第34話 炎魔神の復活

■焔の神殿 ダンジョン部 焔の祭壇


「けほっ……けほっ……大丈夫、か?」


 俺は立ち上がり、周囲を確認する。

 溶岩が周囲を流れ、熱気に満たされていた焔の祭壇だったがエリカの魔法で冷却されたのか冷え固まっていた。

 人型の像を捉えていた鎖はガッシリと縛り付けているので、無事に封印を取り戻せたようにみえる。


「エリカ! 大丈夫か、エリカ!」


 俺はぐったりして、床に伏せているエリカに近づき、頬を叩く。

 エリカと一緒にいたウンディーネの姿もないため、俺は焦った。

 胸のところに耳を当てて、心臓の音を聞く。

 音が聞こえない……これは不味い。


「ええと、応急処置、応急処置!」


 おぼれた人を助けるための応急手当を思い出しながら、俺はエリカへ心臓マッサージを始めた。


「エリカ! 死ぬなよ! エリカ!」


 声を駆けながら、心臓マッサージを続け、反応がないことを見ると俺は気道確保からの人工呼吸に移る。

 キスはこっちの世界でも、前世でもしたことはなかった。

 体から火が出るほど熱くなるのを抑え、深呼吸をする。


「これは医療行為、医療行為」


 自分自身に言い聞かせて顔をエリカの顔に近づけた時、エリカと目があった。

 気まずい沈黙があたりを包む。


「ジュリアンは何をしようと……まさか、私が気を失っていることをいいことにっ!?」

「ち、ちがう! 医療行為だ!」

「いりょーこーい?」


 白い肌を赤くさせたエリカが体を起こしながら、ずりずりと下がって俺と距離をとった。

 当然のリアクションだと思いながら、俺はため息一つする。


「にしても、すごい魔法だったな……フレデリックはどこだ?」


 エリカの顔が照れくさくて見られない。

 話題を変えてフレデリックを探すが、像の前で倒れているのを見つけた。

 手には……


「まさか!」


 俺の背筋をぞわっとした寒気が駆け上がる。

 封じられている像を見ると、フレデリックが持っていた心臓が像の胸のあたりに吸い込まれた。

 縛り付けていた鎖が砕け散り、ボロボロと地面に落ちていく。

 像の石の様な肌の色が赤くなっていき、炎が表面を走った。

 胎児の様なポーズから両手両足を伸ばした空中で大の字のポーズをとる。

 熱風が起こり、俺とエリカは吹き飛ばされた。


「結局、間に合わなかったか……」

「すみません」

「エリカのせいじゃねぇよ、あの気を失っているバカのせいだ」


 しょぼんと耳を下げ、うつむくエリカを守るように俺は剣と盾を構える。


「エリカ、俺の腰のポーチに魔力ポーションがあるから、それをとって飲んでくれ」

「わかりましたわ」


 ポーションの瓶をとって、エリカは飲んだ。

 ウンディーネを召喚して、戦闘態勢をとる。

 俺とエリカの二人だけで、目の前の巨大な魔神を相手にできるのかはわからなかった。

 だが、戦う前からこいつを外に出してはいけないという危険信号を〈危機感知〉のスキルがないのにビンビンと感じている。

 俺の頬を熱さでは起きたものではない汗が流れていった。

 ドラゴンと戦った時以上のものを俺は感じている。


「グォォォアァァァァァ!」


 その場を揺らす咆哮を炎魔神イフリートがあげた。

 ボッボッボッと火柱が地面に上がる。

 その火柱が人型を作り、俺達に襲い掛かってきた。


「エンチャントを頼む、まずはザコを蹴散らすぞ!」


 俺の指示にエリカがウンディーネを使って俺とエリカの剣に水の力をまとわせる。

 襲い掛かってくる人型を一刀のもとに斬り裂きながら、イフリートへと踏み込んでいった。

 イフリートも火球を作って、俺達に向かって放ち攻めてくる。

 いや、イフリートの顔をみるに遊んでいるに違いなかった。

 余裕の笑みがムカつく。


「ドラゴンよりも表情豊かでムカつくな、遊ばれるのもしゃくだが時間を稼げばレイナ達がきてくれるはずだ」


 俺は仲間を信じる。

 一人で全てを抱え込まないことに決めたんだ。

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