第30話 モンスターアラート
「
誰が叫んだのかは分からなった。
星宮が即座に立ち上がり、声を張り上げた。
「皆さん落ち着いてください! 私は桜花魔法学園の星宮です! まずは落ち着いて避難区域とルートの確認をしてください‼」
よく通る声は、周囲を水を打ったように落ち着かせた。
そうだな、とそれぞれスマホを取り出して避難区域を確認し始める。
これなら大丈夫そうだ。警報から
「俺たちも確認しよう。星宮は識さんたちに連絡を取ってくれ」
「ええ、そうね」
スマホを取り出すと、政府から非難区域とルートを記した地図が送られてきていた。そこまで大きな範囲じゃない。大規模な災害レベルではなさそうだ。
避難区域を示す赤い線はレッドラインと呼ばれ、戦闘の余波を含めて予想される。
「駄目、連絡がつかないわ」
「そうか‥‥。どうする?」
ここで識さんたちを待つか、それとも避難誘導をするか、避難するか。選択肢は三つだ。
俺たちは何の資格もない学生だ。本来なら避難するのが筋。
星宮は少しだけ考える素振りを見せると、すぐに決断を下した。
「近くの警察の方に声を掛けましょう。何か手伝えることがあるかもしれないわ」
「分かった」
俺たちはカフェを出て大通りに出た。既に様々な人たちが避難誘導にあたり、人々は落ち着いた様子で避難をしている。
近くで声を張り上げていた警察に、星宮は声を掛けた。
「桜花魔法学園所属の星宮と真堂です。ボランティアで避難ルートの確認に来ていました。何かお手伝いできることはありますか?」
「え、桜花魔法学園? そうだな、誘導している人が少なそうな場所で、逃げ遅れている人がいないか確認してもらってもいいかい。ただし時間は十分だ。その時間が経過したら、君たちも避難しなさい」
「分かりました」
おお、案外すんなりと協力させてもらえるもんだな。それだけ桜花魔法学園のネームバリューが凄いということなんだろう。信頼度が尋常じゃない。
「行きましょう。まだ逃げられていない人がいるかもしれない」
「分かった」
俺は星宮に続いて人波に逆らうように速足で歩き始めた。
そして声を出し、避難を誘導する。
ほとんどの人は避難訓練のおかげで問題なく避難が進んでいる。幸いにも警戒区域が広くないおかげで、大きな混乱になっていないようだった。
「星宮、もう十分だ」
「ええ。まだ識さんたちから連絡がないけれど、仕方ないわね。避難しましょう」
「ああ」
まだ
ほとんど人もいないし、俺たちの足ならすぐに避難できる。そう思った時、星宮が足を止めた。
「どうした?」
「あれ‥‥まったく!」
おいおい、突然なんだよ。
星宮は『エナジーメイル』を発動すると、超人的なジャンプ力で歩道橋の上へと跳んだ。鮮やかだな。
上に何がいるのか分からないので、俺は階段から駆け上がる。
するとそこには星宮と、それに相対する男がいた。
「あなた、こんなところで何をしているの? 警報が出たのは知っているでしょう」
「‥‥あ、いや、ごめんごめん。ちょっと避難に迷っちゃってさ」
「それで、わざわざ高いところでカメラを構えていたの?」
「‥‥」
男が押し黙る。
ああ、そういうことか。
もちろん、真っ当な動画サイトなら配信できないが、裏サイトでは高値で取引されるらしい。
こいつもそういううちの一人だろう。
「動画なんて、そんな、証拠なんてないだろ」
「スマホを構えているが見えたわ。多分、私たちの姿も映っているんでしょう」
「そんなことないって」
「それなら動画を確認させてもらってもいいかしら。避難区域での無許可の撮影は犯罪よ」
淡々とした星宮の言葉に、男が顔を歪めた。
「お前さあ、さっきから聞いてりゃなんなんだよ。見たところただの学生だろ。お前にスマホ見せなきゃいけない理由なんてねーよ」
「あなた‥‥」
こいつ――。
「自分が撮られたなんて、自意識過剰なんだぐぁっ‼」
「いい加減にしろよお前」
俺は男の言葉をさえぎって胸倉を掴んだ。
「さっきから聞いてりゃいい大人がびーびー。避難警報が出てんのにこんなところでモタモタしてる時点でおかしいんだよ」
「てめっ、こんなことして、ただで済むと‥‥!」
「知るかそんなこと。こっちはお前みたいなのを相手にしている暇は」
「やめて真堂君!」
星宮が俺の手を掴み、強引に男から引きはがした。
ちょっとエナジーメイル使っているせいで、手首が痛い。
「星宮、こういうやつらは一々話してたらキリないぞ。無駄な言葉で責任をあやふやにしようとする」
そういう人間をたくさん見てきた。はなからこちらの言うことなんてまともに聞く気はないのだ。
「そうだとしても、私たちは絶対に手を出しちゃだめよ。あなたが
「‥‥それは」
「こんなことで罰則を受けるなんて損な話よ」
そう言うと、星宮は男に向き直った。
「すみませんでした。スマホはいいので、一刻も早く避難をしましょう。私たちが先導するので、付いて来てください」
「‥‥わ、分かったよ」
首を押さえていた男は、そう言って立ち上がった。
「――すみません」
憮然としながら俺も謝罪を口にする。
仕方ない。星宮の言う通り、
深呼吸をして気持ちを切り替えると、そのまま避難をしようとした。
その時だった。俺も星宮も同時に足を止め、橋の下を見た。
「ッ⁉」
「――!」
肌に突き刺さる圧。身体の内が戦慄で
俺はこの気配を知っている。
超次元の存在が現界する
「これは、まさか‥‥」
「予定よりも早いな」
学校で習った時よりも、出現までが早い。ビリビリとした敵意が針となって突き刺さる。
ゾッ‼ と歩道橋の下で黒い光が地面に幾何学模様を描く。それはまるでおとぎ話に出てくる魔法陣のようだった。
そして光は収束し、いくつかの形を作り出す。
それはチェスの駒のようだった。黒い駒が五体、道路の真ん中に鎮座している。
『もしも
鬼灯先生の言葉が思い出された。
すぐに逃げるべきだ。男を抱え上げ、『
「‥‥ぁ‥‥」
横を見た時、俺の考えは止まった。星宮が固まっている。明らかに緊張で筋肉が硬直し、呼吸が浅い。
俺はレオールで一度経験しているから、身体が動く。思考が働く。
二人抱えた状態で、逃げ切れるか?
判断を迷っている間にも、状況は悪化していく。
――駒が、動く。
メタリックな装甲が黒い光を吐き出しながら開き、座していた駒たちが二足で立ち上がる。
おおよそのスタイルは人間に近い。ただ脚は短く、腕は地面に着かんばかりに長い。長いのは腕だけではなく、爪もだ。短剣のような爪がカチカチと音を鳴らしているように見えた。
頭部はつるりとした面のような形で、そこには青く『1』の一文字が光っていた。
「‥‥ランク
星宮が呟いた。
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