第11話 共同依頼

■イーヴェリヒト・冒険者ギルド 


 初のダンジョンアタックから2か月ほどたった。

 俺たちのパーティ『エターナルホープ』はダンジョンに潜ったり、薬草採集やモンスター討伐の依頼を受けて実績を積んできている。

 俺以外のメンバーもDランクに上がり、そろそろCランクへランクアップの依頼を受けてみたいところだった。


「はい、今日の依頼も完璧ですね。お疲れ様でした」


 エミリアさんに依頼完了の報告を終えた俺たちは併設された酒場で打ち上げをしに向かう。

 ちょうど4人掛けのテーブルが空いていたで座って、飲み物と適当な摘みを注文をはじめた。


「よぅ、ジュリ坊。最近絶好調じゃないか、綺麗な花に囲まれてうらやましいしよ」

 

 ウリウリと俺の頭を小突いてきた先輩冒険者を手を振って払う。


「そういう粗野なところが女性冒険者を引きついてないと思いますわ」

「エリカ、しーっ。そういうこというたらあかんて」

 

 小声でエリカとレイナが何かを言っているが、騒ぎになりそうなので黙っておいた。

 酒場の喧騒はこういう時ありがたい。


「先輩に聞きたいんだけど、DからCにランクアップするにはランクアップ依頼がいるって聞いたけど本当?」

「ああ、ランクアップ依頼ってのが存在しているわけじゃないが『一つ上の指名依頼』ってのがそれにあたるな」

 

 双剣士である先輩冒険者は無精ひげの生えている顎に手を当てながら、俺の質問に答えてくれた。

 人からの指名を貰うというのは実力を上げていたら貰えるとのことだから、そのうちくれるだろう。


「情報ありがとう先輩。一杯おごらせていただきます」

 

 俺は情報量として銀貨を取り出し、ウェイトレスに飲み物を注文した。


「10歳の割には手馴れてるにゃ」

「ほんまやね」

  

 一連の流れを見ていたリサがお酒を飲みながら、感嘆の声を上げる。

 もう放っておいてほしい。だんだん10歳の演技をするのが面倒になってきたのだ。

 そうしていると、エミリアさんが受付カウンターから離れて俺たちのテーブルにやってくる。


「お食事中のところごめんなさい。ジュリアンさんにCランクの指名依頼がきました。こちらは他のパーティとの合同依頼になります」

「合同依頼? 珍しいパターンですね」


 演技はめんどくさいといったが、エミリアさんには敬語で話したくなる。

 大人の魅力というやつがそうさせてしまうのだろうが、その態度の差をパーティの3人はじとーっとした目で見てきていた。

 

「はい、指名されている冒険者パーティは『エターナルホープ』で、ほかにも教会関係者から神殿騎士団遊撃隊が参加することになります。もう一つ、魔法学院から、優秀な魔法使いが参加ですね。場所は国境付近の古戦場で、ノーブルク村に1週間後に集合となっています」


 エミリアさんが依頼書の内容を俺に伝えてきた。


「わかりました……あとで、いきます」


 使という言葉に俺の顔が強張る。


「ジュリアン……大丈夫ですの?」


 心配げに眉根を寄せたエリカが俺の顔を覗いてきた。

 

「体調が優れないのなら依頼書の方はわたくしがやっておきますわ。これでも最年長者でサブリーダーですもの」


 えへんと膨らみかけの胸を張るエリカの姿に俺は少しだけ気がまぎれる。


「ありがとう……じゃあ、頼むね。先に家に戻ってるよ」


 俺は酒場をあとにして、重い足取りで自分の部屋へと戻っていった。

 


■シュタイン屋敷・ジュリアンの部屋


 ぼふっと、着の身着のままの姿でベットにダイブしてから寝転がる。


「優秀な魔法使いといったら、来るよな……フレデリックやアリシアが……」


 天井を見上げて俺はつぶやいた。

 5年前に別れてから、そのままになっていた過去と向き合うときが来たのだろう。


「磁力魔法を使いこなせているけど……あいつらはもっと派手な魔法の技術をもっているだろうな」


 合同依頼だから、戦うことはないだろうが互いの成果を見せ合うことにはなることは確かだ。

 生意気だったフレデリックの顔がはっきりと思い浮かぶ。

 忘れようと思っていても、俺の心にはあの日のフレデリックの姿が焼き付き対抗心を燃やしていた。


「今の俺の実力をあいつに見せてやろう」


 古戦場であれば、磁力魔法で操作できる対象は多いはずだ。

 これから向かう依頼のことに頭を巡らせていると、眠気がすっ飛んでいく。


「訓練所で磁力魔法の練習をしてくるかな……」


 眠気が飛んでしまったこともあり、着替えてもないのでベッドから降りて部屋からでたら、ドアの前でどうしようかと迷っているミツキがいた。


「ジュ、ジュリアン様。お加減はいかがですか? 顔色が悪かったので、お薬などを持ってきたのですが……」

「体調は大丈夫。心配かけたね。これからちょっと訓練所で体動かしてくるから、終わった後でのお風呂の準備と夜食用意してくれると助かる」

 

 ミツキに心配かけまいと微笑みを浮かべると、俺は自分の部屋をあとにする。 

 まだ1週間あるのだから、準備を進めていこう……どんなことが起きても後悔はしたくない。




 

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