第37話:本当の強者(2)※三人称視点※
※三人称視点※
「オ、オルランド兄さんが!」
スレインが悲鳴交じりの声を上げる間に、トールが動く。すでに判断を誤って、主であるガリオンの次男オルランドを殺されているが。赤竜さえ殺せば、ガリオンは息子の死など些細なことと受け止めるだろう。
トールは『竜化』して、青い竜の姿になる。カイスエント帝国の竜人の多くが『竜化』すると青竜の姿になる。
青竜は竜の中では動きが速く、稲妻のブレスを放つことが特徴だ。
100年で成竜になると言われる竜人の中で。200年近く生きているトールの巨体は、体長8mに達する。
だから相手が成竜クラスの赤竜だろうと、自分が後れを取るなどと思っていなかった。
トールは魔力を収束させて、稲妻のドラゴンブレスを放つ。高速で飛来する稲妻のブレスを回避するなど不可能。
トールはそう思っていたが、赤い髪の男は最小限の動きだけでブレスを躱す。
「さすがに避けるしかねえか。この程度のブレスでも、食らうと
「何だと、貴様……」
トールは激しい怒りを覚えるが。自分のブレスを躱した動きを見せつけられて、攻撃することを
「なんだよ。俺の実力に恐れをなしたのか? 解っちゃいたが。そこらの竜人じゃ、俺の相手にならねえか。
だが俺は相手が誰だろうと手を抜かねえ主義だからな。俺の本気を見せてやるぜ!」
赤い髪の男が、本来の竜の姿になる。体長10mを超える巨体は、それだけでトールを圧倒するが。
赤い鱗に覆われた全身に刻まれた無数の傷は、歴戦の戦士であることを現している。
さらには赤竜が纏う膨大な魔力に、トールは悟る。目の前の赤竜にとって、自分は狩られる獲物に過ぎないと。
赤竜が灼熱の焔のドラゴンブレスを放つと。トールの身体は一瞬で、文字通りに消し炭と化した。
「た、助けてくれ……」
スレインが怯えて逃げ出すが、赤竜が許す筈もなく。
「戦いもしねえで逃げ出すとは、ゴミクズ以下だな」
一瞬でスレインに追いつくと。魔力を纏う金色の爪で、スレインの身体を切り裂いた。
「何だよ、詰まらねえ。竜人は250年前から、全然進歩してねえな」
この赤竜はヴァルダーク帝国の12人の将軍の1人であるマルクス・ブラッディーフレア。250年前のカイスエント帝国との戦争に参加している。
その頃のマルクスは成竜になったばかりで。一応、戦力になるという程度だったが。
250年後の今、最年少で12人の将軍の1人になった。
竜の姿となった竜人も竜人も同じく、年齢を重ねる度に身体が大きくなり。魔力も力も強くなる。だが年齢だけが強さの基準ではない。
実戦経験を積み、自分を鍛えること。当たり前のことだが。人外の存在である彼らは己の力に傲り。自ら進んで鍛練する者は希だ。
だがマルクスは違う。同胞たちや人外クラスの魔物との戦いを繰り返すことで。400歳を前にして、
「とりあえず、デザートを食べてから帰るか」
マルクスは村に残っていた人間を全て食べ尽くす。
赤竜は人間の肉を好むのは確かだが。ヴァルダーク帝国がカイスエント帝国に侵攻したのは、人間を食べことが目的ではない。
竜とは高度な知性を持つ種族であり。食欲のために、同じ人外の存在である竜人と戦争を起こしたりしない。
ヴァルダーク帝国の赤竜たちは、はカイスエント帝国の竜人を下に見ているが。これまでの戦争で、赤竜たちにも、して少なくない犠牲が出ている。
これまでヴァルダーク帝国が侵攻した目的は、カイスエント帝国の富と資源で。当時のヴァルダーク帝国は人外の大陸で覇を成すことを、本気で目指していた。
しかし150年前の戦いで。史上最強の竜人と言われたジャスティア・エリアザードによって。古の竜を含む多数の竜を殺されて、勢力を失うことになった。
だがヴァルダーク帝国の赤竜たちは、この150年の間、意味もなく雌伏のときをに浪費していた訳ではなく。マルクスのような若い強者が台頭することになる。
「ジャスティア・エリアザードは、もう隠居したって話だ。詰まらねえ戦いになりそうだな。8mクラスの成竜の実力がアレじゃ、話にならねえぜ」
マルクスは現在の竜人の実力を測るために、自らカイスエント帝国に潜入した。
敵の戦力を見極めるには、将軍である自分が直接見る必要があると思ったからで。村を襲ったのも、竜人を誘き寄せるためだ。
しかし、これまで村を襲っても対処しようとしない竜人たちに呆れていた。そして、ようやくやって来た竜人も、3人のうち成竜は1人だけだった。
何か策があるのではと疑って、慎重に行動したが。
ヴァルダーク帝国が戦争の準備を終えるには、まだしばらく掛かる。
今日殺した竜人だけで、カイスエント帝国の戦力の全てを測るほど、マルクスは愚かではないが。
たとえ成竜クラスの竜人の平均的な強さが、トールの5割増しだとしても。マルクスはカイスエント帝国を、完膚なきまで叩きのめして。勝利する自信があった。
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