女の子が目を覚ましたそうです

「アナベル様。ご令嬢がお目覚めになりました」


女の子を拾ってから、約二日。私は訓練をしていた手を止めて、呼びにきてくれた侍女に振り返る。


「あら、じゃあ今日の訓練はここで終わりね」

「シャー!」

「よ、かった」

「あー!!フィル!力尽きるな!」

「落ち着け!ただの魔力切れだ!」


私の本日の訓練終了宣言に、部下たちは大歓喜。総勢300名が一気に騒ぐものだからうるさいったらありゃしない。


「団長〜。いつも言っているじゃないですか〜。あんまりしごきすぎるな、って」


そう、半泣き顔で縋り付いてくるのは、魔術師団の副団長であるカイト。黒髪黒目の美青年で、城の女の子たちに結構モテている。顔立ちが整っていることは、それだけ強いと言うことでもある訳で、この魔術師の中ではかなり強い方である。ま、団長である私の魔力量と技術には勝てないけどね。(ドヤァ)


「現代日本だったら、ブラックすぎて訴えられますよ!」

「ブラック?ニッポ…??変なこと言ってないで、早く行くわよ」


確かに優秀なんだけど、時々よくわからないことを口走る時がある。スマホ?はなぜないんだ!、だとか。カレー食べて〜、だとか。それはなんだと聞くと、この世には存在しないようなものの説明をするもんだからよくわからない。なんでこれがもてるんだ…


「カイト様、あなたは何を言っているのです。魔術面では優秀でも、お頭はよろしくないのですか?」


そう冷たい目線をカイトに向けながら言うのは私専属の侍女であるアシュリー。雪のような真っ白な髪にアイスブルーの瞳を持つ美少女で、今まで数々の男たちが言い寄って来た。だが、そのほとんどがアシュリーの毒舌と冷たい視線に次々と挫折していった。


「そんな厳しいこと言わないでよ〜。俺、期末テストで五位から十位をうろうろするぐらいには勉強できたんだぜ」


カイトは、アシュリーの毒舌を受け流せる数少ない人物だ。しかし、何を言われても折れない鬼メンタルの持ち主である。陰口とか噂話くらいでは傷付かなない。いや、気にしないのか。一体どんな生活を送っていたらそんなメンタルができるのだろうか。


「そんな試験この世に存在しません」

「別の世界にはあるんだよー」

「また別の世界のお話ですか?いい加減痛いですよ」

「しょうがないじゃん!事実なんだから!」


まぁ、なんだかんだ言いつつアシュリーも楽しそうだ。いつもの完璧無表情ではなく、少し口元が緩んでいる。

実は、アシュリーはすごいツンデレで、普段はツンツンだけど、弱っていたり、甘える時はとことんデレる。カイトにはそこそこ心を開いているみたいだし、もしかしたらカイトに隙を見せることもあるかもしれない。


(さぁ、その時にカイトはアシュリーの可愛さに耐えられるかしら?)


十中八九惚れるだろうし、なんならもう手遅れかもしれない。


(そこは上司と主人が介入するべきことではないわよね。是非ともくっついて欲しいけれど)


カイトも、モテる割には恋愛経験が少ない。ヘラヘラした雰囲気とは対照的に、慎重に物事を進めるので、なかなか進展しないだろう。


「アナベル様、何ニヤニヤしているのですか」

「そーだよ団長。めっちゃ楽しそう」


さっきまで言い合いをしていた二人が訝しげにこっちをみる。あなた達のことよー。


「んー?なんでもないわー。っとついたわね」


サラリと答えをはぐらかし、私は大きな扉に手をかけた。

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