第29話 ぬぐい切れない不安

■焔の神殿付近 野営地


 山の中にある焔の神殿もイーヴェリヒトの冒険者組合で管理しているダンジョンであるため、見張りがいたり、近くには少数パーティが野営できる場所があった。

 イーヴェリヒトから3日かけて移動し、夜に野営地に到着した俺達「エターナルホープ」はキャンプを張って、最後の休息をとっている。

 明日からは焔の神殿に潜る手はずだ。

 俺はテントを男用の小さなテントと、女性陣のための大きなテントを張ってから、情報収集のため見張りの男と話をしに動く。


「ここのダンジョンは人の出入りはどうなんだ?」


 俺は銀貨1枚を渡して、見張りから話を聞く。

 酒場と一緒でただで話してくれるなんてことはない。

 情報がネットなどで溢れていないこの異世界では情報の価値は高いのだ。


「鉱山都市イーヴェリヒトは鍛冶でも発展した街だからな、職人などが訪れて祈りをささげているよ。神殿の最奥にある扉からダンジョンに入れるが、古代魔法なのか実力不足の冒険者は入れないようになっている。だから、俺らは神殿の一番の入口を見守っているってところだな」


 銀貨を受け取った見張りの男はそう語ってくれた。


「じゃあ、最近俺達以外にこの神殿に来たのは?」

「男二人と女一人のパーティが来たけど……冒険者だった、かな? あれ、いまいち記憶が……」


 見張りの男はこめかみを手で押さえて、目を閉じ記憶を探ろうとしている。

 しかし、記憶がはっきりしないのか答えがでてこなかった。

 俺は背筋がゾクリとする。

 嫌な予感がした。

 はっきりした理由はわからないが、大体のアニメ等ではこういうとき先行している奴らが怪しい儀式を始めたりしているものである。


「おい、みんな! 野営は中止だ。急いで潜るぞ、嫌な予感がする!」

「ええ!? ジュリアンさんのご飯楽しみでしたのに」

「せやせや、腹は減っては~といつもいうとるやないの」

 

 俺が急いでテントの場所まで戻り、声をかけるとエリカとレイナは不満げな声をあげた。

 この二人は俺の飯を楽しみにしている腹ペコ組である。


「ジュリ坊のいう嫌な予感はあちしも何となく感じてるにゃ」

「うむ、急ぐ必要はありそうなのだ」


 俺から見張りから聞いた情報を受けたリサとセリーヌは装備を整え、出発準備に入る。

 命の危険にさらされた環境ですごしてきたこの二人は、俺の説明で異常な部分に気づいてくれた。

 リサとセリーヌも異常に気付いてくれたおかげで、エリカとレイナも出発準備をはじめてくれる。

 俺のパーティはだいぶ救われてるな……って、セリーヌはいつの間にかパーティメンバーに登録していたんだよな……副リーダーにしているエリカの采配なんだろうが、俺に相談してほしかった。


「急ぐぞ! 焔の神殿の奥へ!」


 いろいろ言いたいことのあるメンバーだが、信頼できる仲間たちだ。

 磁力が弱まる炎の環境だが、このピンチを何とか乗り越えて見せる!


■魔法都市ルミナエア 上空

 

〈風魔法:高速飛行〉ヴェントス:ハイフライ


 月と星の灯だけが見える夜空を鳥よりも早い速度で、私は飛ぶ。

 向かう先は鉱山都市イーヴェリヒトの近くにある焔の神殿だ。

 後ろを向けば魔法都市ルミナエアの街の明かりが夜空の星のように小さなものになっている。

 私は前を向き、唇を噛んだ。


「お父様には言伝だけになったけれど、私の責任だもの……私が取らなきゃ……」


 私が正気に戻った時は魔導具管理倉庫の呪物地下庫の中だった。

 お父様に抱きかかえられたが、うつろな気分だったのを覚えている。

 【炎魔神の心臓】がなくなっていることに気づいたお父様は盗人探しをはじめ、私にも管理責任ができなかったことを責めた。

 タイミング的に怪しかったが、フレデリックのアリバイは完璧で問題ないとされている。

 でも、が私にはことさら怪しく感じていた。


「もし、フレデリックが【炎魔神の心臓】を奪っていったのならば、やることはジュリアンへの復讐しかないよね……」


 指輪を壊した謝罪に来ても、心底謝った様子のない彼は双子の兄であるジュリアンを恨んでいる。

 自分の責任を人のせいにて逃げようとしている男なのは明らかだった。


「でも、お父様はフレデリックに責任がないとなれば私のミスであり、家の警備の問題だったとして、私を外に出すことをしなくなった……」

 

 その間に【炎魔神の心臓】の情報を調べたことで、犯人に目星をつけて私は動き出した。

 2,3日時間をロスしてしまったけれど、飛行魔術を使えば少しは短縮できる。


「たとえ、取り戻してもたくさん叱られちゃうな」


 私は戻った後のお父様の反応を思い出しては苦笑した。

 そうだとしても、私は貴族の務めとして、自らの失敗は自らで果たすべきだと動いている。

 そしてもう一つ。


「ジュリアンに会いたくなったというのもあるかも……」


 気を失うような魅了魔法にとらわれた時に思い出した姿。

 5年前のものだけれど、忘れられない人……。


「聞いている磁力魔法が炎に弱いなら、フレデリックと戦うのは不利になる……助けなきゃ!」


 私は急ぐように加速した。



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