夜の街

第1話

夜の街はネオンがきらめき、雑踏の中で人々の笑い声や話し声が交錯していた。店の看板が煌びやかに光り、道行く人々は楽しそうに笑い合っていた。その喧騒の中、赤いワンピースを着た紗季は泥酔し、ふらふらと歩いていた。彼女の手には飲みかけのアルコール缶が握られ、視界はぼやけていた。道端に座り込み、一口、また一口と飲む。頭がふわふわとした気分になりながらも、心の奥底には深い孤独と悲しみが渦巻いていた。鞄の中には、致死量の錠剤が入っており、紗季は声を震わせながら「今日は葵ちゃんの命日なんだ」と呟いていた。


「私と葵ちゃんが出会った場所だ」と紗季は繁華街のネオンに照らされた薄暗い夜の公園に向かい、歩き始めた。彼女の足取りは不安定で、過去の思い出が頭の中で交錯していた。公園のベンチに腰掛け、錠剤を瓶ごと取り出し、準備を整えた。

――この寒い夜に、これだけの薬を、お酒と一緒に飲めば、やっと終われるな。――

心の中でそう思うと、「すぐ、そっちに行くからね」と、想いが言葉になって、口からこぼれた。たくさんの錠剤の入った瓶のふたを開け、震える手を口に近づけた。


その時、紗季の目に突然飛び込んできたのは、目の前を歩いて通り過ぎてゆく、白いブラウスに黒いスカートの葵の姿だった。いや、そんなはずはない。葵は死んだのだ。この目で見たじゃないか。

それは、正確には、葵と瓜二つの人影だった。理性ではそうわかっていたが、感情では理解ができなかった。紗季はその姿に向かって手を伸ばし、よろけながら歩み寄った。「葵ちゃん...?」と、半ば疑問を込めた声で呟いた。道行く人々は彼女に一瞥もくれずに通り過ぎる。紗季は、小走りに、その人の前へ行き、「葵ちゃん!」と言うと、その人は立ち止った。戸惑いの表情を浮かべ「人違いですよ」と言ったが、紗季には聞こえていなかったし、聞こうともしていなかった。


「葵ちゃん、私だよ、紗季だよ」と紗季が言うと、その人はさらに困惑し、「私は、ユウキといいます。アオイって人ではないんです」と答えた。優希は、自分が見知らぬ女性に突然話しかけられたことに驚いていたが、すぐに紗季の顔に映る深い悲しみと絶望に気づいた。紗季の瞳の中には優希自身の姿が映っていたが、そこには自分自身の絶望が重なり合い、真っ黒に映っていた。


しかし、紗季はその言葉に取り乱し「夢でもいいの。葵ちゃんとまた会えたなんて...このまま死なせて、一緒に死のう、殺してよ!」と涙を浮かべながら叫んだ。その言葉に、優希の心は揺れ動いたが、必死で拒もうとした。「だめだよ、そんなことしちゃ...」と優希は言った。紗季の美しさ、彼女の完璧な女性像が優希の心に深く突き刺さった。「あなたみたいなきれいな人が死にたいなんて、憎いよ」と、優希は独り言のように小さな声でつぶやいた。紗季には聞こえておらず、夢中になって「また葵ちゃんが欲しいよ」と呟き、優希に抱きついた。その手は、まるで恋人の身体に触れるかのように、優希の身体、胸と秘部に触れた。


しかし、その瞬間、紗季は違和感に気付いた。胸には柔らかな弾力を感じたが、秘部には違和感があり、紗季は夢見心地から覚めたようにはっとして目を見開いた。「あなた、男の子なの?」青ざめた優希は逃げようとしたが、紗季は彼の手をしっかりと掴んで離さなかった。一瞬の静寂の後、紗季は「ふふふ」と、にっこりと笑みを浮かべて「一緒に行こ?」と囁いた。二人は手をつないだまま、夜の街の暗闇へと進んでいった。

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