第20話 チャンピオンへ挑む!

■闘技場挑戦者控室

 ウワァァァと盛り上がる声が響く。

 今日の大会も満員御礼のようで、盛況のようだ。


「さて、装備はこんなものか……」


 いつもの鉄の剣にバックラー、鉄製のガントレットにブーツと装備を確認していく。

 今回のエキシビジョンマッチは魔法の使用もありの10分1本勝負とのことだ。

 装備も持てるだけもっていいとのことだったので、投げナイフを腰のベルトに仕込む。


「こういうときになると、アイテムボックス系のスキルや道具が欲しくなるなぁ。鉄球とかいくらでも持っていきたい」


 闘技場で戦うことにならなければ、今の自分の足りないところに気づけなかったので、試合を受けたのは良かったのだろう。

 

「ジュリアン選手、入場をお願いします」

「わかった」

 

 スタッフに促されて俺は両手で顔をたたき気合いを入れた。

 控室には俺以外にもリサとエリカがいる。

 特にリサは俺以上に気合いが入っていた。 


「ジュリ坊、エキシビジョンマッチだからと手を抜くのはなしにゃ。全力でいくにゃよ! そして、勝つにゃ!」

「ジュリアンさん、無理はなされないように……この人が勝てといっているのは賭けているからですわ」

 

 リサの気合のネタばらしをエリカから受けた俺はちょうどよく緊張がほぐれる。


「まぁ、せっかくなんで全力でやってみるよ。対人戦は冒険者になるための試験以来だからな、楽しみでもあるんだ」

 

 あの頃は〈磁力魔法:加速〉しか使っていなかったので、今の呪文パターンで対人戦は初めてだ。

 相手が闘技場のチャンピオンだったとしても、胸を借りるつもりで挑みたい。

 俺はわくわくした気持ちで控え室を後にした。


■闘技場


 闘技場の中央舞台にでていくと、一際大きなブーイングが沸き上がった。

 司会の男が俺について説明をしているようだが、チャンピオンに子供をぶつけたことに観客は不満らしい。


「子供が相手とはな、実地訓練なのか?」


 不満なのは観客だけでなく、バルンと大きな胸を揺らしたビキニアーマーのチャンピオン――セリーヌ・フランベルジュ――も同じようだ。

 はっきりいって、目のやり場に困る!

 巨乳というか爆乳を申し訳程度に抑えているアーマーに意味があるのか小一時間ほど問い詰めたい。

 いつのまに俺はエロゲーの世界に来てしまったのだろうかと悩むほどである。


「俺に胸を貸すつもりでお願いしますよ、チャンピオン」

「胸を貸す……私の体が目当てだったのだな! 破廉恥な奴め、グレートソードでぶった切ってやるのだ!」


 闘技場のチャンピオンは脳みそまで筋肉らしい。

 ルーカスの話では訓練教官をしていると聞いていたが、そんなことができるタマなのか甚だ疑問だった。


「破廉恥なのはチャンピオンの恰好だと思いますけどね……」

「私はシャーマンでもあるからな、身体強化のための入れ墨を見せるために露出多いのだ!」


 自分の手の内を軽々と話すのは、実力があるが故かおバカなのか……ディフェンディングチャンピオンであるため前者だと思いたい。


「両者、準備はいいですね?」


 雑談が続きそうだと思ったのか、審判が俺達二人に確認をしたことで武器を構えて試合開始の合図を待った。


「エキシビジョンマッチ、はじめ!」


〈強化降霊:狩猟豹〉シャーマニックブースト:チーター


 試合開始の合図とともに、両足の入れ墨が光ったかと思うと、俺の目の前にセリーヌの爆乳がぶるんと揺れて現れた。


〈磁力魔法:斥力〉マグネス:リパルション


 爆乳に見惚れていたら、斬られると思った俺はすぐに盾を構えてセリーヌの剣と俺の盾を反発させる。

 

「な、なんなのだ!? 斬れない? 見たことがない魔法なのだ!」


 自分の横薙ぎに振るうために使ったパワーが急に反対方向に向いた。

 しかし、セリーヌは驚きながらもバランスをとって、両足を踏みしめる。


「子供と思って油断していたのは認めるのだ。今の一撃で、大体終わるのだが、お前はそうじゃないようなのだ」


 ニコリとセリーヌは笑い、グレートソードを地面に突き刺した。

 

「次はこれで! どうするのか見せるのだ!」


 何をするかと思ったら、再び間合いを詰めてきて、今度は素手で殴りかかってくる。


〈強化降霊:大猩猩〉シャーマニックブースト:ゴリラ


 右腕の入れ墨が光り、鋭いパンチが飛んできた。

 相手はガントレットを付けておらず、磁力魔法の対象外なので、普通に盾で受けてみる。

 ゴインと鈍い音と共に盾がつぶれ、勢いはそのままに俺を吹き飛ばす。

 衝撃に目の前をチカチカさせながら、俺は舞台の上に転がった。

 

「グハッ、はぁっ、ウォエッ……」


 血と共に胃液を吐き出し、俺は立ち上がる。

 受けてみようなんて軽々しく思っちゃいけなかった。

 俺の体はまだまだ10歳の子供でもあることを、忘れがちになっている。

 これが闘技場の試合でなかったら、追い打ちをかけられて死んでいただろう……。


「今の一撃で気絶しなかったのは褒めてやるのだ。はやく降参しないと、もっと痛い目みるかもしれないぞ?」


 コキコキと首を鳴らして、セリーヌは素手で構えた。

 パンチがいい当たりをしたことで、グレートソードよりも有効だと気づいたのだろう。

 装備は動きやすさを重視した革製のものだろうからか、俺の磁力魔法では捉えることはできなかった。


「盾は使えないが、腕からも……抜けない」 

 

 ひしゃげてしまった盾を捨てたいが、腕を挟めるようにひしゃげたので、取り外せない。

 だが、磁力魔法で


(腕が使えないと油断させるのはいい手だな……)


「左腕が動かせないほどならば、降参するのだ。無駄な戦いは私もしたくないのだ」

「これくらい、平気ですよ……利き腕が残っているなら、どうとでもなる!」


 今度は俺の反撃の番だった。


 

 

  



  

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