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「……ふぅん」

 彼女も本を、おそらく僕と同じく活字の本を読むのが好きで共通の趣味を持っている。そういうことだろう。言葉足らずさを補って、推測をする僕に、彼女は「じゃあさ」といてきた。

「私よりも読書家の君を見込んで? ずっと前から聞いてみたかったことがあったの」

「何かな」

 突然の真剣そうな質問の予感に少し身構えた僕に、彼女はやっぱり真面目そうに言った。

「――君は、小説を読むことで得られたものを、実際の人生に生かすことはできると思う?」

 君の好きな本やジャンルはなんですか。今まで読んだ本の中で、五本の指に入る面白かった作品は。本は買って読むのかどうか。買っても読まない、いわゆる積読があるか。部屋は本で埋まっているのか。

 彼女の質問は、そんな、一瞬のうちに頭の中で想定したものからは大きく外れていた。彼女の言葉の空蝉うつせみを見失った僕は、気が抜けたように黙るしか無かった。

「もしもーし? ねぇ、何とか答えてよ」

「…………それはとても、難しい質問だね」

 僕はようやく口を開くことができた。

「はっきり言って、難題だ。君からは読書家に見えているらしい僕にとっても、深刻な問題だ」

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