第036話 目立ち方

 日高の誕生日が近い。

 先月春野と俺の誕生日を祝ったばかりなのにまた誕生日パーティーか、とも思うが仕方がない。

 いっそどこか適当な日を設定してそこで一気に全員分祝うとかすれば効率的なのにと思うがやむを得ないことなのだ。


 さて、今日は日高のプレゼントを選ぶためにショッピングセンターにやってきている。

 ショッピングセンター前で集合することになっており、俺が来た頃には春野・葵の二人がそこに立って他の面子を待っていた。

「おー、早いな」

「あ、黒山君」

「おはようございまーす」

 春野が軽く、葵が大きく手を振ってきた。


「ちょっと先輩、少し遠くないですか?」

 春野・葵と俺の距離は大体5メートルぐらい。春野と葵の距離に比べるとちょっと遠いかもね。

「あーこれはあれだ。俺達の心の距離に合わせてるだけだから」

「だとしたら私達胡星先輩に避けられてるってことになるんですが」

「いやいやいや。そもそもまだそこまで近しい仲じゃないというか」

「ねえ、黒山君。さすがにもうちょっと近くで集まろーよ」

 俺が像のように一歩も動かない姿勢でいたら二人が俺の方へと歩み寄ってきた。二人とも積極的。


 正直な話、春野と葵が揃うと目立ち方がハンパないのだ。

 二人とも春の暖かさに合わせた爽やかな格好をしてきている。まあそれはいい。

 その二人の際立った美貌が、周囲の男達からの視線を集めていた。

 集めていたといっても実際は一瞥いちべつをくれる程度のものだったが、にしても遠巻きにチラチラと通りすがりの男が見てくることにはこの二人も気付いていたようだ。

「あんまり声大きくして言えないんですけど、何か周りの人達が見てくるんですよね」

「私も気のせいかな? って思ったんだけど、葵ちゃんも同じく視線を感じてるみたいで、ちょっと困ってたんだ」

 葵は不機嫌を隠そうともしない表情で、しかし小声に。

 春野は愛想笑顔を浮かべたままに、やはり小声で今までの状況を説明してきた。


 で、俺もこの二人と一緒にいれば必然的に注目を浴びる。

 もっとも、俺の方は大して意識されることもないかもしれないが、それでも妙なやっかみを買う可能性は否めず気分はよくなかった。

「お前ら外歩くときはグラサンとマスク必須な」

「え、何で」

「どこのアイドルですか。あとそんなことしたらかえって目立ちますよ」

 む、確かに逆効果か。

「なら目出し帽はどうだ」

「それ着けて街歩いてる一般人がどこにいるんですか」

 えー、これもダメか。

「じゃあ打つ手なしか」

「考えればもっといい手とか浮かびそうな気しますが……」

「なら目立たない対策を今度はしてきてくれ」

「……そうですね」

 向こうから新たに見慣れた女子二人がこっちへ歩いてきている。安達と加賀見だった。



「皆、ちょっといい?」

 ショッピングセンターに入り、これから色んなコーナーを見て回るべく動きだそうとするときに加賀見が皆を止めた。

「ん、どうした? もう帰りたくなったのか?」

「黒山じゃあるまいし、それはない」

「なら何だ?」

「いつも皆で一塊ひとかたまりになって誕生日プレゼントを選んでるけど、今回はグループに分かれてみない?」

「グループ?」

「うん。私達五人を二人・三人のグループに分けてそれぞれ違うコーナーを回る。そしてお互いに最もいいと思ったプレゼントを見せあって決める。その方が時間も取らなくていい」

 ほう。今までとは違った趣向だな。


「うん、いいよ。やってみよっか」

「私もいいよ」

「私も問題ないです」

 春野・安達・葵が賛成に回っていく。

「俺もいいぞ」

 俺も賛成した。どうせ人を伴うなら二人でも五人でも俺にとっては大差ない。


「それじゃ、今回は黒山とミユの二人、リンと葵と私と三人でどう?」


 あれ、加賀見さん。貴女の中ではもうグループの内訳決まってたんですか。

「えっと……何で?」

 春野が加賀見にグループ分けの理由を尋ねる。

「何となく。今回はこの内訳でやってみて、次回からはまた別のグループ分けで試すってのを想定してる」

「プレゼント選びの度にローテーションで組合せを決めるってことですか?」

 葵が加賀見の意図を確認してくる。

「そう」

「んー……」

 春野が唸りつつ、葵が細くなった目つきで俺と隣の安達に顔を向けてくる。


「私は、問題ないよ」

 まず安達が意思表明した。

「まあとりあえず今回はこのグループでやってみるか」

 俺は加賀見と二人じゃなければどうでもいいので頷いておいた。


「……うん、じゃそうしよっか」

「……先輩方が異論ないなら」

 春野・葵がやや間を置いてグループ分けに賛同した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る