女の子を拾いました
魔王四天王の一角である私、アナベルは、今とんでもない事態に遭遇している。
今日は珍しく、魔界の端っこの方へ来てみたら、人間の兵士がやってきて、女の子を捨てていったのを見てしまったのだ。兵士は、何やら汚い言葉で女の子を罵りながら、お仲間とゲラゲラ笑いながら帰っていった。
(さて、どうしたものか)
人間は、定期的に魔界に軍やら勇者(笑)を送り込んでくる中々面倒くさい人たち。特に、魔界に最も近いアネモネ王国は、二百年おきぐらいでちょっかいかけてくるから面倒くさい。
あちらでは、魔界に住む魔族は悪きものとして忌み嫌われてるらしいけれど、元を辿れば魔族も人間も同じ。魔界に適応した人間につのが生えて長寿になっただけで。今では向こうの文献は残っていないらしい。
正直面倒ごとには関わりたくないんだけど、16、7歳くらいの女の子をこのまま放置は後味が悪い。かなり衰弱しているし、ここにいたらすぐに死んでしまう。
少し悩んだ結果、一旦魔王城に連れて帰ることにした。
(ちゃっちゃと帰ろ)
女の子をよく見ると、ずいぶんと綺麗な顔立ちをしている。少し汚れているけどよく手入れされた金髪に、長いまつ毛に覆い尽くされた瞼。気を失っていて瞳は見えないけれど、かなりの美少女。しかし、そんな綺麗な顔には似合わず、ボロボロになったドレスに、体に所々アザや殴られた跡がある。さっきの兵士といい、一体どんな扱いを受けていたんだか。
そんなことを考えているうちに、移動魔術の準備が整った、別にここまで綺麗に準備しなくてもできるが、なんか気持ち悪いのだ。綻びがあると。
「
☆ ☆ ☆
次に私の目の前に広がったのは、魔王様の玉座の間。今ちょうど仕事がひと段落しているはず。
「うわ」
「アナ…」
「おかえりー」
「急にワープするなと何回も言っておろう!」
突然現れた私を、呆れ顔で見る男女三人と、その端正な顔を思い切りしかめた玉座に座る男性に注意を受ける。
「申し訳ありません。オースティン様」
そう言って、私は主人たる魔王様に恭しく頭を下げる。魔王オースティン。我ら魔族、魔物を統べる王で、私の直属の上司でもある。よく突然ワープして怒られるのだが、辞めるつもりは毛頭ない。
「絶対お前またやるだろ。まぁいい、どうせ聞かん。で、その娘は」
オースティンは諦めたようにため息をつき、アナベルの腕に抱えられた女の子を指差す。物凄く面倒そうな顔をしているけど、そこは無視するわ。
「魔界の端っこに出かけたら、人間が置いてったのよ。多分アネモネ王国の人間だけど、酷いことするわよね」
「かわいそ…」
「何その子可愛いんだけど」
魔王に対して不敬だと言うかも知れないが、私たちはいつもこんな感じだ。魔王の側近である以前に幼馴染でもあるから。本人が許可してるから問題ない。
「アネモネ王国のご令嬢か…これまた面倒な。状態を見る限り、まともな扱いを受けていたわけではないだろうが」
オースティンが同情めいた視線を向ける。そこそこ高級な物を使ったドレスを着ているから、いいところのご令嬢だと思うんだけど…明らかに状態が悪い。本当にご令嬢なのか?と疑ってしまうくらい。
「ご令嬢は、まず手当をした方がいい。魔王様、魔王城の一室を使ってもよろしいですか?」
一応お伺いを立てるのはリアン。魔王四天王の一人で、宰相でもある。「鬼宰相」と呼ばれているが、人使いが荒い…いや仕事量が多いだけで、普通に優しい時もある。…腹黒感は否めないけど。
「あぁ、好きにしろ」
オースティンが疲れたように眉間を揉む。その様子を見てリアンが労うように言う。
「本日の執務は、先ほどの謁見で最後です。お疲れ様」
仕事モードから切り替わり、柔和な笑みを浮かべる。リアンはプライベートと仕事をしっかり分けていて、仕事に入ると人が変わったように冷徹になる。スイッチでもあるのかしら。
「アナ、行くよ」
そう言って、女の子を私から受け取ると、踵を返して歩き出した。
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