第19話 エキシビションマッチ

■剣闘都市グラディア


「おう、起きろよ。ついたぜ」

「ああ、悪い……デッケェ闘技場だなぁ……」


 昨夜は飯時にダークウルフが襲ってきたため、その後も交代の警戒をしたりであまりよく眠れなかった俺は揺れる馬車の中で眠っていた。

 グレンに起こされて馬車から外に出てみれば、外壁の上から飛び出す大きさの闘技場が街の中央にそびえ立っているのが見える。

 衛兵に入門手続きをして、街に入ると雑多なメインストリート目の前に広がった。

 メインストリートの両脇には試合を告知するポスターのようなものが貼り出されている。


「イーヴェリヒトの繁華街もすごかったが、こっちはもっとすごいなぁ」

「こういうところではスリに気を付けませんとね」

「にゃんで、あちしをみていうのにゃ……その件はもう許してほしいのにゃ」

 

 俺が街並みに感心していると、エリカはリサとの出会いのことを持ち返してきていた。

 随分前のようにも思えるし、つい最近だった気もする不思議な感じがする。

 リサも随分丸くなったなと思う。


「お土産は後で買うとして、まずは招待状のもとへ行くとしよう。おすすめの宿屋とかもそこで聞けばいいし」

「その招待状に押されている印はフレイザー伯爵家のものじゃないか、闘技場の管理者から直々に呼ばれる実力者だったんだなぁ。まぁ、昨日の戦いを見ればそうか」


 俺が招待状を確認していると、グレンがひょいと取り上げて確認してから返してくれた。

 別の街にいるはずの俺に声がかかってくるなんて、父さんが何か話していたりしていたのかなと思いながら、グレンにたずねる。


「グレンは奴隷を見に行くのか?」

「ああ、だからここでお別れだ。フレイザー伯爵はだいたい闘技場の管理局にいるそうだから、この道をまっすぐ進んで闘技場を目指すといい。試合もみてみろよ」

「ありがとう。まずは行ってみるよ」


 拳をグーにしてぶつけ合う、男同士のあいさつをグレンとかわした俺は闘技場へと向かった。


■剣闘都市グラディア・闘技場


 ワァァァという歓声が闘技場の受付の位置まで聞こえてくる。

 試合の観覧は立ち見以外になかったので、まずは用事を済ませるために受付に来ていた。


「お待たせいたしました。ルーカス様がお会いになられるそうです」

 

 受付嬢に案内されて、闘技場内の執務室へと案内される。

 室内は石造りではあるものの豪華に装飾されていて、貴族の威厳を保つために派手な様相を呈していた。

 部屋の隅に置かれている壺などもかなりの値段がすることだろう。

 一緒に来ているエリカとリサは所在なさげにキョロキョロしていてちょっと恥ずかしかった。


「ようこそ、ジュリアン・シュタイン君。ヴィルヘルムからいろいろ聞いていたよ」

「この度はご招待いただきありがとうございます。具体的なお話内容はなかったのですが、どのような要件でしょうか?」

「立ち話もなんだから、座ってくれ」


 ルーカスに案内されてふかふかのソファーに俺達3人は座った。

 エリカとリサはテーブルに置かれたお菓子を一口食べると、あまりのおいしさに夢中になって食べている。

 恥ずかしいからやめてほしい……リサは育ちからしてわかるが、エリカは……食いしん坊だからしかたなかったか。


「え、ええと……改めて要件のほうを……」

「ん、そうだね。この闘技場で1つ試合を頼みたいんだ。相手は闘技場の覇者である【セリーヌ・フランベルジュ】だ。大会の本戦前のエキシビジョンマッチをやってもらおうと思っている」

「どうして俺……なんでしょうか?」


 闘技場のチャンピオンと戦うのが闘技場なんか参加したことのない、Cランクになりたての冒険者というのは興行的に面白いのか俺にはわからない。


「ヴィルヘルムから聞いているけど、君は面白い魔法を使うらしいね? だから、セリーヌの刺激になるかと思ってね」

「そこまで持ち上げられても……困るのですが……」

「本音をいうとだね、セリーヌはこのあたりでは強すぎて、最近増長してきているんだ。だから、ちょっと新しい世界を見せてあげようとね」

 

 ルーカスが苦笑しながら俺に話してきた。

 父さんの手紙に直接かける内容じゃないのは確かである。

 先日のダークウルフ戦のこともあるが磁力魔法は対人戦に強い。

 闘技場という環境でどこまで通用するのか試すのは悪い話じゃなかった。

 ただ、相手が闘技場チャンピオンということでもあり、死なないにしても危険度は高い。


「わかりました。報酬はどうなるんでしょうか?」

「お金でもいいけれど、君の希望はどうかな?」

「アダマンタイトの武器、防具があればほしいんですが、さすがにエキシビジョン一戦の報酬としては高すぎますよね」

「さすがにそれは無茶というものだよ……報酬のほうはエキシビジョンの盛り上がりしだいとしようか」

「そうですね、それでお願いいたします」


 俺はルーカスと握手をして、エキシビジョンマッチの申し出を受けることにした。

 







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