幼馴染のもっこり兵士は世界を救うのか!?〜転生者と女商人を添えて〜

稲田亀吉

序章

第1話 サカグチ・アキラ

 坂口さかぐちあきら(享年28) は、どこにでもいる、普通のサラリーマンだった


 職業は、不動産会社『リカオンハウジング』の営業職。180cmの恵まれた体躯に、黒髪を爽やかに、ツーブロックに揃えている


 今はすっかり練習しなくなってしまったが、高校までは、剣道部に所属していたスポーツマンで、副主将としてインターハイに出た経験もある。仕事は順調、プライベートでは、結婚を約束した彼女がいる。そんな、ありふれた男だった



 その日は、とても暑かった


 新人の佐藤さとうまい(22)と共に、分譲マンション内見の仕事を終え、営業車に乗って会社へ帰る途中だった


 「先輩。鈴木様、かなり満足気でしたね!」


 助手席の佐藤は、今日の内見が上手く行ったことを興奮気味に話す


 「ああ、あの様子じゃ、佐藤の初契約は“鈴木様宅”かもな」


 「じゃあ、私が初契約取れたら、先輩。何かご馳走してくださいよ〜」


 「まあ、そん時は、な」


 2人の乗った軽乗用車が、見通しの良い片側2車線の道路を走っていると、突如、対向車のミニバンが大きく線をはみ出した


「あぶない!」


 2人が乗った軽乗用車は、なすすべなく、ミニバンと衝突。大きく弾かれた車は、電柱に激しく叩きつけられた。大破した軽乗用車。運転席側が、原型を留めていない


 この事故で加害者の男と助手席の佐藤は、重症だったが、坂口は、電柱と車の間に身体を押し潰されていた。即死だった



 ——『誰かが泣いている。ああ、俺は生きているのか、それとも......』 ——


 ふと目が覚めると、知らない天井だ。なんだか西洋の城の様な、古めかしい天井。そして、無駄に大きく、ゴージャスすぎるフカフカのベッド。まだ視界がぼやけている。不思議なことに、大きな事故だったはずなのに、何処も痛まず、むしろ身体が軽い


 「ここは、病院......?では、なさそうだ」


 「坊っちゃん......?ああ、坊ちゃん!レオナルド坊ちゃん!あああ、何と!嘘じゃあるまいな!」


 礼服できちっと決めた、本格的な老紳士が、急に部屋に入って来た


 『何?お店?いや違うだろ。しかし、どう見ても、日本人じゃなさそうなのに、すごく流暢に話しているなぁ。レオナルドって誰?人違いじゃあ、ありませんか?』などと、聞きたいことが次々と浮かぶが、今聞かなければならない、最低限の疑問を口にする


 「あのー、ちょっと待ってください。ここは何処ですか? オレは、坂口晃。日本から来た、只のサラリーマンです」


 老紳士は一瞬キョトンとしたが、その後、急にさめざめと泣き出した


 「ああ!おいたわしや......私のことはさておき、ご自身のお名前も、分からぬとは!」


 そう嘆くと、この老紳士は、これまた本格的な侍女メイドを呼んだ。持って来させた手鏡を渡される。それを手にとり恐る恐る、自分の姿を確認する


 碧い瞳。少し長めの、ウエーブの掛かった褐色髪の、およそ10歳くらいの“外国の子ども”がそこには写った


 「ゑ!誰!?誰なんだァ〜ッ!?、これはッ!?」


 少年の悲鳴は、広いお屋敷じゅうに木霊こだました

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