RGB:僕と浮世離れの戯画絵筆 - 緑色のアウトサイダー・アート -

雪染衛門

00. すべての絵師を処せ

何度もやめようと思った。

でも、僕は。それでも僕は……。

嫌いになったことはない。




◆◆◆





「すべての絵師を処せ」


 それはいつも唐突に声高に、どこからともなく叫ばれる、この穏やかでない号令からはじまる。野蛮ながら少しも悪意の色がない。

 きっと様々な経緯いきさつで歪んでしまった正義が、極端な結論へと、辿り着いてしまったに違いない。


 僕の目の前ではいま、共に戦ってきた大切な人たちが次々と涅色くりいろ塵芥ちりあくたとなって、その形を失っていく。


 ゆずれない想いを確かめ合った時間も、かけがえのない願いが紡いだ絆も、食べかけのウエハースから漂う懐かしさも、すべて粒子に変わる。

 生きとし生けるもの、あまねく生命が灰塵かいじんと化してゆく。


――ああ、またこの夢か。


 どうやら、僕は“世界の終わり”を夢で見ているようだ。それもある日を境に定期的に見るものだから、何度かくり返しているうちに、いつしかこれは夢だと自覚しながら、見られるようになった。明晰夢めいせきむってやつなんだと思う。




 飼い猫の死だった。

 この夢を見るようになったきっかけは……。


 僕にとって初めて、の当たりにした家族の死。

いくら泣いてもわめいても、二度とその鈴を転がすような鳴き声で応えてくれることはない。そんな現実を、当時小四だった僕は受け入れることができなかった。


 だから望んでしまったんだ。


「僕の描いた絵が本物になったらいいのに」


 描いた絵を具現化させることができたなら、そうしたら大抵のことは僕の思い通りになる。大切なものを失うことも、抗えない痛みや悲しみに心を染めることもなくなるだろう。


――人が想像できることは、人が必ず実現できる。


『海底二万マイル』のジュール・ヴェルヌだって言ってる。だから……。

 いけないことだとは十分にわかってた。だけど、この時ばかりは良い子ではいられなかったんだ。


 だって、人を笑顔にする行いに悪いことなんて、ひとつもないじゃないか。


 それなのに……。




 これは、絵空事のような僕の願いから生まれたはじまりの呪いと、戦う絵師たちの決して色せない勇気の物語。――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る