……わかっていたことだけど)
フランソワーズの心がズキズキと痛むような気がした。
この会場で、フランソワーズを庇う声は一つも聞こえない。
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