鏡と私とあの子

有くつろ

鏡と私とあの子

 鏡を見つめた。


 繋がりかけている眉毛。

切れ長の瞳。

やたらに大きい鼻。

可愛いとはお世辞にもいえない薄い唇。


 鏡の中にいる私の首より下に視線を落とす。


 太く短い首。

少し膨らんだ二の腕。

印象には残らないようなシンプルな服装。


 地味なんて可愛い言葉でまとめられるような容姿じゃない。


 ドブス。


 先ほど見ていた動画では、茶髪の可愛い女の子が流行りの曲に合わせて踊っていた。

私が笑えば人は手を叩いて笑うけれど、彼女が笑えば人は見惚れる。


 平等なんてクソくらえ。


 私は取り繕いようのないブスで、運動ができないくせに勉強だってできないし、取り柄なんて一つもない。


 それに比べてあの子はダンスもできて、笑顔も可愛ければスタイルも良いし、きっと友達もファンも沢山いる。




 あの子になれたら。




 人生バラ色、いや虹色。金色かもしれないし、純白色かも。


 バラの赤色はあまり好きじゃない。

赤を身に纏う人は強くて、少し怖いから。


 でも私があの子だったら赤い服だって着れる。

見ていて耐えられないどころか、あの子にはよく似合うだろう。


 ブスに人権がないのはブスが一番分かってる。


 それなら私はなんのために生きているのだろう。




 鏡に触れると、鏡は液体のように私の手を飲み込んだ。


 その感触に驚きながらも手は抜けなくて、冷たい感覚と共に鏡に飲み込まれている。


 助けて。


 誰か、助けて。




 ふと気づけば、私の目の前には先程見た動画の女の子がいた。


 あ、可愛い。


 長いまつげが羨ましい。

二重の瞳も、綺麗な鼻筋も、ぷっくらとした唇も___


 触れようと手を伸ばすと、彼女と私の間には壁のようなものがあって、ひんやりとした感触が私の体温を下げていく。


 ずっと目の合わなかった女の子が、私を見て口角を釣り上げた。




 「ブスに人権なんてないから」




 あ、この子、意地悪に笑うと凄い不細工に見える。


 まだ笑っているときの私の方がマシだ。


 


 ようやく鏡の中に閉じ込められたことに気づくと、女の子は身を翻して去っていった。


 見慣れたお風呂場の景色だけが残る。




 *




 息を大きく吸って身体を起こした。

枕と布団がぐっしょり濡れている。




 あれ、私、なんの夢見てたんだっけ。




 適当にスマホを取り出して、動画サイトを開いた。


 読み込み中の暗い画面が私の顔を映すものだから気が重くなる。

こんな顔に生まれたら、自分がブスだと気づいた瞬間から、どの人からも死ね、と言われているように思うのも無理はないだろう。


 ああ、私ってなんでこんなにブスなんだろう。




 読み込みを終えたスマホから軽快な音楽が流れた。




 あ、この子。











 可愛い。

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