あなたの夢、いただきます

水月蓮葵

プロローグ

 この世界には白と黒の夢喰いバクがいる。

 いつから存在しているかわからない謎多き生き物、なんて言われている。



「白バクは良夢を呼び寄せ、黒バクは悪夢を喰べてくれる」



 誰が言い始めたのかなんて知らない。

 でも、当たり前のように言われるようになってたんだって。


 正直、私たちの出生の秘密とか、言い伝えまがいの言葉とか、どうでもいい。

 自由に解明すればいいし、思いたいように思えばいい。


 そもそも人間なんて、都合のいい解釈しかしない生き物なんだから。

 本当の事なんて知らなくたって、生きていける。


 ああ、なんて滑稽なのかしら。私たちに夢見てバカみたい。



 極端な話に思えるかもしれないけど、世界は二種類の生き物――、喰う側か、喰われる側かで、できてる。

 どんな生き物でもそう。でも、人間だけは何故か危機感が他に比べて特に薄い。


 人間アレはどうして喰われる側だと思わないのかしら、と昔、ツイに聞いたことがある。



「真実を知らないのだから、仕方ない」



 あいつは簡単にこう言う。でも、きっと正しい。


 人間アイツらなんて私たちにとってただの食事えさでしかない。

 それを知らないから、喰われる側だと自覚すらできない。

 なんて哀れな生き物なんだろう、と同情心さえ覚える。


 私たちは人間から生み出される夢をべて生きるバク。

 黒バクは悪夢を。白バクは良夢を。


 何も気にしないで喰べることができたら、ストレスなんて、きっとなかった。

 でも、世の中、そんなうまい話があるわけない。


 私は良夢りょうむを見つけることが叶わない。自分のために夢を探すことはできない。

 その上、食事は必ず黒バクから喰べないといけない。

 だから、ツイの食事を探さなきゃいけない。私が喰べたいだけの量と質を。


 黒バクも然り。差し出された夢と同等の良夢を差し出さなければならない。

 それが絶対のルールで、世の理。決まり事。だから、私は悪夢を探すの。


 全ては私のため、生きるため、良質な夢ごちそうのため――。


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