◆ 七月
◆ 七月
皆様、ご機嫌
暑い時期になってくると日光が地獄の拷問のように照りつけるのに加え、人によっては強烈な紫外線が暑さ以上に厄介事になってくるだろう。私は肌が白いから日焼けすると肌が真っ赤になってしまい、その部分は触ると痛いし見映えもよくないので、もちろん日焼け止めは充分過ぎるほど用いているが、日光は極力避けるようにしている。だが以前、十二月に油断していて日焼け止めを塗らずに長時間日光を浴びる場所に居続けていたら、見事なまでに顔が真っ赤に染め上がり、それ以降は日光を浴びそうなときは必ず日焼け止めを塗るようになり、塗っていないときは冬でも日光を避けるようになった。
したがってそういう話を聞くと私の性格もそうなのだと思われがちだが、決してそんなことはないので安心する人は安心してほしい。陽の光が精神や神経的に合っていないとかではなく、ただ日焼けしたくないという理由だけで年中日光を避けるようになっただけだ。そういう勘違いをこの世の中からなくしたら、どれだけの人が暗闇から救い出されるだろうか。私は今までそのエピソードによって暗い人間だと思われるという不利益を被ったことはないが、少しでもそういう人たちが生きやすい世の中になってほしいと切に願う。
本題に入ろう。と言うより本当は今回発覚した事実を早く書きたくてウズウズしていたのだが、平静を装うためにわざと関係ないことをつらつらと書き
改めて本題に入ろう。そして、簡潔な事実を述べよう。
私は最近、インターネット上である興味深いサイトを発見した。そのサイトとは、なんと私と同じ虎藤虎太郎を探している人間による、私のこの日記と同じような虎藤虎太郎について書かれているブログである。どうやら三ヵ月ほど前に開設されたようだが、記事に対するコメントはおろか閲覧者もほとんどいないようで、言ってみれば私のこの日記と大差はない。内容を見ても特別情報を求めるだとか虎藤虎太郎の名を広めようという趣旨はなく、SNSなどに展開している様子もない。ただただその人物の虎藤虎太郎に対する思いであったり、どう考えても主旨からは外れている調査の報告であったり、どこまで本当かはわからないその時々にあった出来事などが延々と書き連ねられている。
どちらにせよ、自分以外に虎藤虎太郎を探している人物がいるのは驚きだった。大家も探している様子は一切なかったので、まさかこの日記以外で虎藤虎太郎の字面を見ることになるとは夢にも思わなかった。他に虎藤虎太郎を探している人物がいるというのは、ホッとしたというか、自分のやってきた行ないが的外れではなかったという安堵感を生み出すには充分だったが、自分以外にも虎藤虎太郎を追いかけている人物がいるという物憂げな感情を引き起こすにも充分だった。それだけ私は虎藤虎太郎のことに執着していたし、おそらくそのブログを書いている彼も、私の存在を認識したら同じような感慨に
しかし私は、なんとなくだが、このブログを書いている人物に心当たりがある。もちろん証拠だとかそういうものはない。完全に勘と勢いの上に成り立っている、仮説にも満たないただの
だからこそ話半分で読んでもらいたいのだが、あのラーメン屋と喫茶店で出会った男、そう、私が入店して席に着くなり、私を執拗に見てきたあの男こそ、虎藤虎太郎を探しているもう一人の人物なのではないだろうか。理由は全く見当もつかないし、あったとしてもただ視線を飛ばし続けるという行為は正直言って理解に苦しむ。虎藤虎太郎とかそういうのは全く関係なく、ただ単に最初に思い当たったご近所トラブルという線も完全に否定されたわけではない。あの男が私の部屋の隣に住んでいるのは事実なのだ。どれだけ動機やきっかけに心当たりがなくとも、赤の他人というわけではないのが白日の下に
それでも私は、あの男こそ虎藤虎太郎のもう一人の探索者ではないかと切に思うのだ。そしてあの男にとって、私が虎藤虎太郎のもう一人の探索者だと何らかのきっかけで知ったからこそ、あのような行動を取ったのだと切に思うのだ。確かに私も外で不意に虎藤虎太郎を見かけたら、思わず視線は釘付けになるだろう。それと同時に自分と同じ虎藤虎太郎の探索者に出くわしたら、同じように意識はその人物に向けられるだろう。そして私たちは、存在だけで人を振り回す虎藤虎太郎の不思議な引力によって、偶然ではなく必然的に引き寄せられたのではないか。虎藤虎太郎は偶然ではなく必然的に、何の共通点もない赤の他人だった私たちを引き寄せたのではないか──。
何度も念を押して言うが、これはあくまで私の希望的観測である。証拠も根拠も何もない。そもそも私はまだあのブログの記事を最初の一つか二つくらいしか読んでいないので、私の勘通りもしあの男がラーメン屋と喫茶店で遭遇した人物であるならば、必ずブログの方にもその際の内容が書かれているだろう。
なので一旦は今まで書かれた全てのブログを読むことに専念しようと思うが、たぶん、私のこの直感は間違っていない。以前はあの男こそ虎藤虎太郎本人ではないかとも思ったが、今回の直感はそれよりも確信が持てる。これを外したらもう一生虎藤虎太郎のことは探さないと宣言してもいいくらい、今回はなぜだか自信がある。一瞬虎藤虎太郎に近付いたと思っていた希望は打ち砕かれることにはなるが、これはこれで、私の求めていた理想に近づいている気がする。私はたぶん、虎藤虎太郎を探すという行ない自体に、生きていく上で必要な何か芯のような原動力を見つけられた気がする。
それでは、また会う日まで。
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