叛逆の百分率
第82話 波紋
それ程までに、
己の存在証明。
人が似足歩行をするように、言葉を話すように、種として掲げるべきもの。
そのため現代世界では、身体に数字を刻むのはある種の
時には
ではそんな社会で、成長と共に数字が変わる者がいたら、どのように見られるのか。
現実は火を見るよりも明らかだ。
「理事長、彼の少年の噂は確実に広がっています」
桜花魔法学園の教員、
彼の少年とは、適性試験で
護は入学試験の時から異質な輝きを放っていた。
そもそも『エナジーメイル』すら使えない。使える
彼は入学試験で剣崎王人を倒し、ボランティアではランク2の
更には先の適性試験において、
経歴だけを見れば、あまりにも輝かしい。
しかしそんな彼について回る噂は、あまり良いとは言えないものだった。
エナジーメイルすら使えない
そして今回の件が駄目押しになった。
突如として
これまで『
そうそれはまるで、
「彼は、
真堂護の
「どうされますか?」
佐勘に問われ、初めて部屋の主は振り返った。
窓から差し込む日の光に透ける白金の髪が、ヴェールのようにひるがえった。
そしてその向こうに覗く顔は、動くことが不自然にさえ見えるほどに、完成された美しさだった。
この部屋の主、桜花魔法学園の理事長――アークライトである。
「どうするとは?」
問いかける声は、ガラスの中で転がしたように澄んだ響きを奏でた。
「対応はしなくてよろしいでしょうか」
「必要ないだろう。突出した杭に付いて回るものだ、そんなものは」
そう言うと、理事長は薄く笑みを浮かべた。
「本人がどうにかする。そうでなければ、その程度の器だったということだ」
「承知いたしました」
明らかに年上である佐勘がうやうやしく頭を下げるその光景は、人によっては奇異に見えるだろう。
しかし理事長の存在を知る者であれば、当然のものだった。
魔法省お抱えの国立桜花魔法学園。日本最大規模の、魔法師育成学校。
その設立当初から、アークライトは理事長としてトップに立ち続けてきたのだ。
この学園で彼女に逆らえる者は一人として存在しない。
「それよりも、私の庭で勝手をした愚か者は見つかったのか?」
「いえ、まだです」
「そうか。私は、あまり気が短い方ではないぞ」
「もちろん、存じております」
アークライトの言葉に、佐勘は深く頷いた。
愚か者とは、エディさんにウィルスを入れた犯人のことだ。ほぼ間違いなく、内部による犯行。
そしてその犯人が見つからなければ、アークライト自身が動くと言っているのだ。
彼女が動けば、どうしたってことは大きくなる。世間に及ぼす影響の大きさは、考えるだけで苦虫を噛み潰したような気分になった。
アークライトはそんな佐勘の様子を見て笑った。
「頼んだぞ佐勘。
「仰せのままに」
佐勘は一人理事長室を出ると、ひたひたと廊下を歩き始めた。
裏切り者の捜索、急遽決定した一年生の強化合宿、適性試験の不備による
やるべきことはいくらでもある。
「十善先生」
そんな佐勘に声を掛けてくる者がいた。
横を見ると、廊下に寄り掛かった一人の男が薄ら笑いを浮かべて立っていた。
二年を担任している
長めの茶髪に、薄っぺらい笑みを張り付けた顔。柄物のスーツも相まって、教員というよりは新宿でホストでもしていそうな見た目だ。
「理事長様はなんて?」
「雲仙先生、あとで職員室で全員に共有しますよ」
「どうせいつも通り、さっさと見つけろ、でしょ。俺がやりましょうか? 手っ取り早く終わらせますよ」
へらへらと言う雨霧に、佐勘は目を細めた。
「子ども達も今は不安定な時期です。あまり極端なことはしない方がいいでしょう」
「悠長ですね。そんなことをやっている間に次の被害が出ますよ」
「そうならないように、動くのでしょう」
「まどろっこしいですね。
ぐっ、と喉ぼとけに圧迫感を感じ、雲仙は言葉を閉ざした。
いつの間にそうしたのか、佐勘の右手が雲仙の喉に触れていた。
「――小僧、そこまでにしろ」
「‥‥すみませんね」
両手を上げた雨霧を見てから、佐勘は手を下ろした。
「申し訳ありません、取り乱しました。今は
「ほう、それはまたどうして」
「学校で対処できないと判断されれば、魔法省の手が入ります。これ以上、外部の者を校内に入れるわけにはいきません。ここは理事長の手によって守られています。そうであるからこそ、神聖な
「‥‥なるほど」
「あなたの家も同様ですよ、雲仙先生」
「そんなつもりはありませんでしたけど」
雨霧は肩をすくめた。
佐勘はそれ以上何も言うことなく、歩き出そうとした。
そこへ、雨霧が「ああ」と声を掛けた。
「じゃあ、この学校に入学してきた生徒が、この学校にとって害になる場合、どうするんです?」
「‥‥」
佐勘は振り返らずに答えた。
「無論、私が対処します」
そう言い残すと、佐勘は今度こそ職員室に向かって歩き始めた。その顔は、もういつも通り、善ちゃん先生と呼ばれる柔和な笑みに戻っていた。
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第三章『
今回は楽しい楽しい合宿です!
お楽しみいただければ幸いです。
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