第63話 闇動く
■王都 闘技場【グローリア・アリーナ】 医務室
ボロボロになった俺は医務室に運ばれて、治癒術師が来るのを待っていた。
治癒魔法の使い手はこの世界では貴重で、基本的には聖職者が主に行っている。
エルフはレアなケースで〈精霊魔法〉を使いこなせるので水の精霊と契約できれば回復ができるとのことだ。
「決勝戦までに治してもらわないと困るんだがな……」
ベッドの上で横になり、血が少ないのか意識がややぼんやりしている。
「こんな時、敵に襲撃されたらヤバイよなぁ……後先考えずに自傷行為を使って戦術を使うべきじゃなかったぜ」
後悔しても遅いが、だがそれくらいじゃなきゃセリーヌに勝てそうになかった。
油断大敵だと反省するが、それは次に活かすべきことである。
ギィと扉があき、人の気配がした。
「治癒術師か?」
俺が声をかけるが返事はない。
首を動かして、入口の扉の方を見たらゼノヴィアがいた。
「ゼノヴィアか……わりぃが、今は動けないんで用事はあとで……」
俺の言葉を無視して、ゼノヴィアが俺のベッドへと近づいてくる。
まさか、ここでヤル気なのか?
「まてまてまて、もうすぐ治癒術師も来るかもしれないのにそれは不味い! それに俺、怪我人!」
頑張って声をだすが、ゼノヴィアに届かないのか歩みを止めなかった。
ベッドの傍までゼノヴィアが来ると、手に持ったナイフを俺に向けて振り下ろしてくる。
この時になって、ようやく気付いた。
(コイツはゼノヴィアじゃない!? くそっ、意識が怪しくて磁力魔法が使えん!)
負傷しているところを狙ってきた刃が俺に迫る。
だが、俺に届く前にゼノヴィアへ高水圧で飛ばされた刃が襲い掛かった。
ゼノヴィアが傷ついたかと思うと、ゼノヴィアの姿が黒いローブの男に代わる。
「ジュリアン! 大丈夫ですの?」
「ほら、ポーションや。こういう場所なら予備があってもええと思うんやけどなぁ……」
レイナに振りかけられたポーションのお陰で俺の傷がふさがり動けるようになった。
たしかにレイナの言う通り、治癒術師がいないのはわかるがポーションのストックもないというのはおかしい。
「これはあれか、何かキナ臭い動きがあるな……」
「チィ! ここは撤退を!」
「逃さへんで、ほいっと!」
レイナが凍結ポーションをローブの男に投げつけると男が氷漬けの氷像のようになった。
「なんか、イフリート戦の時よりパワーアップしてない?」
「あれから5年もたっとるんや、ウチかて成長してるんやで?」
「背丈は全然かわってないようだがな」
「あと胸もですわね」
「よ、余計なお世話や!」
俺達がツッコミをいれるとレイナが真っ赤になって言い返してくる。
こうしたやり取りが無事できるようになって何よりである。
「騒がしいが、何があった?」
入口から衛兵が姿を見せた。
俺達は事情を説明すると共に、氷漬けになったローブの男を引き渡す。
残された俺達はこの場で軽く打ち合わせをして、午後からの決勝戦に備えることにした。
「狙いは俺か? 一体なんのために?」
「まぁ、世襲貴族の一派ですわね。この大会で優勝したらジュリアンは叙爵をされて貴族の仲間入りするわけですもの……人間社会ではよく聞く話ですわ」
「これだから貴族ってのは面倒くさいんだが、俺の家のためには仕方ねぇか」
「せやせや、がんばりやジュリアン」
バシバシとケツを叩いてくるレイナ。
俺の身長が伸びて、レイナはそのままだから、こうなるんだが力が結構あるので痛かった。
「ともかく、決勝戦も何かあるかもしれん。客席から二人は警戒。リサやセリーヌにあったら同じように伝えておいてくれ」
俺は伝言を二人に頼むと、控室へと向かった。
その道中、意外な声を聞く。
『勝者! グラヴァス・オークスパインンンン! なんと、優勝候補のフリードリヒ選手を倒しましたぁぁぁ!』
「あのフリードリヒを倒した? あのオッサンは何者なんだ……」
油断ならない相手であることを感じた俺は気合いを入れて試合に挑まなければならないことを覚悟した。
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