第30話 灼熱の中へ

■焔の神殿 ダンジョン部 灼熱通路


 焔の神殿奥にある、古代魔法で封じられた扉に俺が触れるとゴゴゴゴと音を立てて開く。

 中に入れば、通路の両端がマグマの海となっており、火柱が通路をまたぐように飛んでいる空間だった。


「あっちぃなぁ……」

「ウンディーネで結界を貼りますわ」


〈精霊魔法:水流結界〉エレメス:ウォーターバリア


 俺達パーティを包む水の結界が広がる。

 隊列を広くとることはできないが、この暑さの中で戦い続けることで集中力を削られたり、疲労がたまるのだけは避けたかった。


「先に進んでいったのは、ジュリ坊の弟なんか?」

「多分な……なんとなく、そんな気がしている」


 アーカナム古戦場での出来事、そしてイーヴェリヒトダンジョンでのスタンピードの発生事件、その二つに双子の弟であるフレデリックは関わっている。

 俺として、俺なんか無視して真面目に後継ぎとして頑張ってほしいと思うんだが、あいつはどうにも俺に執着しているようだった。


「聞いている話やと、フレデリックは火の魔法使いで魔力量100万というエリート魔法使いやろ? 火竜と戦うのと同じくらいジュリアンと相性わるない?」


 苦戦していたことを思い出したのか、レイナが不安げな声を俺の背中にかけてくる。

 その不安は当たっていた。

 あいつの最大火力である〈獄炎魔法:煉獄〉ヘルフレア:プルガトリオなどを打たれれば俺では防ぐことはできない。


「だから、エリカのウンディーネを結構頼りにしてる」

「当然ですわね。けれども限界はあるので、状況を有利に運ぶ必要はありますわ」

 

 俺がサムズアップをしてエリカにウィンクを飛ばすと、エリカは頬を赤く染めて答えてくれた。

 水魔法を使うのがエリカ一人だけだとしても、兄弟として俺が止めなきゃならない。


「むむ、炎の人型がでてきたのだ」

「簡単なエンチャントを行いますわ」


 〈精霊魔法:水撃付与〉エレメス:エンチャントアクアストライク


 俺とセリーヌ、リサの武器に水の膜のようなものがまとわりつく。

 近づいてくる炎の人型に対して、俺達は剣を振るった。

 一閃で真っ二つにでき、次々と出てくる敵を俺達は屠っていく。


「いい感じだ。一撃で倒せる!」

「うむ、これならば進むのが楽になりそうなのだ」

「まだくるにゃよ、油断しないでいくにゃ」


 俺達は灼熱の通路を突き進んでいくと、溶岩の川で通路が分断されていた。

 通路の分断は自然で起きたものではなく、魔法で破壊されたようである。


「追っ手を潰すためにワザとやったか……」

「ここを越えて渡るのはどうするにゃ? 飛べれば別にゃけども……」

「よし、飛ぶぞ! 熱くはあるが、今はまだ磁力の低下は感じないし、魔力の消耗はしていないから全力を出せる!」


 俺はリサの言葉に従い、全員の鉄製装備を確認する。

 リサはナイフ、セリーヌはグレートソード、エリカはショートソード、レイナはハンマーを持っていることを確認できた。

 これならば行ける。


「一気に行くぞ、着地の準備だけはしろよ!」

「え、ジュリ坊、ちょっと待つにゃ!? 早まるにゃ!」


 俺は目を閉じて集中し、魔力と磁力の流れを感じはじめた。

 魔力を使い、マグマの川を弧を描くような磁界を発生させていく。

 スタンピードから2週間、魔力の使い方をリリアンに今一度特訓してもらったことで、複数の対象を操ることができるようになった。

 立ち止まらずに成長するため、ドラゴンに勝つために!


〈磁力魔法:跳躍〉マグネス:ジャンパー


 俺達5人の体がフワリと浮き上がり、ヒュンと音を立ててマグマの川を飛び越えて、通路へと降り立った。


「むぎゅ……荷物のお陰で、着地できんかったわ」


 着地に失敗したのは……レイナだけのようである。


「悪い、だけど、急ぐぞ! レイナ!」


 俺はレイナを起き上がらせると、灼熱の通路を進んでいった。

 通路を塞ぐなんてことをしだしているなんて、かなりヤバい状況である。

 

「フレデリック、早まるなよ……」


 取り返しのつかない状況になる前に、あいつを止めなくてはならないと俺は心に誓った。


■焔の神殿 ダンジョン部 溶岩の祭壇


 ダンジョンの中腹部にある溶岩の祭壇に3人の魔術師の男女の姿があった。

 祭壇の一角に腰を下ろして休憩をしている。


「フレデリック様、わたくしが魅了魔法で聞いた情報ですと、ここが中腹ですわね」

「そうか……イフリートが封印されている祭壇はまだ奥か……」


 水を飲んだオレは汗をぬぐい、ダンジョンの先を見ていた。

 懐には【炎魔神の心臓】があり、それを使ってイフリートの封印を解くのが目的となる。

 イフリートの封印を解いて使役することはこの心臓があればできるので、火竜の時のような失敗はない。


「兄貴……次こそは俺が勝つんだ……」


 だが、こういう時、あの兄貴が邪魔しに来る予感がしていた。




 

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