中世アルディラ史の真実 銀嶺山荘事件の検証
第1話 蓋然性
後世に伝う、『銀嶺山荘事件』は、英雄シド・スワロウテイルと、王国での重責を担う当時の軍務尚書エリクアント・ファイアストン卿を同時に誅殺せしめんと、騙して連れてきた近衛兵と国境警備に雇った貴族の私兵を、銀嶺山に送り込んだ時より始まったと、後の歴史家は言う。
度々小説や戯曲となったこの事件は、物語としては様々な解釈がなされているが、史実としては単に偶発的な戦いであったと語られている。
初めてこの事件を扱った小説『悪辣なるモッティ』が世に出たのが、この事件から二百年を経過したのちの話である。既に当事者のほとんどが存命していない。エルフの女王が生きているだけである。作者による創作部分は多かろう。
伝聞として残ったものを掻き集めて書き上げた、この作者の努力は賞賛に値するが、史料としての価値はかなり低い。
また、当時の王宮の文書などは紛失したものも多く、その真相に迫ることは永久に不可能である。
そうであるが故に、多くの作家、戯曲家が、この時代のこの事件を神格化したがるのは、無理もない。
他の物語でも「傭兵王」「創作神」と吟遊詩人らに謳われたシド・スワロウテイル。
ランドンの名将ガレス・ミフネフォールドとその従者マリ・ブラックローズ。
そして当時のアルディラ軍務尚書であるエリクアント・ファイアストン卿と、その後、同国の軍務尚書となり国家の大難を何度も救うことになるレイ・スターシーカー。
アルディラの同盟国にして、のちにエルフの女王となるリーン・スノウフレイク。
そして別の物語で有名になり、今なお民衆に愛され続ける、シドの友人にして最後の西エルフと言われた女エルフまで登場する、豪華絢爛な役者揃いである。
それだけでなく当時は謎の人物とされながら、アルディラ王国から逃亡した後、巧妙に北部シルバーラントの王位を簒奪し、長きにわたる『フルムーン王朝』の祖となる男が陰で糸を引いているとなれば、多くの作家が飛びつかずにはいられない事件であったように思える。
残された史料は少ないが、銀嶺山荘の跡や、国境警備兵の進行ルートは今でも残っており、当時、どのような戦いがあったのかを窺い知ることは可能だ。
本書では、史実と思われる部分を検証し、残された当事者たちの証言から、一体何が起こったのかを再構築してみる。
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