僕の忘れ物は屋上の美少女です。

リアム

第1話過去の忘れ物

 主人公 金子かねこ けいは真っ暗な空間を歩いていた。 何故ここにいるか思い出せてはいなかったが、足が自然と遠くの光へと動いていた。


 光の中にたどり着くと誰かに腕を引っ張られていく。


 しばらくしてその人はゆっくりと振り向くと彼に声を掛けた。


 ??? 「約束だよ! けいちゃん!」


(心地いいような、懐かしいような……)


 ??? 「けいちゃん、待ってるね」


(おい、何言ってんだよ。 待て! どこにいくんだよ! ……お前、なんで透けて……)


 消えていく彼女と共に、俺の意識も少しずつ薄れていった。


(あぁ、またなのか……また君を……)


 辺りが暗くなった後、俺は朝日に照らされて目を覚ました。 起きあがろうと顔を上げると目から一筋の涙が溢れた。


(あれ? なんで涙が……)


 彼は先程の夢のことも忘れて涙を拭って部屋を出ていった。


 階段を降りてリビングに行くと母さんが朝から掃除機をかけていた。


「あら? 起こしちゃったかしら?」

「別に、ただ今日からは高校じゃなくて中学に行かないと行けないからね」

「そういえばそうだったわね。 なら今日のお弁当はなしでいいの?」

「ああ、今日はいらないよ」


 彼と同じ学年の者たちは皆、某病気が蔓延したせいで十四歳の挑戦が中止となっていた。


 そこで彼の学校ではどうにか十四歳の挑戦の代わりをできないか、ということで高校二年生にして彼の学年では十四歳の挑戦と同じようなことが今日から開始されることとなっていた。


(なんともありがた迷惑な話ではあるが、久しぶりに中学校に行けるのはありがたいな)


 そこで彼はどうせならと十四歳の挑戦ではできない、中学校での教師の仕事を体験することにした。


「それじゃあ、行ってきまーす」

「はーい、いってらっしゃい」


 彼は母に見送られて懐かしの中学校へと出かけて行った。


 俺は後輩達が登校してくる30分ほど前に学校に着いた。


「おーい! けーい!」


 俺はすでに着いていた親友の神木に声をかけられた。


 彼とは中学からの付き合いで中学で何ヶ月か不登校になっていた時には色々と助けてくれた恩人のような存在でもある。


 今回のことが知らされた時も真っ先に自分のところに来てくれて、中学に行かないかと誘ってきてくれた人物でもあった。


 俺たちが雑談に花を咲かせていると中学の時に担任だった先生が近寄ってきた。


「これで全員かな? よし、さてみんな! 久しぶりの奴らがほとんどだけど一応自己紹介しておこう。 俺は黎元れいげん 新隆あらたか今日から君達の指導を担当するからよろしく頼むな。 みんなにはしばらくの間、先生として俺の授業のサポートや雑用、書類整理など色々やってもらうからな」

「「「よろしくお願いします!」」」

「よし! いい返事だ! それじゃあまずはお前達には朝の挨拶運動をやってもらおう。 それと、神木と金子! お前達には挨拶運動に必要な横断旗を取ってきてもらおう。 確か倉庫に三階の倉庫に置いてあったはずだ。 頼んだぞ、二人とも」


 俺たちは先生が担任だったことが災いしたようで、名指しでめんどくさい仕事を押し付けられた。


「はぁ、めんどくせぇけど行くぞ圭」


 俺たちは少しの悪態をつきながらも三階に向かった。


「それにしても、ほんとに懐かしいなぁ」

「ああ、あんま変わってないな……」


 物思いに耽っていると俺たちは倉庫へと到着した。


「さて、さっさと終わらせますか」


 俺たちは倉庫から若干の埃を被った横断旗を取り出して、来た道を戻っていく。 階段に差し掛かったところで外に何人かの生徒達が登校しているのが見えてきた。


(中一の奴らは元気にしてっかなぁ……)


 余所見をしていたその時、運んでいた旗から小さな部品が外れて階段の下にコロコロと転がっていった。


「やべ! ちょっと取ってくる」


 俺は少し急いで階段を降りた後、落ちていった部品を探していく。


(あれ? こっちら辺に落ちていったはずなんだけど……)


 彼が部品を探し回っていたその時、彼の耳に優しく風が纏わりついて離れなかった。


『こっちだよ。 けーいーちゃん!』


 どこか懐かしく、心地のいい声に僕の心は揺れ動く。


(今の、何処かで……)


「おーい! けーい!」


 彼は親友に呼ばれていたがその声は彼の耳に届くことはなく、彼は何か大事な物を追いかけるように声の主を必死なって探し回っていく。


(どこだ? あの声は何処から……)


 彼が探し回ってたどり着いた場所は……『から屋上おくじょう』と生徒達から言われている、曰く付きの屋上へとたどり着いた。


 こんな場所から聞こえるか? と本来なら不思議に思うところではあるが彼の頭にはそんな疑問は浮かばなかった。


 ただ彼は何か、忘れていた何か、苦しくて、悲しくて、それでも思い出したかった何かを求めてその扉のドアノブをひねると……。


『ヤッホー!』 


 彼はほんのりと冷たい霧のような何かに全身を包まれた。 それは冷たさと共に久しぶりに家に帰ったかのような温かさを含んでいた。

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