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結夏本人には言わなかったけど、彼女がすっごく面白かったと言った文庫本は、ちょうど僕たちくらいの歳をターゲットにした若者向けのレーベルから出ている小説で、僕も正直言って、最近読んだ本の中だと断トツで好みだった。だけど、昨日テレビであの本が大きな話題になっていることを知ったひねくれ者の僕は、安易に好きだとは言いづらくなった。その小説が素直に好きだと言うのを、僕の心はやんわりと拒否した。
なのに、目の前の彼女はいっさい恥じることなく、昨日テレビで見て、すぐに本を買いに行って、一晩で読み終えて大好きになって、図書室にリクエストしたり図書委員になったりして、もっと皆に広めたいとまで答えたから。
実際、それが決め手だった。生まれてこの方、他人よりも本の方を大事にしてきた僕が、彼女のことを気に入った理由は。
僕は、あの本を、テレビで話題になってたからすぐに飛びついて大好きになったと、臆面もなく言える彼女の裏表の無さが、羨ましかったのかもしれない。
「今のわかったよ、は、私と友達になってくれるってこと?」
「だからそう言ってるじゃん」
「おー! 君、ぶっきらぼうだー! いけないんだー!
ま、でも今さら撤回はさせないし、こうなったら君のこと、意地でも離さないよ。好きな本の話もできそうな貴重な相手だから、なおさら、さっきの言葉は見過ごせなくなったよ。自分に友達はいないっていう発言。今に見てなよ。その腐った性根、私が治療してあげるから」
結夏は満面の笑みを浮かべて言った。
「私が君の友達になってあげる」
桜の花が舞う、四月の出来事だった。
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