第6話 カリアン王国での生活が始まりました

「キャリーヌ、君の部屋に案内するよ。さあ、こっちだ」


 お義兄様が私の部屋に案内してくれる様だ。皆でお義兄様に付いていく。すると


「まあ、なんて素敵なお部屋なのでしょう。こんなに素敵なお部屋を、私が使ってもよろしいのですか?」


「当たり前よ、好きに使っていいわ。一応実家のあなたの部屋を思い描いて準備させたのだけれど、気に入らなかったら好きに変えてもいいからね」


「気に入らないだなんて、とんでもありませんわ。ありがとうございます、お義兄様、お姉様」


「どういたしまして。それじゃあ、夕食の時間までゆっくり過ごしてね。今日はあなたがカリアン王国にやって来たお祝いに、ご馳走を準備しているのよ。キャリーヌはすっかり痩せてしまったから、どうかたくさん食べてね」


 一瞬悲しそうな顔をしたお姉様だったが、すぐに笑顔になり、お義兄様と一緒に部屋から出て行った。


「お嬢様、早速湯あみを行いましょう。一応湯あみをしていたとはいえ、ゆっくりする事が出来ませんでしたものね」


「そうね、クラミー。あなたにも過酷な旅をさせてしまって、ごめんなさい。その上、私と一緒にカリアン王国にまで付いて来てくれて、ありがとう。お姉様には話しておくから、あなたもしばらくはゆっくり休んで」


「いいえ、私はお嬢様の専属メイドです。どうかお嬢様の傍で、お世話をさせて下さい。それにしても、こんなにお優しいお嬢様に、あんな仕打ちをなさった殿下を私も許せませんわ」


 相変わらず私の事を一番に考えてくれるクラミー。ただ、彼女にも無理はして欲しくないため、お姉様にはクラミーの休暇の話をしておこう。


 湯あみを終え、久しぶりに立派なドレスに着替えると、食堂へと向かった。お姉様が言っていた通り、わざわざ私の為に、沢山のお料理を準備してくれていた。それもどれも私の大好物ばかり。さらに、見た事のない珍しいお料理もある。さすが大国、カリアン王国ね。


 久しぶりにゆっくり食べる豪華な食事、優しい姉夫婦と、お義兄様のご両親、可愛いグランに囲まれて、楽しい時間を過ごしたのだった。


 翌日、今日はお姉様と元クレスティル公爵夫人が、公爵家の屋敷を案内してくれた。


「キャリーヌはもうこの家の住人なのだから、好きなところに行ってもらって構わないわ。辛い思いをした分、どうかゆっくり過ごして頂戴」


 お姉様がそう言ってほほ笑んでいた。


 ゆっくりか…


 せっかくなので、公爵家の美しい中庭を見ながら、ゆっくりお茶をした。こんな風にゆっくりとお茶を頂けるのは、何年ぶりかしら?思い返してみれば、毎日忙しすぎて、綺麗な花々を見ながらお茶をする事なんてなかった。


 この何にもしない時間が、私にとってはなんだか新鮮だ。さらに私が1人で過ごしていると、お姉様や元夫人が話し相手になってくれた。


 グランも私の事を気に入ってくれた様で、抱っこをせがんできてくれる。初めて抱っこしたグランは、温かくて柔らかくてとっても可愛い。


 お姉様、幸せそうでよかったわ。私もいつか、こんな風に…


 て、無理か。婚約者に捨てられたうえ、側妃になれとまで言われた私が、今後結婚できるとは思えない。それに今はまだ、結婚とか考えたくはない。しばらくは1人でゆっくりと過ごしたい。


 そして夜になると、お義兄様と元公爵も帰って来て、6人で夕食だ。元々お話好きなお姉様だったが、他の家族も負けじとお話好きだ。ずっと笑い声が絶えない楽しい夕食。


 私がまだ小さい頃、我が家もこうやって笑い声が絶えなかったな。なんだかあの頃に戻ったみたいで、心が温かくなる。


 ただその一方で、私のせいで両親や兄夫婦が酷い目になっていないか不安なのだ。最後に会った両親と兄夫婦の悲しそうな顔が、私の脳裏に焼き付いているのだ。


「キャリーヌ、どうしたの?何か辛い事があったの?」


 元気のない私に、心配そうに話しかけてくれたのはお姉様だ。



「いいえ、とても賑やかで、楽しい食事だなって思って。小さい頃は、我が家もこんな感じだったなって思ったら、なんだか懐かしくなってしまって」


「キャリーヌさんは、あのような仕打ちを受けたうえ、急に親元から引き離されて知らない国に来たのですもの。不安になるも無理はないわ。辛いときは遠慮しないで私達にも教えてね。そうだわ、明日は街に出て買い物をしましょう」


「それはいいですわね。キャリーヌ、あなた買い物もろくにできなかったのでしょう?カリアン王国の王都も案内したいし」


「それは本当ですか?嬉しいですわ。ありがとうございます」


「よかった、キャリーヌさんが元気になって。それじゃあ明日は、目いっぱい買い物をしましょう」


 元夫人がそう言ってほほ笑んでくれている。お姉様はこんなにもお優しいお姑さんがいて、幸せね。彼らの為にも、いつまでも泣いていてはダメね。


 彼らに心配をかけないように、前を向いて進まないと!

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