第2話 磁力魔法の発動

「お世話になります。ヴィルヘルムさん……いえ、これからは父さんかな?」

「はっはっはっ、呼び方は二人きりの時はご自由に。私も息子が欲しかったのでよかったですよ」


 結論からいうと、俺はアイゼン家を追い出された。

 母上の不貞問題が上がるかと思ったが、双子の弟のフレデリックが火属性の適正と膨大な魔力をもっていたことからそれはなくなった。

 代わりに俺が出涸らしということで片付き、体裁を気にする父上の采配で何も持たされることなく門の外へ放り出されるところに声をかけてくれたのが御用商人のヴィルヘルム・シュタインである。


 今はヴィルヘルムの馬車に相乗りしてヴィルヘルムの商館がある鉱山都市イーヴェリヒトへ向かっている最中だ。

 馬車の中にはヴィルヘルムが俺の正面にいて、俺の隣には黒髪で黒い瞳のメイドがいる。

 

「それにしても、お前までついてくることなかったのに……」

「いえ、私はジュリアン様のお世話係なので、どこまでも一緒ですよ」

「ん……ありがとう」

 

 微笑みを浮かべるメイドの名前はミツキ。

 前世が日本人である俺には日本の美女の笑顔はぐっとくるものがあった。

 東の国の出身といわれているいわゆる日本人顔なので特に気に入っていたメイドだった。

 物心ついたときにはお世話係に指名して朝起こしてもらったり、夜添い寝してもらったりと幼年期の特権を生かして日々と過ごしている。


 馬車に揺られ、宿場町や野宿をしながら、魔法都市ルミナエアから鉱山都市イーヴェリヒトへ向かっていた。


 車もなければ飛行機も鉄道もない世界なので、移動に時間がかかる。

 暇なこともあり、野宿の時などは護衛として雇った冒険者から話を聞くことも増えた。

 護衛についている冒険者のパーティは中堅クラスであるCランク冒険者パーティで「鋼の守護者」という名前だ。


「なぁ、ちょうどこの辺はワイルドボアの縄張りやからうまい肉のために狩りせーへん?」


 ある日の昼間、昼食休憩をとっている時に関西弁のような妙な訛りを使う狩人のフィンが俺らに提案する。


「狩り! 一緒に行きたい!」


 ただの馬車旅に飽きていた俺はその提案に乗り、 ミツキのメイド服の裾を引っ張った。


「フィンといざというときのためにエレナが同行してくれ、俺とリリアンは

ヴィルヘルムをここで守っている」


 鋼の守護者のリーダーのアーヴィンが指示をを出し、神官のエレナが立ち上がり、俺の隣に立ってくれる。

 ミツキの反対側にいるので両手に花状態だ。


「よっしゃ、夕飯にワイルドボアのステーキをたらふく食わせてやるでー」


 フィンは俺の頭をワシワシと撫でると森の方へ周囲を警戒しながら進んでいく。


「ワイルドボアのステーキは美味しそうだ……」


 久しぶりのリッチな夕飯を意識すると俺のお腹がぐぅーとなった。

 さっき昼食を食べたばかりだというのに現金なものだ。


「しっ! 静かに!」

 

 先行するフィンが手で俺たちを制して、指でワイルドボアを指さす。

 木の根かキノコを食べているのか、地面に口をつけてモグモグとしていた。


「動くんやないで……」

 

 フィンがゆっくりと弓に矢をつがえて、集中した後で放つ。

 放たれた矢がワイルドボアの頭に刺さり、ブモーと大きな声を上げた。


 そのまま倒れるかと思ったが、刺さりが浅かったのかワイルドボアの顔がこちらを向き、勢いよくかけてくる。


「不味い! はよ、逃げるで!」


 フィンが失敗を悟ると振り返り、俺たちを追い立てて走り出した。

 ワイルドボアの脚力は人間のものよりも早く、彼我の距離はだんだんと縮んでいく。


「ぜぇ……ぜぇ……ま、不味い……うわっ!」

「キャッ!」

 

 5歳の俺の体はあっという間にスタミナがつき、足がもつれて転んでしまう。

 俺の手を引っ張っていたミツキも一緒に倒れこんだ。

 

 バキバキと茂みを砕きながらワイルドボアが目の前に迫る。

 

(嘘だろ……こんなところで俺の二度目の人生終わるのか? 異世界でチートもハーレムも作れないまま終わるなんて嫌だ! 無属性魔法なんて何の役に……)


 魔法のことを意識すると、俺が護身用に持っていたナイフに反応が見える。

 

《磁力魔法:加速》《マグネス:アクセラ》


 俺は頭に浮かんだ呪文を唱えてワイルドボアを睨んだ。

 ビュンとナイフが浮かんで加速しワイルドボアを喉を貫いて頭部の方からナイフの切っ先が飛び出たところで止まる。

 喉を貫いたことで、溢れた血が俺の顔にかかった。


 ズシンと音と共にワイルドボアが横に倒れた。


「ジュリアン様……今のは?」

「わからないけど……今のが俺の魔法らしい」


 磁力魔法という言葉が出てきた。

 属性がないのも当然である。


(鉄をはじめとした磁性体がなければ使えない魔法か……研究をしてみる必要があるな)


「ジュリアン! お前すごいやないか!」

「スゴイ血じゃない、怪我はない?」

「これはワイルドボアの血だから大丈夫だよ」 


 振り返ったら、フィンがエレナと共によってくる。

 心配かけたようだが、俺は何でもないと答えた。

 5歳なのに達観しているかもしれないが、前世が高校生なのだからしょうがない。


 その日の夜はワイルドボアのステーキをお腹いっぱい食べたが眠くはならなかった。

 俺は興奮していたのだ。

 魔法の問題が解決したのである。

 次の問題は魔力8といわれていることだが、これについてはが俺の脳裏に浮かんでいた。


(俺の異世界チートはこれからだな……)


 磁力魔法の効果範囲や使い方等いろんな実験をして冒険者になれる10歳まで過ごさなければならない。

 俺は目を閉じて、無理にでも眠ることにした。



 

 

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