コミュ障転生 ~怖いのでフラグから全力で逃げ回る事にします~

KA𝐄RU

第1話 転生しませんか?

 俺は、自分自身コミュ障だと思う。

 なんだ急にと思うかもしれない、けれど、俺はコミュ障なのだ。

 35歳にもなるおっさんがコミュ障というのも恥ずかしい気がして、なんとなくあまり触れて回りたくないし、直したいと何度も思っていた。

 

 元々俺は奥手な性格で、会話でもなんでも考えすぎる事があった。

 それに、俺は物事を額面通りに受け取ってしまう嫌いもあるのだ。

 例えば中学生の頃、学校帰りのファミレスでの事だ。

 10人くらいでわいわい話していて俺は一切話しに参加できず、会話を聞いているだけだった。

 俺は、なんとか自分を変えたかった。会話に参加しようと頑張った。けれど、10分、20分、1時間経っても話しに参加する事ができなかった。

 けど、ちゃんと周りの話を聞いて、俺なりにこれにはこう話す、この話を振られたらこう返すべきだろうか、そんな事を考えながらその場に居るのだ。

 今の話は女子二人の彼氏の不満話。


「うちの彼氏は顔はいいんだけどさぁ、ほんとにだらしなくて、マジ浮気しかしない」


「へー、でもうちの彼氏もさ、お金はあるんだけど、性格最悪でさ!」


「なにそれ究極の二択状態じゃん」


「ウケル!」


 はっきり言って興味はないが、俺なりに言葉の先を読んで、その言葉のラリーに参加したならこうだという事は考えている。

 俺は、勇気を振り絞って会話に参加した!


「で、でもさ! じゃあ次の彼氏はこうしようっていう指針になるからさ……あの……」


 最初の『でもさ』に比べて、最後の方は声量が3分の1くらいになっていった。

 理由は、全員の視線が『は? 何言ってんのコイツ』だったからだ。

 いや、言い訳させて欲しい。俺の思考では、こんな不満があって、かつ浮気とか性格ってクリティカルな不満だからいずれ別れるだろう。

 だから、その先を考えると次の彼氏の話をした方が前向きかなと思ったんだ。

 ちょっとデリカシーが無かったかもしれない。けれど、俺はあの時のみんなの視線はトラウマで、怖くなってもう二度と話せる気がしなかったくらいだ。


 あとで、何故かこんな俺に優しくしてくれるクッソイケメンのモテ男がいるんだが、そいつに聞いたらこう教えてくれた。


「あー、多分お前は言葉をそのまま受け取って、お前なりの優しさで話したんだろうな。でもさ、本当にその人達は彼氏と別れたいって思ってたのかな」


「え、確認はしてないけど、浮気されて嫌だって言ってたし、性格悪くて嫌だって言ってた。そんなの別れるに決まってるじゃないか」


「んー、そうじゃなくて、その言葉はなんで出たのかって事を考えないといけないねって事だよ」


「なんで? 不満だからじゃないの?」


「多分ね、多分だよ? 浮気の人は、彼氏の顔がいい事を自慢したかったし、性格悪いって言ってた人は彼氏にお金がある事を自慢したかったんだよ」


「は? 何それ、それならそう言ってくれないとわからないじゃないか!」


「うーん、そうだね。素直に言ってくれた方が分かり易いね」


 という事らしい。

 そいつの主観なので正しいかどうかはわからないけれど、実際俺がズレているのは間違いないのだろう。

 自分がズレてるって思ったら、本当に人と関わるのが怖くなって、件のクッソイケメンに「なんで俺なんかと話してくれるんだ?」って聞いたら、びっくりした顔して、ちょっと恥ずかしそうにした後に、なんか考えて、「君といると僕のイケメンっぷりが際立つからだよ」と言って恥ずかしそうに笑っていた。

 俺はなんて最低な奴だと思って縁を切ってしまった。


 でも、あれから歳を重ねて、今なら少しだけわかる。

 あれは、俺の事を気遣って冗談で言ってくれたんだって。

 25歳くらいになってからかな、俺は言葉の中にあるその人の感情というか、そういうのがなんとなくわかるようになってきた気がしたんだけどさ。


 もう遅いのよ! こちとらコンビニで買い物する時ですらレジの人と目を合わせられないのよ!

 職場の人と二人きりになった時とか、「天気の話とかから始めるといい」って本で読んだから実践しようとしてみても、実際そうしようとすると、「こいつ、俺と話しする事なさ過ぎて天気の話しから始めようとしてやがる」って思われたらどうしようって思って話しかけられない!

 んで、30代入って下手に年上ポジションとかになってくると、若者とどう接していいのかなんて全くわからない!

 その位にはコミュ障拗らせた俺の人生。

 いや、すまない興奮してしまって。

 なぜこんな話をしているかって? はっはっは、そうだね。

 俺がコミュ障だという事は理解してくれたね?

 では、この暖炉の火が暖かく照らす洋室で、俺の目の前の豪華なソファに座っている存在を見てみてほしい。


 高級そうな刺繍がそこここに散りばめられたローブを着こみ、右手には二匹の蛇が絡み合った杖を持っている、三本の角を生やした山羊だ。

 わかるか、もう一度言うぞ。三本の角を生やした山羊だ。


 彼は先ほど「はじめましてだね、ようこそ」と言っていた。


 無理無理無理無理無理無理無理無理!!

 人間でもコミュニケーションできない俺にこれはハードル高すぎませんかねえ!


 でも、目の前の山羊男は思ったより優しい性格なのか、怒りもせず急かしもせず、こちらの様子をただ伺っている。

 いや、それもそれで怖いけれども。

 というかここどこ。

 もしかして俺山羊に食べられるんですか!?


「なんだか、警戒しているみたいだね。私の名前はバフォメット。君は?」


「あ……ぁ、久下……拓弥……です」


「ほう、いい名前だね。ところでさ」


「……はぃ」


「君、転生してみないかい?」

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