◆ 五月
◆ 五月
今日はあまり天気が良くない。朝起きたときは晴れていたのに、八時半くらいから急に曇り出して、それ以降もずっと
ただやっぱり外がどんよりとした模様だと、なかなか気分も晴れないものだ。通学路を歩く小学生たちの足取りも重い気がする。空を飛ぶ鳥たちの翼も重い気がする。道路で寝そべっている猫たちも、こういう日は自重している気がする。普段は頭の隅っこに仕舞っておけた些細な心配事も、我が物顔して意識の中心にのさばろうとしている、気がする。
そんなことよりつい先日、少しおかしな出来事が起きた。前回に書いた大家から紹介してもらったラーメン屋に実際に行ってみたのだが、そこで妙な男に遭遇したのだ。そのラーメン屋は食券のシステムなので券売機で食券を買い、店主のおっちゃんに食券を渡すと、その妙な男が私をジロジロと睨んできたのだ。
と言われてもいまいちその光景が想像できないだろうし、そもそも私の思い過ごしだと一蹴されそうなので色々補足すると、まず私はその店の券売機で六〇〇円のラーメンと三〇〇円の餃子の食券を買おうと思い、千円札を投入した。となるとお釣りは一〇〇円なので百円玉が返ってくると思いきや、返ってきたのは五十円玉二枚だったのだ。まあそれは別にいいとして、買った食券を店主のおっちゃんに渡すと、店主のおっちゃんが「ラーメンと餃子ね」と言った瞬間、その男のラーメンを食べる手が突如として止まったのだ。それ以降、その男はなぜか私を警戒するかのような目つきで睨むようになり、せっかくお腹を空かせて楽しみにしていたのに、視線に気を取られて満足にラーメンを食べることができなかった。
結局お腹はある程度膨らんだが、この後父親の説教が確定している状態での家族での夕食のような気分でラーメンを食べたので、味については全くもって楽しめなかった。最近は家系ラーメンだとか九州の豚骨ラーメンだとか、或いは同じ醤油でも
それにしても、あの男は一体誰なのだろうか。何となく見覚えがある気もするが、だからといってあんなに注目を受ける覚えは全くない。
もしかしたらだが、彼は私のアパートの近所に住んでいる者で、私も知らず知らずのうちに何かしらの迷惑をかけてしまったのかもしれない。
そうなったらかなり面倒だ。家賃や町の雰囲気を諸々考えると、今住んでいる小平は理想中の理想というわけではないが、現状の私にとってはベストな居所だと言わざるを得ない。その根拠を話すのは私にとっても町にとっても有益だとは思えないので割愛するが、とにかく今小平から離れなければならなくなると、かなり面倒なことになる。引っ越し自体も面倒だし、他に住むのにちょうどいい町の当てもない。実際はそこまで外出しないので、住宅と近所の環境がそこそこ整っていればどこの町でも暮らせそうではあるが、その住宅と近所の環境が変わるのが死ぬほど怖いので、できれば、というより是が非でも引っ越しだけはしたくない。だからこそ、その男がどこの誰なのか、なぜその男は私のことをあんなにも見ていたのかは、一刻も早くまでではないが、ある程度私の中の問題として迅速に対応しなければならない。
ただもしかしたら、これは私の住んでいる町を知る上では良い機会でもあるかもしれない。今まで私は都心や地方といった場所だけでなく、家の近所でさえ足を運ぶ機会が少なかった。だからご近所付き合いはもちろん、ご近所トラブルなんてものも全く意識していなかった。
それが今、確定しているわけではないが直面している現状は、自分の生活が変わる機会でもある。私のアパートの住人は、基本的には私のようなスタンスが多いため甘えていたのだが、これはある意味現代の日本社会の縮図の一端であり、虎藤虎太郎のような存在が生まれたのも、少なからず関係はあるのだろう。私が社会を変えるだとかそんな思い上がった考えは微塵にも抱いていないが、ふと自分の置かれた状況を振り返ると、今のままではいけないという思いは当然ある。それを行動に移すために、まずは近所に出て、近所を知りたいと思う。
その一端と言ってはなんだが、以前に大家から近所のラーメン屋を教えてもらった際、もう一つお店を紹介されていた。そのお店は喫茶店で、大家がまだ若かった頃から営業していた
そこでまた面白い出来事などがあれば一石二鳥なのだが、以前のラーメン屋のような出来事は勘弁してもらいたい。ただまあ、今回に関しては味を楽しみたいとか作業に集中したいといった目的があるわけではないので、そんな出来事が起きたら逆に関心事ができていいかもしれない。今度その男が来たら、私の方から観察をして原因を究明してやろうと思う。
それでは、また会う日まで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます