エッセイ 最後のニュース

阿賀沢 周子

第1話

 車を運転していたら、FM放送で井上陽水の歌が流れているのに気づいた。久し振りに何曲か聞けて懐かしい。若い頃は大のファンで、コンサートにも何度か出向いた。

 ♪忘れられぬ人が銃で撃たれ倒れみんな泣いた後でだれを忘れ去ったの……。

 初めて聞く歌だった。米国の人種問題を思い浮かべ、政治色の濃い歌かなと感じた。

 新しい曲を創り歌い続けているのだと知って、一気に昔の気持ちに戻る。一度聴いただけで心に沁み入る声と詩。

〈機関銃の弾を体中に巻いてケモノたちの中で誰に手紙を書いているの……〉いつもどこかに、絶えることのない戦争がある現実。

〈親の愛を知らぬ子供たちの歌を 声のしない歌を 誰が聞いてくれるの……〉最近、裁判になった札幌の幼女の顔が目に浮かぶ。

〈世界中の国の人と愛と金が 入り乱れていつか混ざり合えるの……〉米国大統領選挙? 宇宙開発?

いくつかのフレーズの後に♪今あなたにgood-night ただあなたにgood-bye。

 家へ戻ってからこの歌「最後のニュース」について調べてみた。1989年、「筑紫哲也NEWS23」の初代エンディングテーマ曲とある。

 30年以上前の作品だった。今でも現実味をもって迫る。人は過去も未来も変わらないさがに支配されているのだろうか。一日の最後のニュース番組のために作ったというこの曲。人の犯す罪悪はどれも、いつも「最後ではないニュース」と聴こえてしまう。



                  2020年11月20日

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エッセイ 最後のニュース 阿賀沢 周子 @asoh

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