第23話:ハンターの誇り ※レベッカ視点※


※レベッカ視点※


 逃げて来るハンターたちの間を擦り抜けて、私たちは魔物と接敵する。


 『野獣の剣』は獣人ばかりのパーティーだから、魔法はイマイチ苦手で。クリフも魔法が使えないみたいだけど。魔法よりも強い攻撃力がある。私が1番だけど。


 私の武器は双剣。魔物の間を駆け抜けながら、次々と仕留めて行く。


 下層部の魔物が混じっているとは言え、大半は中層部の魔物だから。魔物の群れは、私たちの敵じゃなかった。


「私に掛かれば、こんなもの!」


 少し物足りないと思っていると。


「レベッカ、次が来るぞ。今度は全部、下層部の魔物だ!」


 新たな魔物の群れが、螺旋階段を駆け上がって来る。


「上等。下層部の魔物なんて、いつも倒しているから!」


 私たちは再び戦闘態勢を取って、魔物たちを殲滅する。


 クリフも下層部の魔物を相手に十分戦えている。だけど装備が持たない。クリフの装備は全部安物だから。


「クリフ、その剣はもう持たない。これを使って」


 私はマジックバッグから予備の双剣を出す。クリフの剣は普通の長剣だけど。クリフなら使いこなせる筈。私の勘がそう言っている。


「……解りました。お借りします」


 クリフは右手の件を普通の長剣のように構えて。左の剣は防御に使うつもりらしい。うん。それが正解。


「おい、また魔物だ! どうなっていやがる!」


「ギース。文句を言う暇があるなら、魔物を倒す!」


 そんな感じで、私たちが何度も出現する魔物を倒していると。


「なあ、ガゼル。魔物がどんどん強くなっていねえか?」


「ああ。俺もそう思っていたところだ。もしかして、下の階層から魔物が溢れているのか? レベッカ、そろそろ撤退を考えるタイミングだな」


 さすがに私たちも無傷とは言えなくて。回復役ヒーラーのシーダが何度も『治癒ヒール』の魔法を使っている。


 ガゼルの判断は正しいと思うけど。


「今、私たちが撤退すると。逃げた他のハンターたちが危ない」


 このタイミングで姿を現したのは、凶悪なアンデッドの群れ。


 エルダーリッチにドラゴンゾンビ。下層部でも下の階層にしか出現しない魔物だ。

 それも全部で6体。万全の状態の私たちが戦っても、苦戦する相手だ。


「おい、レベッカ。他の奴のために犠牲になるなんて、俺は御免だぜ!」


 ギースが文句を言う。ガゼルとシーダも難しい顔をしているけど。


「だったら逃げれば良い。私は強いからここに残る!」


 私はレベッカ・ダルフィン。最強のハンターを目指しているから、ここで引く訳に行かない。


「レベッカ。おまえが馬鹿なことは解っていたが。本当に、大馬鹿だな!」


 ガゼルが槍を構えて、私の隣に立つ。


「馬鹿なのはカゼルも同じ」


「でしたら、回復役ヒーラーの私が逃げる訳にいきませんね。寝覚めが悪くなりますから」


 シーダも馬鹿だ。私は馬鹿なみんなが好き。


「レベッカさん、僕も残りますよ。僕なんかじゃ、戦力になるか解りませんけど」


 クリフが真剣な顔で言う。やっぱり、クリフは強い。心という意味でも。


「クリフ、ありがとう。私は強いから、クリフを絶対に死なせない」


「はい。レベッカさん、頼りにしますよ」


「……畜生! これで俺が逃げたら、格好つかねえだろう!」


 結局、『野獣の剣』は全員馬鹿だった。クリフも含めて。こうなったら最強の馬鹿を目指そう。


 魔法とブレスの攻撃が、私たちは苦手だけど。そんなことは言っていられない。


 回復はシーダ、状況判断はガゼルに任せて。私は剣になって、魔物を仕留めることだけを考える。


 ギースとクリフも頑張っている。ギースも本気を出せば、結構強いじゃない。私の方が強いけど。


 このとき。私が戦っていたドラゴンゾンビが、突然真っ二つになる。


「おまえたち、悪いな。これって、たぶん俺のせいだ」


 黒い髪と青い瞳の強過ぎる人間の男。グレイはバツが悪い顔で、頬を掻いている。グレイのこんな顔、初めて見た。


 他の魔物も、すでに倒されていて。私たちが苦戦していた魔物たちを、一瞬で殲滅するなんて……やっぱり、グレイは凄い。


「俺のせいって……もしかしたらとは、思ったけど。やっぱり、グレイの仕業だったんだね」


 クリフが呆れた顔をしている。だけどクリフは何を言っているの?


「おい、グレイ。どういうことだ? なんで、てめえがここにいる?」


 ギースは状況が解っていないみたい。それは他のみんなも同じだけど。


「俺は『螺旋らせん迷宮』を全部攻略したから。その帰り道だけど……」


 グレイの歯切れが悪い。やっぱり、いつもと違う。


「こんな短時間で攻略したって? さすがに嘘だろう?」


「別に信じなくても構わないけど。問題なのは、魔物の暴走の方で……たぶんアレは、俺が引き起こしたモノだ」


「グレイ……どういうことですか?」


 グレイが説明する。『螺旋迷宮』の一番奥で、ラスボスを倒した後。隠し扉を探して、壁と床と天井を全部壊したら。ダンジョンの深層部が崩壊したらしい。


「俺が破壊したせいで、深層部から魔物が逃げ出して。上の階層の魔物も、下から逃げて来る魔物に追われんだと思う。とりあえず、ここに来るまでハンターの死体はなかったから。死人は出ていないと思うけど。俺のせいで、本当に済まなかったよ」


 グレイが謝っているけど、全然現実感がない。

 他のみんなも同じだと思う。ダンジョンを破壊するなんて、普通に考えれば不可能だから。


「グレイ。もう下の階層に魔物はいないってこと?」


「リポップした魔物や、玄室の魔物がいる可能性はあるけど。数はそんなに多くはいないだろう」


「だったら、グレイが破壊したところを見せて」


 これは純粋な好奇心。ダンジョンを破壊するなんて、本当にできるのか。

 できるとしたら、グレイはどれだけ強いってこと?


「魔物と遭遇したら、全部俺が倒すから問題だろう。おまえたちも一緒に来るか?」


 私たちはグレイと一緒に、螺旋階段を下りて行く。


 出現する魔物は、グレイが前言通りに全部瞬殺する。


 そして下層部の一番奥まで行くと――


「「「「「え……」」」」」


 そこには遥か下まで続く、巨体な穴があった。

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