居候する事になった親戚の双子がおバカな件

あかせ

第1話 双子の羽衣・結衣がやって来た

 「お父さん・けい。この前言った通り、明日から羽衣ういちゃん・結衣ゆいちゃんと一緒に暮らす事になるからよろしくね」


ある金曜の夕食中。母さんが俺と父さんに向けて話し出す。


「わかっている。最後に会ったのは今年の年始だったか…」


父さんはそう言うが、俺は親戚一同集まるのが苦手なのでその時に会っていない。最後に会ったのはいつだったかな…? パッと思い出せないぞ。


「くれぐれも、デリカシーのない事は止めてちょうだい。良いわね?」


何で俺だけ見て言うんだよ? 父さんは大丈夫って事か?


「ああ…」



 羽衣さん・結衣さんは、俺より1歳下で高1になる。だが“今の高校に飽きた”という理由で、俺の高校に転校すると聞いている。


場所的に通うのはほぼ無理なので、この家に居候して通学するようだ。金は叔母さんが母さんの口座に適当に振り込んでフォローするらしい。


親戚とはいえ、ロクに話した事がないのは確かだ。上手くやれるだろうか…。



 翌日。父さんは早朝から出かけて行った。祝日は早めに出かける事が多いので、俺はもちろん母さんも気にしない。


そして、来ると言われる午前10時になった。母さんと2人でリビングにいる時に、家のインターホンが鳴る。


「来たみたいね。圭も玄関に来てちょうだい」

そう言って、一足先に向かう母さん。


いくら時間通りとはいえ、モニターで確認するのが先じゃないの? なんて言うのも面倒だし、母さんに付いて行こう。



 母さんが玄関の戸を開けると、そこには可愛らしい女子が2人立っている。


…まるで鏡で映したみたいにソックリだ。双子だから当然だろうが、どっちがどっちだかわからない。


「こんにちは、おばさん×2」


双子になると、挨拶もハモるのかよ…。


「羽衣ちゃん・結衣ちゃん、よく来てくれたわね」


母さんは名前を呼ぶ時に、顔を見て話しかけている。違いが分かるのか?


「後ろにいるのが圭君ですか?」


「そうですけど…」

俺はどっちに声をかけられたんだ?


「お姉ちゃん。圭くんに、あたし達の違いを教えたほうが良くない? わかってないっぽいよ?」


それって、母さんが俺に教える事じゃないの? 後で文句を言おう。


「そうだね。圭君から見てにホクロがあるのが、羽衣です」


「あたし結衣は、にあるの。間違えないでね圭くん」


言葉だけではわかりにくいので、2人の該当部分を見つめる。…確かにあるな。


「そんなに見つめられると恥ずかしい♡」


「だよね♡」


最初に言ったのは羽衣さんのほうだ。落ち着いてる今は判別できるが、パニクってる時は不安だ。


「他にも2人の違いはあるけど、それは自分で見つけなさい。圭」


「わかった…」


言い忘れではなく、あえて言わなかったのか。なら文句を言っても無駄だな。



 リビングに入り、ダイニングテーブルの椅子に座る俺。隣は母さんで、真正面は…、羽衣さんだな。名前を間違えるのは、“デリカシーのない”に入るから避けないと。


「おばさん。わたし達の荷物は今日届く事になってるのでお願いします」

俺と母さんを観て頭を下げる羽衣さん。


「わかったわ。部屋の余裕がないから2人共有になるけど大丈夫かしら?」


「大丈夫で~す。家でもお姉ちゃんと同じ部屋だったので♪」


今のところの印象だが、羽衣さんのほうがしっかりしてそうだ。


「そうなのね。困った事があったら、遠慮なく私か圭に言ってちょうだい。圭はバイトしてないから、手が空いてるのよ」


「俺の高校は“バイト禁止”なんだ。怠けてる訳じゃないからな」

誤解される前に事情を説明しないと。


「バイトしてないなら、あたし達を見てくれそうだよね? お姉ちゃん?」


「そうね…」


この流れ、なんか嫌な予感がする。


「実はわたし達、あまり勉強が得意じゃないんです。塾の事を話しても、お母さんに『お金がかかる』って言われて…」


2人分だもんな。叔母さんがそう言うのもわかる。


「それは丁度良いわね。教えるのは圭の復習と経験になるわ」


間違いない、母さんは俺に家庭教師をやらせようとしている。3人の期待の眼差しを裏切れるほど、俺のメンタルは強くない…。


「わかった。なるべく頑張ってみる」


「ありがとうございます、圭君」


「圭くんありがと~」


俺のほうが1歳上とはいえ、敬語で話されると気になる。


「羽衣さん。結衣さんみたいに気楽に接して欲しい。敬語はちょっとな…」


「わかったわ。これからそうするね」



 母さんが作ってくれた昼食を食べている途中で引っ越し業者の人が来て、たくさんのダンボールを持ってきた。…玄関付近は荷物でゴチャゴチャだ。


「圭。後で羽衣ちゃんと結衣ちゃんの手伝いをしなさい。私は買い物に行くから」

昼食を再開してから母さんが言う。


なんて言われても、女子の荷物を男の俺が手伝って良いのか?


「お願いしても良いかな? 圭君?」


頼まれたなら協力しよう。居候とか親戚なんて関係ない。


「わかった」



 昼食後、母さんは宣言通り買い物に向かった。この大量のダンボールを部屋に運んだり、中の物をしまったりするのか…。気が重いが頑張るしかないな。

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