海のインセンス

菫野

海のインセンス

水色や灰色の本並べゐる(書架のここからそこまでは海)


恋ばかりしてゐる人とゆく海のビニールシート、唐揚げ、くらげ


恋は猫のやうに愛され失つた傷あとさへも薔薇のごと咲く


椅子は立つて泣いてゐるのか欠伸してゐるのかあはく背もたれ揺れて


手放せば怒りは波に解けゐてきみに許されたかつたことも


趾のつけ根にのこる砂浜の砂のつぶにも銀河の記憶


波と言ひ涙と呼ばむ眦のH₂Oに鯨を飼へり


海のインセンスかほらせ部屋ぬちに鯨とわたしみつしり眠る


結局のところ海とは夢であり貝殻は夢の骨なのだから


饐えた桃のにほひを放ち過りゆく夏のからだをそらにしづめる

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海のインセンス 菫野 @ayagonmail

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