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 そして、高校二年生の春、つまり今日、僕は放課後の教室で、この同じクラスの水野みずの結夏ゆいかに、あのことをバラされたくなかったら友達になって、と唐突に声をかけられていた。

「確認するけど、ブックスタンドって、僕がそういうものを買うところを目撃でもしたの?」

 僕は、あまりにも言葉足らずだった彼女の話を補うために、みずから率先して確認してあげた。

「うん。先週、君がそういうの買うところを見てたから、間違いないよ」

 彼女はこくんこくんと頷いた。そして僕にたずねた。

「雑貨屋さんの出入口で私とすれ違ったこと、覚えてるよね」

「多少は。それがどうかした?」

「私、君が可愛い猫のシルエットのブックスタンドを何個も買い物カゴに入れてお会計に直行するところ、見ちゃったんだ」

「ほう? それで?」

「ただのブックスタンドなら良かったんだよ。でもさ、はっきり言って、皆からクールそうに思われてる君には、ああいうファンシーな小物、まっったく、似合わないわけだ」

「たしかにね。僕は基本的に機能的なものを好むから」

「あー、めっちゃそう見えるね」

「ちなみに、僕が気まぐれであれを買ったのは、最近読んだ本に三冊連続で猫が出てきたからだと思うよ」

そう補足すると、彼女は手を叩いて驚いていた。

「ええ! 本をいっぱい読んでると、そんなこともあるんだねぇ。さっすが、教室でいつもひとりで本読んでるだけあるよ」

 小説の中に猫が出てくるだけなら、珍しくもなんともないし、それがたまたま三冊続いても経験上別におかしくはないけど、彼女があまりにも感激して言うものだから、黙っておいた。

 それよりも。

「僕がいつも独りで寂しそうに本を読んでるように見えるって? 君はかげでは僕のこと、そう思ってたんだな」

「別に悪い意味じゃないよっ。君が本を読んでいるの、前からよく見かけて気になってたんだ」

「…………なんで?」

 僕が自分でもびっくりするくらい、心底意外だよという声になってくと、彼女は、にしし、と頬の片側にえくぼを作って破顔した。

「私もよく読んでるんだ、本」

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