第3話 露呈

「その後は、知っての通りやっと会えた可愛いロシュを抱きしめて、この部屋に押し込まれてーー」


 そう言って、目の前のすっかり美しく育ったウィミリオンは、小首を傾げスイーツよりも甘い笑顔を浮かべている。

「お、押し込まれてなんて人聞きの悪いーーひゃっ! 」


 癖のかかった薄金色の髪が揺れると、大きな手が背中に回り覆い被さる様に抱きしめられる。


「本当に会いたかった……」



 大人の色気を纏った今をときめくウィン卿が実はミリオンでーーウィミリオンでーー

 ノアは聖女の取り巻きになって悪役令嬢わたしのいなくなった聖女は王太子ルートでの……

 まさかの逆ハーレムエンド?

 私がルイーズってウィミリオンにバレたーーえ?

 私を見つけ出すために王国中を探したーーーええ?

 さらっと話してたけど魔族と人間の混血だけど地位を確立して私と一緒になるために魔族残党討伐してるーーーーえええ!?


 いきなりの話にただひたすら驚いたーー


 しかし、あの泣き虫でいつも私について回ってたミリオンがマダムグレースの孤児院に来るまでそんな境遇で育ち、その後も平坦ではない人生を歩んでいたなんてーー。迷惑をかけまいと孤児院のみんなの記憶まで消してーー


 孤児院に迷惑をかけまいと思う気持ちは、メインストーリーが終わるまでいつ訪れるかわからない断罪を恐れていた自分と重なったこともあり、話を聞きながら涙が溢れた。

 帰る場所もない、心の拠り所もないーーその不安がよくわかる。


 抱きしめて私の肩に頭を埋めるーーむしろ擦り付けてくる彼の背中に、そっと手を添えるとビクリと跳ねる。

「頑張ったんだねーー私には想像もつかないけどーー大変だったね。またミリオンに……ウィミリオンに会えてとっても嬉しいーー」


 広くなった背中をぽんぽんと、あやすように撫でる。


「ロシュ……」


 ウィミリオンが埋めていた頭を上げると黒い瞳に私がうつる。

 美しい顔立ちと吸い込まれそうなその瞳は、きっと素顔を晒しても世の女性たちは頬を赤らめ迫ってくると思う。壊れそうなものに触るように大きく骨ばった手が私の頬に添えられると、ちゅっとキスを落とされた。


「ーーへ?」


 突然の出来事に呆けているとゴツゴツした両手で顔を押さえられ2度3度啄むついばむように柔らかなキスが降ってきた。


「っん!んぅ!」


 なんだかんだでお年頃の彼は理性がプッツンしてしまったんだろうか!?

 なんか手慣れてる??!

 そういえばさっき私と一緒になるためにとかなんとか聞いた気がするが頭がうまく働かない。やめさせようと両手で自分の口を覆うと今度は左手の甲にキスを落としたところでピタリと止まった。


「……順番、間違えちゃった」


 そう言ってこの半魔こあくまはイタズラっぽく笑った。




 翌日“ウィン卿”と近くの小洒落た店で食事をとっていた。

 新聞で顔が割れているため、黒い魔力目隠しを外すわけにもいかず、目元を隠してもなお整った容姿をしている彼は今日はなんだか貴族のような服装をしていて注目を集めている。

 ーー実際貴族になったんだったっけーー


「考えてみたら、ロシュと二人きりで出かけるのはこれが初めてだね」

「本当だね! あんなに一緒にいたのにーー不思議ーー」

「折角のデートなのに、この目隠しは人前で外せなくてーーごめんね? ねぇ、ロシュは、この数年間……こ、恋人とかいたのかな?」


 昨日あんなことをしておいて今更顔を赤くしたウィミリオンが尋ねてきた。


「いないよ」

と短く答える。ここまで必死に生きてきてーー


「……よかった……元恋人は全員抹消しようと思ってたから」


 不穏な呟きは、これまでを振り返る耳には届かない。

 おもむろに席を立ち私の横まで来ると恭しく跪き、


「ずっとあなたを探していた。あなたがぼくの帰るべき人でありたった一つの心の拠り所だったーー」

「ロシュ、ぼくと結婚してください」


 そう言って、私の瞳とよく似た紫色の宝石が付いた指輪をそっと差し出した。



ーーーーーーーー



 公衆の面前で行われたプロポーズは瞬く間に噂になり、翌日には新聞のトップを飾ったーー


ーー魔族討伐貢献の騎士、話題の湯屋店主に告白ーー

ーー紫眼の美女、ロシュ嬢の返事やいかにーー


 新聞には“髪がサラサラいい香りになる湯屋”など店の評判もかかれていて、宣伝になったのか翌朝から

「洗髪剤だけでも売ってくれ」

っと客が押しかけ大忙し。ウィミリオンへの返事を保留にしたきり会う暇もないままーー


 その日も、店の外で通りの邪魔にならないよう行列の整理をしていた。

 そろそろ日も暮れようかという頃、海辺の通りを豪華な馬車が走ってきたと思うとこの店の前に止まった。

 ドアが開くと赤い髪の男性にエスコートされながら、金髪にドレス姿の女性が降りてきてーー


 心臓がドッドッと鳴り嫌な汗をかくーー。

 あの髪、あのピンクの瞳、間違いないーードキストで散々みたものーー


 攻略対象であり弟であるノアが、そこにいた。

 二人が店に入ると、何やら騒がしくなった。


 何しにきたんだろうーー


 いくら評判の湯屋といっても、冒険者やちょっと裕福な商人平民が来るところで、けして貴族が利用する場所ではない。

 「オーナー! お客様がお見えです」


 応接室へ行くとノアと金髪の女性が上座に着席していた。


「ドンッ」

 テーブルの上に重そうな袋が置かれる。


「わたくし、隣国ジョアンヴィ公爵家のビビアン・ジョアンヴィと申します。ウィン様と婚約する予定ですの」

「単刀直入に申しますーーこれを差し上げるから、店を畳んでウィン様の目につかないところへお行きなさい」


 お義姉さまーー!

 バサリ、と扇子を開き口元を覆う様は、ゲームで見たルイーズわたしを彷彿とさせる。

 

「ウィンは魔族討伐を共に乗り越えた聖女の随行者であり、僕の仲間だーー。キミの様な平民の女性では釣り合わない。金貨がこれだけあれば遊んで暮らせるだろう……どうか身を引いてほしい」


 かつて画面越しに見たイケメン、しかし幼い頃ヨチヨチと自分のあとを追いかけてきた可愛かったノアは、言葉は丁寧だがその表情は冷たく、そう言い放つ。


 どういうことだろうーー。ウィミリオンから結婚を申し込まれたのも、再会したのもつい先日。あんなキスをしておいてーーこちらに来る前にお義姉さまと婚約の話が進んでいたのだろうかーー

 胸がツキリと痛む。

 相手は。慎重に口にすべき言葉を考えていると、


ーーバンッーー


「ノア! ビビアン嬢! ロシュを護衛させていた部下に聞いて来てみれば……なんの真似だこれは! 」


 勢いよく扉を開けウィミリオンが入ってきた。後ろにはオロオロする見知らぬ騎士。

 護衛なんていつの間にーー!


「まぁ、ウィン様! 本当にこの辺りにいらしたのですね!」


 立ち上がり頬を染め、眼をキラキラさせたビビアンがスススッと寄ったかと思うと、彼の腕ウィミリオンに腕を絡め胸をこれでもかと押し付けるようにピッタリ寄り添う。彼は目元は見えないが忌々しげに眉間に皺を寄せている。


「ウィン! お前の載った記事を見て駆けつけたんだーー! あれは、間違いなんだろう? お前はーーっお前は、に惚れているんだろう? それで姉上を改心させてくれたし、姉上に釣り合うために危険な魔族討伐にも付き従い爵位を得てーー今は騎士団を率いて残党を退治している。全ては、ビビアン姉上への愛からではなかったのかーー!?」


 立ち上がったノアは感情が高ぶったように大仰に腕を振り力説する。


「ーーは?」


「そうですわ……ウィン様はそういうお方! お戻りになられましたらいつでも、婚約する準備も整っておりますーー!」

「もしやこの女、魔族が化けていてウィンは魅了の魔法にかかっているんじゃないのか!?」


 捲し立てる二人に思考が一瞬遅れる。

 何を言っているのーー?

 メインストーリーが終わって尚、わたしは断罪されるのーー?

 一体私が何をしたっていうのーー?


 義姉は元々意地悪だったが、たった1年だけど可愛がり幸せを願った弟まで、もちろんルイーズわたしだと知るはずがなくとも……視界が水で歪む。

 弟にだけは断罪されたくない。回避するためにここまで来たのにーー

 結局、意味がなかったの?

 ルイーズわたしはルイーズであるというだけで何をしても断罪されるの?


「ーーーー何をーー何を訳のわからないことをーー」


 唸り声のような低い声を発したかと思えば、左腕に絡みつくそれビビアンを勢いよく振り払った。


「キャッ」

「姉上! どうしたんだウィン! いきなりこんな態度をーー」


 尻餅をついたビビアンを助け起こそうとしたノア共々、二人はピタリと動きを止めると顔が真っ青になりダラダラと汗を流した。

 ウィミリオンの周りに黒く、いや、赤黒い魔力が揺れ上がり、酷く禍々しく見えるその様に二人は威圧されていた。


「ふざけた事を喚くなーー! 俺にとって大切なのは過去も今も未来もロシュただ一人だ! 王家への忠誠も魔族の討伐も、全てロシュのためーー」

「そんなわけーー! わたくしが聖女様を害しようとした時もとめてくださって、極刑もありうる事案でしたのに黙っていてくれたではないですかーー! それでわたくしも目が覚めたのです。届かない王太子を追い求めるより身近なわたくしを愛しんでくださる方こそ大切にしていこうとーー! 聖女様にすら冷たいあなた様がわたくしだけはエスコートも……」


「勘違いも甚だしいーー! お前たちは愛しい人の家族だから没落しないよう画策し失礼のないようにしていただけでーー」


ーーあ。


「愛しい人の家族ーーですってーー?」

「ウィン……どういう意味だ? 」


 訳がわからない、と言った様子の二人に、やらかした事に気付いたウィミリオンの威圧が解けた時ーー



「キャァぁぁぁーーーーー」

「ぎゃぁぁぁぁーーーー」


 悲鳴と同時に爆発音が響き渡る。

 同時に部屋のドアが勢い良く開き騎士が飛び込んできた。


「団長ーー! 魔族の襲撃ですっ」


「お二人は裏口から外へーー!」


 慌ててノア達に退路を示しウィミリオンと共に店の外へ出ると、潮風と共に濃い血の匂いがたちこめ……そこには黒い目に黒い角、爬虫類の様な尻尾を生やした、大柄の魔族がーー。暗くなり始めた海から這い上がり人々を襲っていた。


【クククッここに追撃者のツガイがいると聞いたがーーまさか本人までいるとはなっ】


 禍々しい声を発するそれ魔族は、よくみれば全員手負いだ。言い放ち際に手を振り下ろすと攻撃が飛んできて、咄嗟に炎をぶつけるーー。

「ロシューー! 危ないから下がってるんだ! いや、俺の側を離れないでーー」

「私も戦う! こう見えて魔法は得意なの!」


 本来ならヒロインの敵として立ちはだかるはずだったルイーズわたしは、光属性以外の全属性を使えるはずのスペックがあった。

 だが使ったことがなければ使えない。

 孤児院で、湯屋で、毎日毎日水と火魔法を使い、炭酸風呂や電気マッサージ的に雷魔法が使えないかと練習し続け、その3つだけは完璧に操ることができるーー!


 幸い魔族の後方は海の浅瀬から上がって来ているーー。

 集中するために詠唱がいるけど……使うべき魔法は一つ!


【ヘビのようにしつこい追撃者どもめーーその娘の命が惜しくばここで自害をーー】


「天ッ雷っ!!!!!! 」


 上空に両手をかざし、そう叫ぶ詠唱すると一瞬で厚い雲が空を覆い強風が吹きつけーー

ーーバリバリバリピシャーンッーー


 夕闇の空を二つに引き裂いたかと思われる程の音が、光が、魔族が頭を出していた一面の海に落ちた。


【バカなっーーなんだその魔法わざはーー】


「敵を前によそ見とはーー舐められたものだ」


 言葉と共に、ウィミリオンが先頭にいた魔族の首を狙いしかし避けられ腕を切り落とす。

【ぎゃぁぁぁ】

 辺りでも駆けつけたウィミリオンの騎士団が魔族を切り付けーーノアも攻撃にまわっている。

 陸の上は任せて大丈夫そうね!

 目の前の海に駆け寄りーー


「天雷ッ! 天雷ッ! 天雷天雷天雷ーー!」


 海面から頭を出す魔族がいなくなるまで、ひたすら雷を落とし続ける。

 最後の天雷を放つ頃には、魔力に余力はあったが叫びすぎて喉がヒリヒリした。


「はーっはーっ」


 空気を求めて肩で息をし額の汗を拭う。これだけ打ち込めば、もういないだろうーー

 後方の陸を振り返るとーー


ーー シーン ーー


 そこには魔族を討伐した姿勢のまま固まった騎士たちと、ノア、逃げ遅れたのか動きを止めたまま固まってこちらを見ている住民達や、ビビアンがーー



 あれ? 何、かまずったかなーー



「えーーっと……こちらは殲滅しました! そちらはいかがでしょう! 」


 聞かなくても一目瞭然、生き残った魔族はいなかった。


「怪我はないかロシュ! 」


 私の一言でハッとしたウィミリオンが、駆け寄ると抱き上げてきた。


「ぅわっ! 私は無傷よ…ウィ…ミリオンこそ」


 支える腕や肩に滲む血にそっと触れる……痛々しいが幸い浅そうだ。


「これくらいすぐ治るよ。俺ーーんんっ、ぼくのせいで巻き込んでごめん。まさか向こうからやってくるなんてーー」

「ふふ、こう見えて魔法は毎日使っているから、雷くらい余裕よ! それにしても、本当は自分のこと俺っていうんだね」

「私の前で取り繕わなくたって、どんなミリオンも大好きだよ」


 “俺”を“ぼく”と言い換えていたなんて。大きくなってもかわいい姿が垣間見えふわりと笑った。


「ロ……ロシュ、嬢、先程の魔法はーー」

 雷に感電でもしたのかの様に、手足を震わせながらヨロヨロとノアが近づいてくる。

 離れてたもの、当たってないよね?


「か、雷は光か、火水風木の属性がないと使えない技のはずーー」

ーーん?

「風に雨雲、先程の術は後者ーー」

ーーんんっ?

「それに、あれだけの威力、一撃にも相当な魔力が必要なはずーー」

ーーーーっ!


 かすれ気味に話しだした声は次第に声量が上がっていき、あたりがざわめきだす。騒ぎを聞きつけたのか、雷の光に寄って来たのか、遠巻きに人だかりができていた。


「それにウィンの先程の話ーーあなたはまさか、もしかして、万が一にも……ルイーズ・ジョアンヴィなのではーー! 」

「膨大な魔力と光以外の全属性を持ち合わせ将来を有望されたジョアンヴィ公爵本物の公女……」

「そして5歳で行方知れずとなり、父上が探し続ける私の姉上の……」

「「なっ」」


 私のものとは別に、遠くで声が重なったと思えばそれはビビアンの声だった。

 どうしようーー

 オロオロとウィミリオンを見る。


『大丈夫だから、俺に任せて』


「彼女こそ俺の最愛の人、魔族の残党を殲滅し御方。ルイーズ公女だ」




ーーーーーーーー


 燃えるように赤いストレートの髪が風になびく。私の髪、転生してからの髪はそういえばこんな色だった。ずっと茶髪で過ごして来たからなんだか見慣れない。


 結局新聞で瞬く間に知れ渡ったに公爵家に連れ戻され、かつて自室だった2階の部屋のテラスにいた。湯屋事業はたたみ、シャンプー類の販売を引き続き行うこととなり、公爵令嬢という立場も相まり商会を通じて王国貴族との取引も行っていくこととなった。

 もう記憶も朧げな実家に帰ると、部屋は幼い頃のままーーいや、部屋の一角に、大量のプレゼントが置かれて綺麗に掃除されていた。公爵は何年もルイーズを探し、これ以上の捜索は無意味だと打ち切られた後も、誕生日の度にプレゼントを用意してはこの部屋においたのだという。いつか帰って来る日のために。



ーーーーーーーー


 家に戻る道すがら、ウィミリオンから聞かされた。

「ロシュの夢を壊してしまってごめんーー。ただ、詳しい事情は直接聞いたほうがいいけれど、ジョアンヴィ公爵は何年もルイーズを探していたんだよ」

「うそ……」

「嘘じゃない。騒動で覚えていないかもしれないけれど、魔族討伐の時ノアもそんな様なこと言っていたよ?」


 言われてみればそうだった気もした。


 十数年ぶりに再会した父、公爵は成長したルイーズわたしの顔を見るなり泣き崩れた。

 公爵はルイーズの出産の際前公爵夫人、つまり私のお母様を亡くし、妻の面影が宿るこの顔をつらくて見ることができなかったのだという。憔悴しながらも公爵として務めを果たすべくパーティーへ出席する日々の中、男爵家の出戻りである現義母に一服びやくを盛られ、さらにその一度でノアまでお腹に宿り、ますますルイーズに合わせる顔がなかったのだと語られた。

 お母様の肖像画は、髪と目の色は違えど私と瓜二つだった。ゲームでは語られることのなかったルイーズの生い立ちは、ゲームでの先入観から“悪役令嬢だからそういうものだ”と思い込んでいたが、この世界に生きる“実の娘”として早々に向き合うことを諦めてしまって申し訳ないことをしたと思う。


 あれからビビアンは、私の怒涛の天雷雷連発にすっかり怯え、ウィミリオンへも私へも手を出してこなかった。勘違いとはいえ、恋に敗れた義理の姉になんと声をかけたら良いかわからないーー。

 時間が解決、してくれるよねーー。

 屋敷へ戻ってお義母様もそれを伝え聞いたのか、或いは一足先に発行された新聞を読んだのか、昔のように命を狙うこともなく、元々お父様の寵愛も無く地方の領地へ身を潜めた。



ーーーーーーーー



「ルイーズ嬢の功績を讃え、ジョアンヴィ公爵家次期当主となることをここに認める。また、当主となった暁には新たな領地を授けようーー」


 王宮へ呼び出されたかと思えば、魔族を根絶やしにした功績を讃えられ公爵家後継者の座が確約として降ってきた。


「恐れながら申し上げます。私は長年平民として暮らし、お恥ずかしながら後継者教育も受けていなければ令嬢としての教養もありません。また、当家にはジョアンヴィ公爵の長男ノアがおります。公爵家次期当主など、私には分不相応でございます」


「ふむ……ジョアンヴィ公爵と話はついておる。其方ほどの魔力脅威の持ち主、さらには“魔族の殲滅”を成し遂げた功績にはそれこそ幼き頃予定していた王太子妃の座、或いは公爵家当主の座こそ相応しいーー。しかし既に聖女様を妃として娶っている。であれば、王太子の第二夫人となるかーー?」


 私の天雷連発は、王国でも広く噂となり“殲滅の魔術師”とかいう通り名までついてしまった。

 再び断罪路線復活ーー!? そうでなくてもウィミリオンが王太子と深く関わってしまっているのに、これ以上の関わりや第二夫人だけは避けたい。避けたいというか絶対避けなければーー


「お待ちください陛下、湯屋のロシュことジョアンヴィ公爵家ルイーズ嬢こそがです。忠誠の魔術紙の条約をどうぞ、お忘れなきようお願い申し上げます」


「ーー私は、王太子殿下と王太子妃であられる聖女様の幸せを切に願っております。ジョアンヴィ家次期当主の座を謹んでお受けいたします」


 国王陛下は威厳のある、しかし柔らかな笑みを深くし言葉を紡ぐ。


「“市井のロシュ“ではなく“公爵令嬢”ひいては後の公爵であれば、王太子最側近の騎士であるウィミリオン卿にとっても申し分ない。ウィミリオン卿は一代限りの爵位であるが、公爵の夫となれば半魔である其方の地位も、またいずれ産まれるであろうそなたたちの子供も、安泰であろう。これからも其方には、王太子を支えてもらいたい」



 キスしちゃったけど結婚の申し込みも承諾していないのに、子供と言われてボンっと顔が熱くなった。


ーーーーーーーー



 テラスから部屋へ入ると、公爵邸へ呼び出されたウィミリオンが座っている。


「それで……俺に話したいことの、考えは整理できた?」


 隣に腰掛け向き合うと、少し照れくさい。


「取り繕わなくたって、どんなウィミリオンも大好きーー。あれが素直な私の気持ち」


「ーーうん」


「私、公爵令嬢としてはマナーも教養もまだ全然ダメだけどーー」

「ーーふふ、俺も苦手。一緒に学ぼう」

「次期公爵なんて、ちゃんと出来るかわからないけどーー」


 そう言ってチラリと見上げれば、とろけそうに甘い笑顔がそこにあってーー。

 顔に熱が集まるのを感じながらも負けじと、とびきりの笑顔を向ける。


「私でよければ、結婚してください。ウィミリオン……私の可愛いミリオン」

「ありがとうロシュ……俺のルイーズ! 一緒に幸せになろう」

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