俺だけ使える磁力魔法~追放された転生アニオタ貴族は最強魔法剣士になる~

橘まさと

プロローグ ジュリアン5歳

第1話 魔力量8で無属性の落ちこぼれ

「それでは、これより魔法学園入学試験をはじめます。名前を呼ばれたものは順番にくるように」

 

 試験官が居並ぶ生徒に声をかけて、ざわざわを周囲が動きだす。

 四元素属性が一つだったり、複数だったりがわかり試験を受けた少年少女は一喜一憂していく。

 

「ジュリアンは家系的には火は当然よね? 他に水とか土があったらすごくよさそう」

「まぁ、そこはやってみてのお楽しみにかな?」

 

 隣から長いプラチナブロンドの髪を揺らす空色の瞳の少女が話しかけてきた。

 彼女の名前はアリシア・ローレライ。

 親同士が決めた婚約者というやつだが、5歳という年齢で既に婚約者が決まっているというのは”前世”をもつ俺としては妙な感覚だ。

 俺の名前はジュリアン・アイゼン。

 ただし、今の名前であり、前世は北条伝次という工業高校生だ。

 学校の実験中に爆発事故があって、気づいたら異世界に来ていたというパターンである。


「アリシア・ローレライ、前へ!」

「はい!」


 バイバイと小さく手を振ってアリシアは試験官のいる壇上に進み魔力測定と属性を図る水晶に手を当てた。

 水晶がまばゆく光り、赤、青、黄色などのカラフルなオーラのようなものが浮かぶ。


「おお、これは四元素すべての特性と魔力量も成人と変わらない10万ほどを持っているようですな。まさに天才といえましょう!」

 

 試験官が思わず丁寧な口調になっている。

 それもそのはずアリシアの家であるローレライは公爵家であり、王家の次に地位がたかい。

 試験官は俺の家と同じ伯爵なので、扱い的に下手に出てしまうのは仕方ないだろう。


「全属性が使えるけど、火を一番に使いこなせるようになりたいな♪」


 俺の隣に戻ってきたアリシアはうれしそうに微笑んだ。

 うん、カワイイ。

 たぶん、俺の家が火属性の家系だからお揃いになりたいということだろうと、前世アニオタの俺は予想する。

 メインヒロインは彼女なので、適度に距離感を保ちつつイチャイチャしていきたい。


「ジュリアン・アイゼン、前へ!」

「は、はい!」


 ニヤニヤと妄想をしているうちに名前を呼ばれたので前に進んだ。

 魔法の水晶に手を当てて魔力を籠める。

 異世界転生ものであれば、これでチートな実力があらわになって、学園ハーレムルートになるだろう。


「おお、これはすごい魔力量だ! 計測の数値が確定しない!?」

 

(そうだろう、そうだろう! さぁ、属性はなんだ? 光とか闇とかもありだよね)


 水晶がまばゆい光を放ち期待に満ちた雰囲気が試験会場を包む。

 しかし、試験官の顔はいぶかし気なものになった。


「魔力量はこれは、8? 属性は無属性ですな」

「はい?」


 俺は某刑事ドラマの紅茶好き眼鏡刑事のような返事をする。

 あれだけ派手な演出で8はないだろう。しかも属性は無属性ってどういうこと!?


「残念ですが、貴殿はエーテリオン魔法学園には入学できないようですな。ご両親とじっくりお話をしてください」


 試験官にいわれ、俺はフラフラとした足取りで壇上を後にした。

 周囲の男女からの視線が痛い。

 これは、アリシアとの関係を妬んだものでなく、落ちこぼれを見る侮蔑の視線だ。

 ”前世”でも受けたことのあるものだから、忘れるわけがない。


「ジュリアン! だ、大丈夫だよ。水晶の調子が悪かったかもだし、属性がなくてもきっとなんとかなるよ!」


 アリシアが励ましてくれるが、今はその励ましこそが痛い。

 水晶の調子が悪いとしても8はないだろう。

 この世界で魔力量8なんて、某アニメの戦闘力5と同じゴミだ。


「フレデリック・アイゼン! 炎属性に特化して、43万の魔力! 主席確定ですぞ!」

 

 俺が自分のことに落ち込んでいたら、双子の弟が悪の親玉みたいな魔力をはじき出していた。

 壇上から俺を文字通り見下して、鼻をフンとならしている。

 だが、フレデリックに対して睨み返すことなんてできない。

 実力差を見誤るほど馬鹿ではないのだ。


「とにかく、父上に報告と相談だな……」


 俺は重い気持ちと共に試験後のことを考えるようにした。

 異世界転移での学園ハーレムのルートはなくなったといえる。

 そうであれば、次に考えるのは冒険者の方向だ。

 しかし、5歳という年齢では冒険者登録はできないので、最低あと5年は貴族の家で過ごしたい。

 そうでなければ人生ハードモード以上を5歳からはじめないといけないのはご免こうむる。


「私からもさ、おじさまに色々いうから……ね?」

 アリシアの握ってくれた手の温かさが俺の心を少しだけ楽になった。 

 気づけば試験会場には俺とアリシアしかおらず、重い足取りで試験会場の出口へ進む。

 

「ジュリアン……無属性で、魔力8ということだったな?」


 立派なカイゼル髭を蓄えた筋肉質の男……父上であるヴィクトール・アイゼンが試験会場から出てすぐに広場にいた。

 父上の隣にはフレデリックがおり、すべて話していたことがわかる。

 目頭を指でほぐした父上は俺に向かってゆっくりと言葉を紡いだ。


「ジュリアン……悪いがお前を私の跡取りにするわけにはいかない。家督はフレデリックが継ぐものとする。その他の処遇についてはここでは話せるものではない」


 何かを耐えるような様子で温厚な父上が話をつづけた。

 馬車に入り、話を聞いたところこの世界で属性はだいたい遺伝するものらしい。

 父上は代々火属性の家系であり、母上は水属性だ。

 つまり、無属性の俺が生まれるのはおかしいのである。


「ローレライ家との婚約も解消、代わりにフレデリックがアリシア嬢との婚約者になるだろう」


 揺れる馬車の中、父上は俺とフレデリックに向けて話をしている。

 俺はうつむき、その話を聞き流すだけだ。

 反論なんかしても仕方ない。

 今はただ、早く家について重苦しい馬車から解放されたい……ただ、それだけだった。

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