性奴隷を調教したのに

お小遣い月3万

第1話 俺みたいなタイプが異世界に転移するのは間違っている

 いわゆる俺は転移者である。

 家族旅行で淡路島にいたはずなのに気づいたら家族と離れて異世界にいた。


 転移したって感じは無くて、異世界に来た当初は草原で人もいなかった。そのせいでニジゲンノ森って死ぬほど広れぇーな、と始めは呑気に思っていた。


 早く子ども達の元へ戻らなくちゃ、と思って歩いたけど、家族の元に俺は帰れなかった。

 迷子になってしまったのに、子ども達の元へ早く戻るために走った。走れば走るほど迷路の奥に進んでしまう。引き返しても迷路から出ることは出来ない。


 声に出して6歳の娘の名前と、2歳になったばかりの息子の名前を呼んだ。

「パパ」という子ども達の返事はなかった。


 小説やアニメや漫画とかなら主人公はすぐに異世界転移したことに気づくけど、俺は気づかなかった。淡路島で迷子になってしまったと思っていた。

 スマホを取り出して何度も妻に連絡を取ろうとした。だけど圏外で電話が出来ない。楽◯モバイルを解約しようと決めた。そして2度と淡路島には行かない、と誓った。


 日が暮れ始めた頃には苛立ちは奥に引っ込み、家族が心配になった。

 俺の事を探しているだろう。小さい子どもを2人抱えて、ニジゲンノ森で彷徨う妻の顔が頭に浮かんだ。出来れば先にホテルに帰ってほしい。子ども達もお腹を空かせているだろう。温かいご飯を先に食べていてほしい。


 俺は歩き続けた。街灯も無く、夜の闇は足が竦むほど暗かった。

 5回ほど木にぶつかったところで俺は地面に吸い寄せられるようにして倒れた。どこか遠い場所で狼の鳴き声が聞こえた。

 体を丸め、充電が少なくなったスマホをポケットから取り出す。

 圏外。

 子ども達を抱きしめて眠りたかった。

 


 辺りを見渡すことが出来るようになると俺はゾンビのように立ち上がり、歩き始めた。この迷路を早く攻略して家族の元に帰らなくちゃいけない。


 湖があった。

 おもむろに水を覗くと、そこにはおぞましい俺の顔が水面に映っていた。

 学生の頃の顔が映っていたのだ。

 あんなに頑張って生やしたヒゲも綺麗さっぱりなくなり、童貞だったあの頃の初々しいイモさが水面には映っていた。


「は?」

 と俺は苦い顔をして、顔面を触った。

 なんで若返ってんだよ? これ俺だよな?

 体を触る。

 いつも満腹のような34歳の腹ではなく、自転車で通学路を爆走していた高校生の肉体に戻っていた。

 どうなってんだよ?


 だけど異世界に転移したという事実には辿りつけなかった。

 そもそも小説やアニメや漫画で、異世界転生ものや転移ものが流行っているっていうか、……1つのジャンルとして確立していることは俺だって知っている。

 だけど正直にいってソッチの方は疎かった。

 俺が好きだったのは乙一とか貴志祐介である。だから転生モノや転移モノを俺は読んだことがなかった。



 歩いて歩いて行き着いたところは家族の元ではなく、中世ヨーロッパみたいな街だった。みんな外人っぽい。でも不思議なことに立ち話をしている人達の会話は理解できた。


 ニジゲンノ森にこんな街あったっけ? ゴツゴツのお兄ちゃん達の腰には剣。魔法使いっぽいローブを着た人達の手には杖が握られている。

 馬も走っているし、ダチョウに似た生き物……チョ◯ボっぽい生き物も馬車を引いている。小さい恐竜も馬車を引いていた。


 ニジゲンの森のスタッフはいないのか?

 スマホを取り出し圏外である事を確認する。


 すみません、と外人に声をかけたけど、チラッと睨まれただけで無視された。

 エクスキューズミー? と声をかけても無視された。

 街を彷徨って辿り着いたのは冒険者ギルドという場所だった。


 1日迷子になって疲れていたというのもあるし、お腹も死ぬほど減っていたのもあるし、受付のお姉さんが洋画に出てくるような綺麗な人で緊張してしまって、

「あのあのあのあのあの」と俺はアノちゃんを連呼してしまった。


「冒険者登録ですね」

 と受付のお姉さんが笑顔で言って、アノちゃんを連呼してしまった事が恥ずかしくて、流れで冒険者登録する事になってしまった。 

 ちょっと落ち着いてから、ニジゲンノ森の出口を聞こう。

 

「職業適正を測りますので、水晶に手をかざしてください」

 と受付のお姉さんが言った。

 俺はお姉さんに言われた通り水晶みたいな物に手をかざし、自分が何に適した職業なのかを測った。そういうアトラクションらしい。

 俺が手をかざした瞬間、水晶が眩い光を放った。ギルド職員達は驚き、ギルドにいたゴテゴテの冒険者達は光に驚いて腰を抜かしていた。


「職業・癒しの勇者」

 と受付のお姉さんが呟いた。

 木で作られたカウンターの奥。別のお姉さんが慌てて、「王都に連絡をします」と言って、手紙を書き始めた。


「佐々木武蔵様」

 と受付のお姉さん。

「なんで俺の名前を?」

「ココに表示されていますので」

 とお姉さんが言った。


 マジか。今って水晶に手をかざすだけで名前もわかってしまう時代になったのか。


 俺の名前は巌流島がんりゅうじまで戦った2人の剣豪を足して二で割ったような名前である。


「貴方の職業は癒しの勇者でございます。これから貴方は王様に会いに王都に行ってもらいます」


 いや、そんなアトラクションはどうでもいいんで。


「……家族と離れてしまって、家族の元に帰りたいんですがフリーWi-Fiとかありますか? なんだったらニジゲンノ森の出口を教えてくれるだけでも結構ですので」と俺は言った。


「申し上げにくいのですが、ココは佐々木武蔵様がいた世界とは別の世界になります」


「……あの、そういうのいらないです。家族の元へ帰りたいんです」

 と俺が言うと、受付のお姉さんが困ったような顔をした。



 それから俺は王様に会いに行って魔王を倒す命令を受けた。

 なんかマジで違う世界に来たっぽい。

 王都に行くために2日も馬車に乗ったけど、こんな広大なテーマパークはないだろうし、見たことない動物もいっぱいいるし、見たことない建物だらけだし、気づかなかったけど月も2つあった。



 魔王を倒したら、この異世界から日本に帰れると聞いた。だから俺は2年ほど魔王を倒す冒険に出た。だけど俺は魔王を倒す事ができなかった。

 癒しの勇者……癒しの、だぜ。

 異世界特典というか、コッチに来て手に入れた俺の能力は癒す力だった。


 魔王を倒すには力不足だった。

 魔王に敗れた俺は家族の元へ帰る事も出来ず、俺のことを召喚した王様の命令で死刑を宣告された。だから現在はチェルシーという猫と共に逃走している。

 俺が死なない事には、次の勇者を召喚できないらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る