複製体のオマケつき破壊と創造ループ

ちびまるフォイ

宇宙は青かった

「え!? これ偽札!?」


「そうそう。新札に入れ替わりのタイミングで

 今偽札にすり替える詐欺が増えてるんだって」


「ちくしょーー! だまされた!」


怒りに任せて偽札をびりびりと破り捨てた。


紙片となった偽札は宙にまかれたと思うと、

地面につくまえにお互いを吸い寄せあてって2枚の紙幣が作られた。


「……み、見た? 今の?」


「なにが起きたんだ? 今、偽札が1枚から2枚になったな」


「いやそれよりも破ったはずの紙が戻ったよ」


お互いに顔を見合わせる。

手品をするタイミングでもなかった。


もう一度新しく生成された二枚目の偽札を破ってみた。

もとに戻ってから、また新たに紙幣が生み出される。


「どうなってるんだ……」


友達も同じことをしてみたが、偽札は増えなかった。

自分だけが同じものを複製できる。


「なあこれ。本物のお金でも同じことができたら……」


生唾を飲み込む。

試してみるしかなかった。


財布から本物のお金を取り出し、初めてお札をやぶいた。

結果は偽札と同じ。


破られた紙たちは自分たちでお互いを合わせ、

それどころかまた新しい1枚を生成してしまった。


「まじかよ!?」


なんの努力もせずにお金が手に入ってしまった。

そのお金をATMに入れてみても警告ひとつ出ない。


完全なる複製を作ってしまった。

ただ破るだけで。


「……なあ、ちょっと腕時計見に行かね?」


友達は俺の能力を知るなり急に誘った。


「なんで?」

「いいから」


二人で都会の一等地になる高級時計の店にやってくる。


「ちょっとこの時計みてもいいですか?」


「いらっしゃいませ。もちろんどうぞ」


友達は堂々と店一番の高級時計を手に取る。

そして隣に立つ俺にノールックでパスした。


「壊せ」

「えええ!?」


「いいから!」


「どうなっても知らないぞ!?」


高級時計を地面に叩きつけ、思い切り踏んづけた。

たしかな感触とバリンという甲高い音が店に響いた。


青ざめた顔をした店員がすっとんでくる。


「お客様!? いったい何を!?」


しかし、店員が見たのは足元に落ちていた高級時計。

……と、もうひとつ同じものが転がっている不可思議な光景。


「どうしたんです? ああ、ちょっと落としてしまって」


「壊れて……ないですね。大きな音がしたものですから」


「気のせいでしょう」


「えと、そしてその2つ目の時計は?」


「失敬。僕のです。同じものを買おうかとこのお店を訪ねたんですよ」


「は、はぁ……」


友達は店員の目の前で堂々と複製された時計をポケットに収め、

破壊されてから再度生成された時計を店員に返した。


店を出ると抱きついてきた。


「お前、ほんと最高だよ!! この時計ほしかったんだ!!」


「いやマジで心臓止まるかと思った……」


「お前の能力はサイコーだよ!

 壊せば同じものができるし、コピーもすぐ横にできる。

 これって物欲から解放されたってことなんだよ!」


「遠回しな窃盗だろう?」


「なんで? 俺達はちゃんとオリジナルを返却してる。

 お前の能力で複製されたものを手にとってなんで窃盗なんだよ?」


「うーーん……?」


「とにかくよ。もっともっといろんなものを壊そうぜ!

 ほら、あの家なんかちょうど良くないか!?」


「バカ。壊してもすぐ横に同じものができるんだぞ。

 家はやめとけ!」


こうして俺と友達は自分たちの欲しいものを片っぱしから壊していった。

複製された品々を手に入れ、最高の生活を続けていた。


けれど物欲というのは限りがあるようで、

1ヶ月もすると欲しいものはなくなってしまった。


「はぁ……時間がほしい……」


トラの毛皮の上で寝転ぶ友達がつぶやいた。


「お金もあるんだから時間なんていくらでも作れるだろう」


「そういう問題じゃないんだよなぁ。

 お金を使うことでいろんなことができるようになった。

 でも、いろんなことに使うための時間は限られてるんだよ」


「……先に言っておくが、俺に時間を壊して

 複製された時間をよこせとかファンタジーな要求するなよ」


「そんなのムリに決まってるだろ。

 ……でも、コレならできるかなと思ったんだ」


「おまっ……コレ、銃じゃないか!?」


友達が借りたゲームソフトを返すノリでいかつい銃を手渡した。


「これで俺を壊してくれ」

「いやいやいや!! できないって」


「俺を壊して、もしコピーができたなら

 今までできなかったいろんなことができるはず。

 使える時間だって物理的に2倍になるはずだ」


「もっとよく考えろよ!? 自分の複製ができても問題だし

 命に対して俺の能力が適用されなかったら犬死にだぞ!?」


「かまわないさ」

「かまうよ!!」


「もしやらないなら、お前を殺す」


「えええ!?」


「死にたくないだろ? 早くやってくれよ」


友達はふたつめの銃を突きつけてきた。

俺を殺せば複製チャンスもなくなるので撃つわけはない。


そうわかっていても、自分の命がおびやかさせれることに耐えられない。


「わ、わかったよ……」


「銃で死んでも複製と生成が始まらなかったら、

 そこにある丸ノコで身体を刻んでくれ」


「トラウマなるわ!!!」


目をつむり、耳を塞いで銃の引き金をひいた。

地面には真っ赤な血のじゅうたんを広げて息絶えていた。


死ぬだけでは破壊したことにカウントされないようで、

いっこうに死体の横に複製体は出来上がらない。


「くそ! 結局こうなるのかよぉぉ!!」


丸ノコを取り出して身体のパーツを分解した。

すると自分の能力が適用され死体の身体がどんどん戻ってゆく。

隣に複製体が出来上がったとき、友達は生きを葺き替えした。


「ああ、成功したんだな。よかったよ。

 仮に身体がもとに戻っても命が戻らなかったらどうしようかと」


「クレイジーすぎるんだよ……。とにかく無事で良かった」


「「 こちらこそありがとう! 」」


「二人でしゃべんなや」


友達と複製体はどちらがオリジナルか、などとケンカするでもなく

それぞれ何をしてどう生活するかを相談していた。


その光景に思わず口を挟んでしまう。


「その……どんな気分なんだ。自分と同じ人間がいるって?」


「兄弟や双子と同じさ」

「だからって感情や意識や記憶の共有はできないみたいだ」


「そういう……ものなんだ」


「それより、今回のチャレンジでいいことがわかった」


「いいこと?」


「1つ、命の複製も可能だということ」

「2つ、お前の素手じゃなくても能力が適用されるということ」


「……あ、たしかに。銃と丸ノコ使ったわ。

 今まで全部すでで壊してたもんな」


「そう。だから次に壊すべきものが見つかったんだ」


「またか。今度は俺になにを壊せと?」


友達はちょいちょいと地面を指さした。


「床? 床なんて壊しても……」


「ちがうよ」


ふたたび友達はチョンチョンと地面を指差す。



「今度は地球をぶっ壊すのさ」



なおもクレイジーのアクセルを踏み続ける友達に言葉を失った。


「いや、理屈はわかるけど! たぶん複製できるけど!

 なんで地球壊さなくちゃいけないんだよ!」


「そりゃ資源面さ。地球はもう長くは持たないしね。

 だからたくさん地球クローンを作るために地球を壊すのさ」


「そんなことして、地球に住んでる人たちはどうなる!?」


「壊れたら複製されるだろ」

「されなかったら!?」


「おいおい。いつから人道活動家になったんだよ。

 昨日まで餓死で苦しんでいる国のニュース見ながら

 宅配ピザをおいしそうに食べてたじゃないか」


「だってあまりに規模が……」


「ヒヨることない。地球がたくさん増えて資源が取れたら

 それこそみんなハッピーに決まってるだろ。

 

 お前の決断はこれからの未来の幸せを作るんだよ。

 そこに多少の傷みがともなうだけさ」


「そうかな……」


「そうさ。さあ準備をはじめよう」


地球爆破計画の準備はもっとかかると思っていた。

しかしどうやら人間の科学力は地球を破壊することも容易なほどインフレしていた。


すべての準備ができるのにそう時間はかからなかった。


「……というわけだ。準備はできたから、あとはボタンを押すだけ」


「これを俺が押したら……地球は?」


「こっぱみじんになる。一時的にな。

 でもお前が実行したんだからすぐに元通り。

 そして隣には地球が生成されるさ」


「地球にいる俺はどうなる?」


「そこも安心しろって。地球から逃げる時間もある。

 シャトルで宇宙から地球の破壊と生成を見届けるのさ」


「俺が地球を壊すのか……」


「そう。そして、もっといい地球を何個も作り出すんだよ」


「ええい! もうどうにでもなれーー!!」


ボタンを押した。

起爆装置が起動する。


「さあシャトルへ! 急げ! 巻き込まれるぞ!!」


手際よくシャトルは地球を離れた。

宇宙に到達した頃、仕掛けが作動し地球が内部から爆発するのが見えた。


「ああ地球が……」

「すぐ戻る。見てろよ」


粉々になって宇宙に四散したはずの地球だったが、

それらの破片が巻き戻し再生のように中央へ戻っていく。


と同時にその隣にまったく同じものが作り上げられてゆく。


「やった! 大成功だ! 見ろ! 地球が戻ってる!!」


数秒後には地球は元通りになった。

そして、隣には新しい地球が爆誕していた。


「うまくいった……」


自分でも信じられなかった。

でも目に映る第二の地球が何よりの証拠だった。


「やったな! コレでエネルギー問題も解決だ!

 また資源が足りなくなったら地球を壊して……」


「お、おい。なんか地球……動いてないか?」


もとに戻った地球と、すぐとなりに作られた複製地球。

それらが徐々にお互いを吸い寄せ合っている。


「い、引力だ。地球の引力でお互いを引っ張ってるんだよ!!」


「このままぶつかったら!?」


「ぶっ壊れるに決まってるだろ!

 同じ体積の星がぶつかるんだぞ!?」


しかし小さなシャトルに乗り込んだ自分たちにできることはない。

地球は避けられる正面衝突により吹き飛んだ。


「ああ……もう帰る星が……」


「いや、よく見ろ。……また戻ってないか?」


ふたたび目を凝らすと、木っ端微塵になった2つの地球の破片が戻っている。

そしてーー。


「ち、地球が4つになってる……」


オリジナルと複製が壊れて、それぞれの複製ができてしまった。

どうやら自分が破壊したものにも、自分の能力が感染することを知った。


気付いたときには、もう遅かった。


「ああ……また地球どうしが……」


生成したての地球どうしは同じように衝突と再生成を繰り返す。

何度も何度も地球は新しく複製体をねずみのように増やした。



しまいには、もうシャトルの窓から見える風景は

すべて地球で埋め尽くされるほどにーー。

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