江戸で穏やかに暮らしたい俺をラブコメが離してくれない
晴山第六
第1話 此処は江戸
徳川家康が1603年に江戸に幕府を開き、1867年の大政奉還まで江戸時代は続いた……のは気のせいで、江戸幕府は2024年もバリバリに続いている。今年で421年目になる。
1867年頃の、江戸を終わりにして別の体制するだとか、そんないざこざは、まあなんやかんやあったけど江戸幕府の制度はノリで続けましょ的な会議の結果、存続することになった。
そこそこの平和で、421年続いていた江戸時代だが、過去の制度は残っていたり、残っていなかったりしている。参勤交代は続いているが、新幹線、飛行機で行われる。基本は日帰りだ。
2024年だからスマートフォンはもちろんあるし、江戸ではアップルのシェアは70%に近い。制度上一応鎖国という事にはなっているけど、すべての空港は例外で世界中の殆どのところは行けるし、殆どの国の人は日本に来れる。つまりは形骸化ということだ。
服装は殆どの人は和服で、木造建築ばっかりだ。理由はそのほうが世界でウケるとエラい人が考えたから。言葉遣いも大きく変わった。同じ時代が続いたからって言葉が変わらないわけじゃない。
保経七郎(ほへしちろう)は午前11時に目が覚めて布団でゴロゴロしていた。平均起床時間が午後2時の保経七郎からしたら相当に早い起床である。布団にくるまりながらスマートフォンを見ていると、長屋の引き戸が開いた。
「保経七郎、お前今日も藩校の1限をサボったのか。これ以上休むと退藩校(現代で言うところの退学)になるぞ」開口一番、こう申すのは上尾蕨太郎(あげおわらびたろう)。初等部からの付き合いの親友である。1限に保経七郎がいなかったため、このアパートにやってきた。保経七郎は寝ながら言った。
「まあ、落ち着きたまえ。1限どころの話ではないよ。僕は君と違う授業を2、3限と取っているからね。それはさておき新しいバーボンを手に入れたから君も飲むかい?」さて置けないことを話しながらちゃぶ台に移動し、バーボンのボトルを手に持つ保経七郎、新しいと言うバーボンはボトルの1センチほどしか残っていない。
「2限は無理だが3限にはまだ間に合うぞ。それに君は今起きたばかりだろう。酒はやめておきたまえ。身体に毒だ」蕨太郎が言った。
「毒なものか。バーボンだぞ。アメリカのウイスキーだ」意味不明なことを言いながら、バーボンのボトルからラッパ飲みを始めた。
「流石にやばすぎる」流石にやばすぎると思った蕨太郎が言った。
ふぅ、と一息ついた保経七郎は布団に戻り横になろうとした。寝るつもりである。
このまま彼が寝てては本当に退藩校になってしまう思った蕨太郎が言った。
「とりあえず、外に出よう。このまま家にいてもせっかく江戸にいる意味がない」
「分かった。じゃあ、駅前の喫茶店で待ち合わせよう。先に行っていてくれ。絶対行くから」
頷いて長屋を出た蕨太郎を見送って、保経七郎はとりあえず寝ようと思い布団で目を閉じた。途端に長屋の扉が開いた。
「保経七郎くん、今日も藩校の1限をサボったの。これ以上休むと退藩校なっちゃうよ」開口一番、こう申すのは、神田柚子(かんだゆずこ)。保経七郎の所属している三味線サークルの一つ先輩である。
「柚子さんじゃないですか!おはようございます!」保経七郎は柚子をみるなり高速で正座の体勢になった。保経七郎の行動から分かるように柚子は目の覚めるような美人なのだ。
「君が退藩校になると聞いてね。さよならを言いに来たんだ」柚子が言った。
「いやいや、そんな。柚子さんがいるうちは辞めません」保経七郎は言った。
「その心意気はいいけど、とりあえず授業に出な」
「仰せのままに。3限より必ず出ます」
「3限まで時間もありますし、うまいナポリピッツァの店に行きませんか。最近見つけたんです」喫茶店で待つ親友には悪いが、保経七郎は、彼を捨てることにした。
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