第4話
成長してから会社員として働き始め、通勤途中に小説や漫画を読むことを楽しみにしていた。
そんなある日のこと。高熱が出て倒れたことまで覚えているがその後の記憶はない。
フランソワーズが記憶を取り戻したのは、マドレーヌと出会った瞬間だった。
暫くは彼女の記憶と前世の記憶が混ざり合って混乱していたが、ここが読んでいた小説の物語の中だと思い出す。
物語では描かれてはいなかったが、フランソワーズの今まで体験してきた痛みや苦しみは想像を絶するものだった。
体調不良で寝ていたいと訴えかけたとしても、当然のように『義務』だからと宝玉の前に引き摺られていく。
それには悔しくて血が滲むほどに唇を噛んでいた。
周囲もそれが当然だと思っていて、フランソワーズを労う言葉すらない。
そんな状況とフランソワーズの気持ちを知ってしまえば、ここで幸せになれないことはわかっていた。
フランソワーズはマドレーヌにすべてを渡してさっさと国を出て行こうと決意する。
この段階では父やセドリックとの関係を修復することはできはしない。
ただ、何もしないまま物語の終わりを迎えるのだけは嫌だった。
(せめてもう少し早く思い出せていれば……なんて悔いても仕方ないわね。今できることをやらないと)
だが、そこでマドレーヌの性格が大きく違っていると気づいたのだ。
(わたくしと同じで前世の記憶を持っているのね。それにこの小説の内容も完全に理解しているみたいだわ)
そう気づいてしまえば、マドレーヌの行動も意図的で計算だと感じてしまう。
もうフランソワーズにできることは限られていた。
フランソワーズがマドレーヌを虐げないように注意を払って……と考えている間になんと勝手に『フランソワーズに虐げられている』と、自作自演を始めたのだ。
それも小説通りに。
あまりのことにフランソワーズが呆然としている間に、まるで物語を早送りしたような状態で進んでいく。
(これは……あんまりいい状況ではないわね)
フランソワーズは直感的に自分が前世の記憶を持っていることをバレないようにしなければと思った。
バレたらもっと面倒なことになるからだ。
当初、フランソワーズが死刑になるまで二年はあると思っていたが、あっという間に終盤になってしまった。
マドレーヌは順当に周囲の人物を掌握していく。
まるでそうなることが当然だというように……。
未来を読むかのように効率よく重要人物を味方につけていった。
結果的には二年ほどかかる物語を半年ほどでクライマックスに持ち込むほどだ。
相当、小説を読み込んでいたのだろう。
(あなたがそうくるなら、わたくしも早く動かないとね)
フランソワーズだって、ただ断罪されるまで待ちぼうけしていたわけではない。
父やセドリックもマドレーヌに肩入れしている時点で何、を言ってもフランソワーズを信じることはないだろう。
セドリックはマドレーヌに夢中で、わかりやすいくらいにフランソワーズを邪険にしはじめた。
シュバリタイア国王と王妃も見てみぬフリをしている。
フランソワーズなら何も言わない、反抗することはないと思っているのだろう。
そんなところも腹が立つ。
自分を犠牲にして、こんな国を守ろうだなんて思えなかった。
彼女を虐げたなど濡れ衣にもほどがあるし、マドレーヌに好き放題されっぱなしでは気が済まない。
(それにしても、よくこんなに堂々と嘘をつけるものはね……)
たまにマドレーヌから聞こえてくるのは、何も知らないと思われているフランソワーズを馬鹿にする声。
影で煽ってくることも腹立たしいが、フランソワーズを演じていた。
淡々と「何か用かしら?」と言葉を返すと、マドレーヌは余裕の笑みで「別にぃ?」と言った。
幸い、フランソワーズはマドレーヌに前世の記憶があることはバレていない。
マドレーヌは自分の立場を確立することに忙しくて、フランソワーズの行動など、どうでもいいと思っていたからだろう。
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