第035話 プランなんて
二年生になって初めてのテストの成績は可もなく不可もなくという結果だった。
結果とともに平均点が発表され、どの教科もその平均点にほぼ近い結果が得られた。
「……と、俺の結果はこんなところだ」
「へー」
葵からせがまれて俺のテストの結果を教えたところ、「へー」の一言で済まされた。
テストが終わり空き教室にて久しぶりに奄美姉妹と顔を合わせたのだが、二人に特に変わった気配はない。まあブランクはほんの数日のことだから変化があったらその方がおかしいが。
奄美先輩も相変わらず葵と俺の雑談が終わるまでスマホをいじっていた。
「お前はどうだったんだ」
「ふふーん、全体的にすっごくよかったんですよねー」
「へー」
「苦手な教科も80点は超えたんです。順位もいいところまで行くかもしれません」
「そうか」
「先輩のお陰ですね!」
どうやら先日の奄美家でのテスト勉強は功を奏したらしい。
せっかくの放課後の時間がムダにならなかったことに少しよかったと思ってしまった。
先日奄美家で休憩がてらトランプで遊んだ後、テスト勉強を再開して何とか全教科を見ることはできた。
休憩後でより落ち着いたためか葵も休憩前より口数を減らして粛々と「ここ教えてください」「これはどう解いたらいいんですか」と要点を聞いてくるのみになっていったので、俺としては対応しやすかった。
また、テストまで残り少ないことを自覚したのか表情もより真剣なものになっていたのも印象的だった。
心なしか奄美先輩も休憩前より後の方がより表情が硬いものになっていたように思う。やっぱ休憩って気分転換に必要なんだなって思いました。
そんなこんなで準備も万端に今回のテストに臨んだ、という次第だった。
「お姉ちゃんは?」
「問題なし」
奄美先輩もテストの結果は上々だったようだ。
「それはよかったです」
「今年受験だしね。ここで
奄美先輩が垂れていた前髪を少しかき上げる。
「あー……どこの学校目指すかってもう決めてるんだっけ?」
「そんなのこれからよ」
「お姉ちゃんなら有名所の大学も充分狙えるだろうねー。羨ましい」
「やめてよ」
奄美姉妹のやり取りを聞く。
この前奄美家を訪れたことで新たにわかったが、二人ともこの空き教室と家でのノリは特に異なる点がない。
二人にとっては空き教室でもプライベートな空間として飾らず過ごしているらしい。
……これってもし空き教室が使えなくなったらこの姉妹にとって結構重大な事態になるのでは?
もっとも、俺にとっては姉妹に会う理由がなくなるかもなのでさほど悪くないのだが。
「……胡星先輩、今何考えてます?」
「この世の成り立ちから行く末まで森羅万象を」
「テキトーに壮大なこと言ってごまかそうとしてるののバレバレですよ」
「今日の3時のおやつは何かなーって」
「レベルを落とせばいいってもんじゃないんですが。しかももう3時過ぎてますし」
「いや3時って午前の方だぞ」
「深夜に何やってるんですか」
追及の手を緩めない葵。何がコイツをここまで駆り立てるのか。
「まあ正直な話、今回のテストのこと振り返ってた」
嘘だけどね。
「そうですか」
今日がテスト直後でよかった。葵もこうして嘘に気付くことなく納得してくれる。
「でもそのテストも終わったことですし、打ち上げにどっか行きません?」
「行きません」
「ぶー。テスト後も相変わらずノリが悪いですね」
「むしろテストの前後でノリが変わるってどういう理屈なんだよ」
「えーとそうですね。テスト前に掛かっていたストレスから一気に解放されてテンションが上がりとりあえず遊びたくなる、とか?」
それっぽいことを説明する葵。たった今思いついた理屈だよなそれ。
「遊ぶってんなら俺は一人で悠々自適に過ごしていたい」
「それいつも仰ってますけどホントに楽しいんですか」
「? ああ、楽しいぞ」
「そうですか……」
葵が両手で頬杖を突いている。いつものことながら行儀が悪い。
「なら、普段の胡星先輩の一人での過ごし方を教えてくれませんか」
「なぜ?」
「私も実践して、何が楽しいのか学んでみたいと思います」
うわー、また面倒なこと言いだしたよこのコ。何でこう次から次へと面倒を持ってくるんだろ。面倒の申し子なのか?
「わかった。そのつもりならとりあえずプランを練ってくるからしばらく待ってろ」
「ホントですね? わかりました」
とりあえずごまかすことにした。もちろんプランなんて律儀に考えてくる気はない。
恐らく葵も挑発されたと思って気が立ち勢いでさっきの言葉を吐いただけだろう。
しばらく放置すれば頭も冷えて
(何でこんなこと言っちゃったんだろう。なかったことにしたい)
なんて風に気が変わるか、若しくは綺麗さっぱり忘却してくれるさ。
さて、そんなことより後少しで迫るイベントに備えなくてはならない。
日高の誕生日が近いのだ。
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