第13話 硝子の剣
◇ ◇ ◇
剣崎が使う
『クリエイトソード』と呼ばれる、半透明の剣を作り出す
クリエイトソードで作った武器は、とにかく
使うとすれば、奇襲や護身用。そこらのチンピラならともかく、
そう思っていた。
「っ!」
ゾンッ‼ と恐ろしい音が聞こえた時、俺は反射的に身体をのけぞらせていた。
首の皮一枚を切り裂いて横薙ぎにされる
一瞬でも反応が遅れていたら、胴と首が泣き別れだった。
剣崎が踏み込み、攻撃してきたのだ。ただ、初動の滑らかさと速さのせいで動きを見落とした。
こいつ、強い。
レオールと戦った経験がなければ、間違いなく今の一撃で勝負は決まっていた。
「――」
そして剣崎の攻撃はそれだけでは終わらなかった。即座に切り返して剣を振るう。
俺は
火の粉を散らす腕は何とか剣崎の攻撃を受け止めるが、肌が切り裂かれて光の粒子が漏れる。
くそ! この剣、切れ味が鋭すぎて防ぎきれない。
肉体を炎によって鍛え上げる
「面白い
小さく呟く声が聞こえた。
独楽のように回転しながら切り付けてくる剣崎の目が、俺の腕を冷静に見つめていた。
攻撃と攻撃のつなぎがよどみなく、反撃の隙が無い。
だったら、作る。
俺は剣崎が打ち込んでくるタイミングに合わせて、全身から炎を噴き出した。剣崎が炎を打ち払うように剣を振った。
ここに拳を合わせる。
しかしその瞬間は訪れなかった。
「
剣崎は一切臆することなく、空いていた左手を間髪入れずに突き込んできたのだ。その手には、当然のごとく剣が握られていた。
「ッ――⁉」
致命傷を避けられたのは、俺自身が炎を噴き出した反動で体勢を崩していたからだった。
右肩を切り裂いて刺突が走り、衝撃にめまいがする。
ここで退いたら追撃で終わる。
俺は全身に力を込め直し、強引に拳を振るった。炎を
当然当たるわけもなく、剣崎はそれを避けて後ろに下がった。
「はぁ、はあ‥‥」
今のは危なかった。緊張で呼吸を忘れ、肺が苦しい。
剣崎は双剣を手にしたまま、こちらを見つめていた。
そりゃそうか、『クリエイトソード』なら武器の生成は自由自在。一振りしか使わないなんて、勝手な思い込みだ。
そして今の打ち合いでよく分かった。
こいつとまともに近接戦闘でやりあっても勝てない。正直、戦闘スキルが桁違いすぎる。
「本当に、不思議な
剣崎が唐突にそう呟いた。
その目は既に笑っていない。何もかもを見透かすような視線が、俺を射抜いている。
「炎の操作に、身体の強化。そしてそれは再生ですか? そんな
「‥‥」
おいおい、戦いながらそんなところまで観察していたのかよ。
本当に強いな。下手すればレオール以上じゃないか。
実際剣崎に付けられた傷は炎によって再生しつつある。だが失った体力まで戻るわけじゃない。
決めるなら次だ。これ以上長引かせれば、こいつは間違いなく俺を完璧に攻略する。
剣崎が反応できない速度の一撃で決める。
「もう少し、見たいな」
そう言って、初めて剣崎が構えを取った。両腕を軽く曲げ、切っ先が持ち上がる。そしてかがむような前傾姿勢。
来る。
そう思った瞬間、既に剣崎は俺の内側に飛び込んできていた。
さっきよりも更に速い。
俺を間合いに捕らえた双剣が、唸りを上げた。
袈裟斬り、薙ぎ、切り上げ、突き。
その全てを捌くのは不可能だった。腕で受けながら炎で剣崎を捕まえようとするが、俊敏な彼は即座に炎と逆の方向に回り込む。
だが、それならそれでやりようはある。
「っらぁ‼」
炎を避けて回り込んだ先、俺は防御を捨てて右の拳を振りぬいた。完全な読みに懸けた一撃は、剣崎の顔へと一直線に突き進んだ。
「――惜しかったです」
それでも、届かない。
まるで
そして無防備になった俺の懐に踏み込む。
火花と光の粒子が噴き出し、攻撃の衝撃に足が浮きかける。
回避から攻撃までが一連の流れであるかのように、剣崎の動きは鋭く、流麗であった。
そうだよな、再生されたくなきゃ、深く切り込むしかない。
ようやく確実な間合いに入ってくれた。
「っ、まさか」
斬った感触の違いに気づいたのだろう。剣崎が声を上げるが、遅い。
端から読み任せの一発が通るとは思ってない。お前をここまで誘い込むしか、勝ち目がなかった。だから大ぶりな攻撃で隙を見せ、胴を強化しておいたんだ。
剣崎は即座に離脱しようとした。
俺自身、カウンターを受けて体勢は崩れ、まともに攻撃ができる状態じゃない。そう、普通の人間なら。
残った左腕。そこにはあらかじめ炎を圧縮していた。
たとえ姿勢が崩れていようが、勢いさえつけば拳は打てる。
左肘で炎が爆発し、轟音を鳴らして
それによって驚異的な加速を得た拳は、剣崎へと撃ち出された。
「
受けに回った
炎の拳は双剣を打ち砕き、剣崎の胸を貫いた。
火花がひび割れのように広がり、黒い風穴を穿った。
「っかは!」
炎は貪欲だった。砕けた剣も光の粒子さえも飲み込み、剣崎の小さな体を燃やし尽くす。
そんな中で彼は俺を見上げ、どうしてかうっすらとほほ笑んだ。
そうしてどこか満足げな表情のまま、剣崎王人は完全に消え去った。
「‥‥」
固まっていた拳から力が抜け、暴虐の限りを尽くしていた炎が相手を失って鎮まっていく。
「っしゃぁあ――!」
安堵よりも疲労よりも、勝ったという高揚感が喉をほとばしった。
勝てた。本気で死ぬかと思ったけど、なんとか勝てた。
完全に『
やばい、嬉しい。
「あ、あなた、一体‥‥そんな」
そんな俺を、少女が恐ろしいものを見るような目で見ていた。
そうだった。これは試験だ、彼女もこの後は敵に回るってことか。
かといって足を怪我している相手と戦うっていうのも気が引け――。
「お?」
突如体がバランスを失い、俺は地面に転がった。足元を見れば、膝から下が光をこぼしながら消えていた。
違う、脚だけじゃない。全身が光の粒子となって散っていく。
これは退場の合図だ。
どうやら剣崎の最後の一撃は、きっちり致命傷だったらしい。左腕に残す炎も必要だったから、胴に回せる炎が最低限だったんだよな。
なんだよ、引き分けだったか。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
慌てた様子で少女が駆けてくるが、待てと言われても待てるものじゃない。
そういえば名前くらいは聞いてもよかったかもしれないな。
最後にそんなことを考えていると視界は真っ白に染まり、俺の試験は終わりを告げた。
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