第31話 クリスの力
「行け!テメェら!!」
ナックルがそう声を上げると、第四支部の兵達が勢いよくクリスの方へ走り出す。
「数が多いな…」
兵達はクリスにの元へ近づくと、クリスに向け剣を振る。
クリスは軽やかな動きで剣をかわしつつ様子を伺っていた。
「死ねぇ!」
後ろから、剣を振り上げた兵士が走り込んでくる。
その時だった。
クリスの両足から煙が出始める。
「煙…!?」
クリスがその場でジャンプすると、地面は大きく陥没しあたりに衝撃が走った。
「な、なんだ!?」
クリスは空高く飛び上がり、下を向く。
「この数なら一気に終わらせた方がいいな…」
そう呟くと、クリスは腕を引きそのまま下へと降り始める。
そして、勢いよく地面に拳を放った。
「ドォォォォン!!!」
地面はさらにひび割れ、あたりに衝撃波が広がっていく。
「うわぁ!?」
「なんだ…!この威力…!!」
周りにいた兵達は吹き飛ばされ、あたりは砂煙に包まれた。
「なんだ…今のは…!!」
ナックルは驚きの顔を浮かべ、クリスを見つめる。
クリスの右手と両足はまるで熱せられた金属のように赤く光り、煙に包まれていた。
「あっちー…威力は強いけどインターバルがあるのがな…」
クリスはそう呟くと自分の右手にフーフー、と息を吹きかける。
そんなことをしている内に砂煙はどんどんと晴れていく。
晴れた砂煙の中には、先程まで立っていた第四支部の兵達が全員その場に倒れ込んでいた。
「な、何!?あの数を一撃で…!?」
先程まで大きな態度を取っていたナックルは予想外の事に驚き、その場に立ち尽くしていた。
「ふぅ…さ、次はあなたですね、ナックルさん」
「くっ…まさか能力者とは…」
「…俺の能力は自分の手足に力を溜めて一気に解放できるって能力です。一撃は強いんだけど、一回使うと十分インターバルが必要になるんで…不便ですけど」
クリスは赤く光る自分の手を見ながらやれやれと頭をさする。
(くっ…あんなの喰らったら流石の俺の鋼鉄の体も持たねぇだろうな…ここは一旦引くか…?しかし…奴は今両足と右手を使ったあと…。左手だけ警戒すりゃあ勝算はある…)
ナックルがそんなことを考えている時だった。
「おーい!ナックルさーん!!」
ナックルの後ろから、声が聞こえて来る。
振り返ると、そこにはダンテの手下の男が手を振って立っていた。
「なんだ、テメェか…なんだ!?」
「ダンテさんが一旦引くから帰って来いって言ってました!第四支部の連中は置いてっていいそうでーす!」
「一旦引くだぁ?ダンテにしちゃあ珍しいな…まぁいい、そう言うことだからよ…お前との勝負はお預けだ。じゃあな」
ナックルはそう言うと、駆け足でその場から離れていく。
「ちょ!何勝手な事言ってんだ!…つー!くそ…こんな時に足が上手く動かないなんて…代償デカすぎだよこの能力…!」
クリスはなんとか足を動かそうと力を入れるが、能力の反動で上手く足は動かなかった。
「あばよ!!」
ナックルはそう言うと、ダンテの手下の男と共に港の方へと走って行った。
「くそ!…とりあえず、コイツらを捕縛するのが優先だな…あとイリアに連絡と…」
クリスは自らの左の手の甲へ触れると、イリアの受話の印の番号を指で書き込む。
少し経って、白く光る印からイリアの声が聞こえてきた。
『………はい、こちらイリア。どうかしたの?クリス』
「えーっと…非常に言い辛いんだけど…ナックルに逃げられた」
『逃げられた…珍しいね、君がターゲットを逃すなんて』
「いやー、思ったよりも敵の数が多くて能力を考え無しに使っちゃってさ…。それに、この能力、"最近突然宿ったばかり"で慣れてなくて…」
『なるほど…君のその能力は癖があるからね、仕方ないよ。こっちはダンテを見つけた。今は対処しなかったけど、どうやら少年少女達と何か揉めてたらしい。今病院にいるから、君も来てくれる?聞き込みとかしたいから』
「ダンテか…わかった、今から病院に行く。…その前にちょっと足冷ましてから行くわ」
『分かった。それじゃあ』
「………」
「…はぁ、後は船で待ってる兵達を呼ぶか」
クリスは続けて他の番号を手の甲の印に書き込む。
『…こちら待機中二番隊。どうされました?』
「とりあえず第四支部の兵達は無力化したから捕縛に来てくれ。第四支部の前の広場にいるから、よろしく」
『本当ですか?流石です、クリスさん。直ちに捕縛に向かいます。…あれは暗黒騎士団の船!?クリスさん、暗黒騎士団の船が出港しています!追いかけますか!?』
「あー…今はとりあえず放っておこう。今の俺たちだけじゃ捕まえるのはなかなか厳しい」
『…了解しました。では捕縛にむかいます!』
「………」
「ふぅ…早く冷めてくれないな…」
クリスは座り込み、フーフーと足に息を吹きかけた。
ーーーーーーーー
「んん…」
アランは目を擦りながら体を起こす。
大きな伸びをし辺りを見ると、そこは病院の木製のベッドの上だった。
「ここは…そうか、さっきダンテにやられて…。なんか俺、最近こんな事ばっかだな…」
アランはそう呟き苦笑いを浮かべる。
隣のベッドをみると、そこにはベルの姿があった。
ベルはスー、スー、と寝息を立てながら気持ちよさそうに寝ている。
「ベルも怪我してるのか…って事はダンテと戦ったのか…?でもなんでベルが…」
そんな事を考えている時、病室のドアがガラガラと開いた。
「アラン!無事で良かったわ!」
病室に入ってきたのはリサとレオナだった。
二人はアランに駆け寄ると笑顔を浮かべる。
「リサ、レオナ…良かった、怪我は無さそうだな!」
「私達はなんとか…でも、エルザとベルが…」
「お兄ちゃん…」
レオナは心配そうにベルの手を握る。
「レオナ、大丈夫だよ。ベルは寝てるだけだ」
「本当?」
「あぁ、見たところ傷も酷くは無さそうだし」
「良かった…」
そう言うと、レオナは涙をこぼしながらベルの寝ているベッドに顔を埋める。
「優しい子なのね、レオナ…」
「だな…それで、エルザは…?」
「エルザは意識はあるんだけど…手の火傷が酷くて治療中。爆破の印を使いすぎたのね…」
「そっか…」
そんな会話をしていると、もう一人、病室に入ってきた。
三人は一斉に病室の入り口に目をやる。
「やぁ、君たち。目が覚めたんだね」
そこに立っていたのは勇者団のマントを身につけたイリアだった。
「あなたは…」
「私はイリア。勇者団本部で二番隊副隊長をやってる。レオンさんの隊って言えば分かるかな?」
「に、に、二番隊副隊長っ!?」
アランはあまりの驚きに大きな声を上げる。
その声で、ベルは目を覚ました。
「なんだよアラン…そんな大きな声出して…」
「だ、だってさ、二番隊副隊長が目の前いるんだぜ!?こんな機会なかなか無いだろ!?」
「二番隊副隊長…?あ…貴方はさっき俺たちを二人を助けてくれた…」
「そう、イリアだよ」
「ちなみに、バーで倒れてた貴方達を助けてくれたのもイリアさんよ」
「そ、そーだったのか…あ、ありがとうございます!」
「いいんだよ、気にしなくて…これも勇者団として当たり前の事だからね」
(くーっ!カッコいい!!)
アランは心の中でそう叫んだ。
「そ、そうだ!ダンテは…?」
「ダンテは逃げちゃったよ…恐らくブラウンリバーの向こう側にね。ま、あっちは勇者団本部もあるし、行ってくれたのは好都合さ」
「そうですか…」
「それで、君たちにはいくつか聞きたいことがあるんだけど…。いいかな?」
「はい、なんでも答えます」
「そう、それじゃあよろしく」
こうして、イリアによる聞き込みが始まったのだった。
続く。
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