第61話 油断大敵な準決勝
■王都 闘技場【グローリア・アリーナ】 選手控室
時間に間に合うように俺は控室にやってきていた。
フリードリヒも、セリーヌも反対側の控室にいる。
いわゆる、挑戦者側と防衛者側がわけられている形だった。
準決勝でフリードリヒと対戦する男と俺、そして紅一点であるアリシアがいる。
「アリシアがセコンドなんて、こういう事に興味ないかと思ってたぞ」
「まぁ、いいじゃない? 幼馴染なんだから応援しないとね」
5歳の時に分かれてから10年たち、アリシアは美人になったと思う。
デビュタントでもいろんな貴族に声をかけられていたから、いいやつと幸せになってもらいたい。
「勝負を前にずいぶんいい雰囲気じゃないか、おじさんは見ていて、照れちゃうなぁ~」
控室にいた男が俺達の方へ寄ってきて話しかけて来た。
見た目は40歳くらいだろうか? 自分をおじさんと言っているところがなんか地球のおっさんくささを感じる。
筋肉質な体に巨大なハンマーと大盾を持っているのでタンクだろう。
姿でいえば、昔に戦ったグスタフという傭兵を思い出していた。
「若いっていいねぇ、おじさんもあと20年くらい若かったら、君たちみたいな青春をしたかったよ」
ハッハッハッとさわやかに笑うオッサンは悪い奴にはみえない。
「ジュリアン・シュテルンだ。決勝戦であったらよろしくな?」
「決勝戦ねぇ。フリードリヒ・フォン・シュタインに勝てたらだから、おじさんとしてはつらい相手だなぁ」
顎をさすりながら語るおっさんだったが、気後れしているわけでもないので実力者な気はしている。
「ジュリアン選手、入場してください!」
「ジュリアン、頑張って!」
「頑張れよ~」
「おう、任せろ!」
係員が呼びに来てくれたので、俺は立ち上がって試合をするために向かった。
■王都 闘技場【グローリア・アリーナ】 試合会場
観客席は満員と言えるほどに埋まっており、歓声も大きい。
Aランク冒険者といっても地方で埋もれていた男が準決勝まで行ったのだから盛り上がるもわかる。
「試合会場で会うのは5年ぶりなのだ」
「そうだなぁ……懐かしいぜ。あの時と違うのはアウェーじゃないってことだな」
「ジュリアンは強くなったのだ。だが、私もこの5年を無駄に過ごしていたわけではないのだぞ?」
「俺が見てる限りは、結構食っちゃ寝してたけどなぁ……と、無駄話はこの辺にしておこう」
審判の視線を受けた俺はいつも通り、盾と剣を構えた。
騎士団出身だった先輩冒険者から学んだ剣術の構えである。
10年間冒険者として活動する合間に毎日訓練してきた俺の剣だ。
「うむ、あとは剣技で語るまで!」
対戦相手のセリーヌの方は5年前と同じ巨大な両手剣だが、構えが洗練されたものに見える。
頭の右側に腕を持っていき、切っ先を俺の方に向ける構えだ。
「はじめ!」
試合開始の合図と共に俺達は斬りあう。
キンキンキンと剣と剣がぶつかり、火花が飛び散る。
互いにスキルや魔法は使わず、様子を見るための攻撃だ。
「力任せから、変えてきたか……」
「対人戦用にひっそりと教わってきたのだ。いずれ闘技場に返り咲く時が来るかもしれなかったのだが、予定はなくなっのだ」
「どういうことだ?」
「ジュリアンが私を嫁に囲ってくれることになるので闘技場で戦って稼ぐ必要がないのだ」
「よし、そのことについては試合後にじっーくり話し合おうか」
「それはベッドの上なのだ?」
「違うわ! どうしてそんなにピンクになったオマエっ!?」
頬を少し染めて照れるセリーヌに俺はツッコミを入れながら、盾を投げつけた。
盾が高速回転し、俺の左腕の動きと連動しながら、セリーヌを追い立てていく。
剣で盾を払っていたセリーヌだったが、面倒になったのか防御を捨てるために体を硬化させる降霊術を使って、遠慮なく近づいてきた。
「ゼノヴィアといい、お前たちはタンクよりなんだよな……体に傷がつくのをもっと気にしろよ」
「アマゾネスの流儀で、戦いでの傷は勲章なのだ。逃げてついた傷は違うがな!」
腕力を強化した両手剣の一撃が俺に迫った。
いつも通りと思い、俺は磁力魔法ではじこうと魔法を唱える。
だが、磁力を帯びることはない一撃を受けて吹き飛んだ。
胃液が盛り上がってきたので、口から吐き出す。
「げほっげほっ、まさか……その剣……」
「ふふふふ、気づいたのだ? これは剣のようで剣に非ず、対ジュリアン用の装備、固い木剣なのだ!」
ドーンといった様子で胸を張るセリーヌ。
長く俺と付き合ってきたからこそ、裏をかいたやり方だった。
割と脳みそお花畑気味だが、こと戦闘に関しては容赦がないというのを今更思い出す。
「油断したぜ……だが、まだまだだ!」
俺の闘志は消えない。
負けを認めない限り、負けではないのだ。
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