第29話 圧倒的な力差
「おいおい…ありゃダンテさんじゃねぇか…」
「ダンテさん自ら動くなんて…一体どうなってんだ?」
先程まで騒いでいた勇者団の兵士達はコソコソと小さな声で話し始める。
「おい、お前ら。邪魔だ、出て行け」
ダンテは低い落ち着いた声で勇者団の兵士達へそう指示を出す。
「は、はい!ただいま!」
勇者団の兵士達は急いで立ち上がると、一瞬の内に店を出て行った。
「俺も逃げよ…」
それに続き、バーのマスターもコソコソっと店を出て行った。店に一気に静寂が訪れる。
「さぁ、お前らもここで死んで貰うぜ…」
そう言うと、ダンテはリサ達の方へ歩いていく。
「…っ!!」
リサ達は席を立ち、攻撃の姿勢をとって身構える。
「まずは…お前からにしてやろう、ジャカの生き残り…!!」
ダンテはエルザの方へゆっくりと近づいていく。
そんな時、店の壁に空いた穴の向こうからアランが勢いよく走って来た。
「まだまだ終わってねぇぞ!!」
「はっ、なかなかしぶといじゃねぇか…だが!」
アランがダンテに向かい剣を振ろうとした時、またしても体がまるで鉛のように重くなり思うように動かなくなった。よく見ると、ダンテの左の手の甲には黒い紋章が浮かび上がっていた。
「なんだ…これ…!能力…か!?体が…重い…!!」
「アラン!!」
リサは剣を抜き、ダンテに斬りかかろうとする。
しかし、リサも同じようにダンテの近くで突然動きを止めた。
「…っ!!体が…!!」
「バカな獲物だ…俺の"罠"に自らかかりに来るんだからよ…。おらぁ!!」
ダンテはアランの腹に思い切り蹴りを放つ。
「ぐはぁ…!」
アランはまたしても吹き飛ばされ、今度は店のテーブルにぶつかり倒れ込んだ。
「アラン!!…もう!なんで体が重くなるの…!!」
リサは必死に体を動かそう全身に力をいれる。
しかし、体はピクリとも動かない。
「さぁ、次はお前だ…!」
ダンテはリサの方へ向き歩き出す。
「させないよ!魔蛇ナーガ召喚!」
エルザは地面に両手をつける。
すると、地面に紋章が現れ、その紋章から巨大な魔蛇ナーガが二匹、勢いよく飛び出していく。
「シャァァァア!!!」
ナーガ達は大きく口を開け、ダンテの方へ向かっていく。
「はっ、またバカな獲物が捕まるぜ」
ダンテに近づいた時、ナーガ達まで動きが止まってしまった。ナーガ達は必死に動こうと体をくねらせるが、どうやら動かないようだった。
「召喚獣を出せるとはなぁ…驚いたぜ。しかも二匹とは…」
そう言うと、ダンテは背中から小型の投げナイフを二本取り出し、ナーガ達に向けて投げ放った。
投げ放たれたナイフはナーガ達の頭に刺さる。
「爆破の印」
そうダンテが呟いた瞬間、二つの投げナイフに白い星の描かれた紋章が浮かび上がる。
「なっ…!」
それを見たエルザは驚きの顔を浮かべる。
次の瞬間、紋章から火花が散り投げナイフは爆発を起こした。
「きゃあ!?」
「ナーガ達!!」
爆発に巻き込まれたナーガ達は頭部を失い、その場で黒い煙になり消えて行った。
「ジャカの生き残り、お前今なんで"付与印術"をって思ったろ?…俺は使えるもんは全て使うのがモットーでな。ジャカの印術使いのじじい…"ダンパ"とか言ったか。そいつから教わったのさ。ま、少し荒い手で聞かせてもらったがな…」
「お前…師匠に…ダンパさんに何した!!」
エルザは拳をギュッと握りしめ、憤怒した表情を浮かべダンテにそう問いかける。
「何って…少し痛い目に遭ってもらったのさ。ま、情報を聞き出すには苦痛を与えるのが一番って言うしな!ははは!!」
「ダンテ…!!お前は絶対殺す!!」
エルザは勢いよく走り出す。
「だめよエルザ!!近づいたら体が…!!」
リサの言った通り、ダンテに近づいた瞬間エルザの体は重くなる。
「ばかめ!怒りに任せて突っ込んでくるほど愚かなことはないんだよ!!」
「殺す…!!殺す!!!」
エルザは全ての力を腕に集中させる。
そして、重い両腕を思い切り上に持ち上げた。
「腕が動いた!?」
「ほう…」
「殺す!!超爆破の印!!」
「エルザ!それは…!!」
エルザの両手から、巨大な爆発が起こる。
巨大な爆発はダンテを包み込み、あまりの衝撃にリサと遠くで見ていたベルとレオナ、そしてダンテの手下達まで尻餅をついた。
「なんだ…!?一体どうなってるんだ!?」
「うぅ…」
状況を飲み込めていないクリスとレオナは、目の前で行われている戦闘をただ見つめることしか出来なかった。
ーーーーーーーー
「はぁ、はぁ…」
能力が途切れたのか、リサとエルザの体は本来の動きを取り戻す。
「エルザ、両手のひらが…!!」
リサはエルザの両腕を握り、手のひらを見る。
すると、エルザの両手のひらは前回よりも酷く焼け焦げ、指は爆発の威力であらぬ方へと曲がってしまっていた。
「うぅ…大丈夫…だよ、リサ…。ジャカの村の…仲間の苦しみに比べれば…こんなの屁じゃないよ!!」
「エルザ…」
黒く漂っていた煙が晴れていく。
「なっ!?」
「嘘でしょ…!?」
二人は驚き声を上げる。
煙の中には、無傷のまま立つダンテの姿があった。
ダンテの前には二重の円の紋章が浮かび上がっている。
「なかなかの威力だ…。"守護の印"とこの"黒耀鉄ブラックメタル"の鎧がなけりゃあ危なかったかもなぁ…」
そう言うと、ダンテの前の紋章は光になり消えて行った。
「黒耀鉄ブラックメタルの鎧…!?」
「ディオゲインのとこの傀儡職人…ベガッジに作らせた鎧だ。本当なら暗黒騎士団の幹部分作らせようとしていが…お前らのおかげでおじゃんだぜ」
(なんて防御力…こんなのどうすれば…!)
エルザは息を切らしながら、ただ呆然とダンテの方を見つめていた。
(…なんかよくわらないけど、あいつがアラン達の敵なのは確かだ。俺も戦うべきかな…?)
ベルは固唾を飲みながら様子を伺っていた。
ーーーーーーーー
「ここが第四支部みたいだ…」
「あぁ、そうだね、それじゃあ行こうか…めんどくさいけど」
「仕方ないさ、任務だし…」
イリヤとクリスは町の東側にある大きな砦のような建物、勇者団第四支部本拠地の前に立っていた。
「第四支部の連中の悪事を洗いざらい聞き出さないと…私、そう言うの苦手なんだけど…」
「俺も…。ったく、完全にレオンさんの人選ミスだよ…」
そんな会話をしている時だった。
「おうおう、さっきはよくもコケにしてくれたなぁ!」
道の向こうから歩いて来たのはナックルだった。
後ろには約二十名ほどの勇者団の兵士達を引き連れている。
「ナックルさん、どうしたんです?私たちに何か用事ですか?」
「今から第四支部の支部長の所に行くとこなんだけど」
「舐めやがって…!さっきは引き下がったがもう許せねぇ…!本拠地の連中だかなんだかしらねぇが、テメェらはここで死んでもらうぜ!!」
「ふーん…それは、私たちへの宣戦布告って捉えていいんだよね?」
「勝手に捉えやがれ…」
「なら…俺たちも手加減無しで行くよ。…第四支部の連中"全員拿捕"だ」
イリヤとクリスはニコリと笑い、ナックルの前に立った。
続く。
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